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第一章 龍の料理人
第70話
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そして食事を終え、お腹を膨らませたカミル達はその余韻を楽しんでいた。
「はふぅ~、美味しかったぁ~。料理ももちろんだけど、食後の……あれ?あのお菓子何て言う名前だったっけ?」
「シュークリームだ。」
「あぁ!!そうそうシュークリーム、あれホントに美味しかった。」
アベルは大層シュークリームが気に入ったらしい。
「いや~……これから毎日こんなのを味わえるなんて、明日が楽しみで仕方ないよ。」
アベルが惚けた表情を浮かべていると、突然彼女の後ろに伸びていた影からシグルドが現れた。
「魔王様、お迎えに上がりました。」
「うえっ!?シグルド、もうそんな時間!?」
「はい、時を忘れてお楽しみになられていたところ大変申し訳ないのですが……本日の執務がまだ残っております故。城にお戻りいただきます。」
「うへぇ~……わかったよ。……それじゃあ皆、今日はこの辺でボクは帰るね。また明日もミノルの作った料理とお菓子食べに来るから……ねっ?」
「それでは皆様方……失礼致します。」
アベルがパッチリと私にウインクしたと同時に、彼女はシグルドと共に影へと消えていった。
そしてアベルが居なくなって緊張の糸が切れたのか、カミルとヴェルの二人が大きなため息を吐いた。
「「はぁ~~~っ。」」
「どうした二人とも?そんなに大きなため息を吐いて……。」
「変に緊張したのじゃ~。」
「ね~?こう、魔王様が無礼講を認めてくれてたってのは心ではわかってるんだけど……どうしてもね。」
まぁ、二人は今の今までずっと魔王を敬っていたから、突然無礼講と言われても慣れないのは当たり前だろう。
「まぁ、多分……これから毎日来るだろうから段々に慣れてくしかないな。」
「まさか……まさか、この証明書にあんなことまで書いてあろうとは。あの時しっかりと目を通してから名を記すべきじゃったぁ~!!そうすればこんなことには~~~ッ!!」
半ば泣き崩れるようにカミルは突っ伏した。そんな彼女をヴェルがなだめる。
「まぁまぁ……あの時は私も舞い上がっちゃってたし、仕方ないわよ。終わったことをいつまでも気にしても……ねぇ?ミノル?」
「そうだな。ま、これからもカミル達に料理を作り続けられるのは保証されたからいいんじゃないか?」
「うぅ……そうかのぉ~。」
「あぁ、深く考えすぎない方がいいぞ?ただ、いつもの面子にアベルが加わった位に思っておけば良いさ。」
私も普段作る料理が少し増えた位に思っているからな。
「ま、そんなことより……一度気持ちを切り替えて、明日の予定について話し合った方がいいんじゃないか?」
「明日の予定?……おぉ!!忘れておった、そういえばエルフの国へ行かねばならんのじゃったな。」
ポンッと手を打ち、思い出したようにカミルは言った。
「それで、エルフの国に入るにはこの入国許可証ってやつが必要なんだろ?」
私はインベントリからアベルにもらった入国許可証を取り出した。
「そうじゃ。まぁ、妾とヴェルがあの森に近付けば……エルフの近衛兵の奴等が迎えてくれるじゃろう。後はそれを見せるだけじゃ。」
「なるほど……な。」
要はこの紙がパスポートの役割を果たすってことか。
そして改めて入国許可証を眺めていた時……私はある部分に違和感を覚えた。
「ん?……ん!?」
「なんじゃ?そんな焦ったような顔をして……。」
「カミル、一回カミルの入国許可証を見せてもらっても良いか?」
「別に構わんぞ?ほれ。」
カミルからそれを受け取り宛名のところに目を通すと、そこにはしっかりとカミルと書いてある。
「ヴェルのも見せてもらっても良いか?」
「いいわよ?」
ヴェルの入国許可証も確認するが、やはり宛名にはヴェルとしっかり彼女の名前が書いてある。
「なんじゃ?不備でもあったかの?」
「いや……不備なのか、意図的なのかわからないんだが。私の入国許可証の宛名には人間って書いてあるんだ。」
「「ッ!!」」
「見せるのじゃ!!」
バッ……と私から入国許可証を奪い取り、カミルはそれに目を通す。そして頭を抱えた。
「最初からお見通しじゃった……というわけか。」
「これは完全にしてやられたわね。」
「私が人間ってことが最初からアベルにバレてたってことか?」
「そうじゃな。しかも……こいつを受け取ってしまったということは、お主は自分が人間であると認めてしまったようなものじゃ。」
「…………だとしたら、何でアベルはあの時私を逃がしたんだ?」
ふと私は疑問に思った。あの場で私を拘束することだってできたはず。なのに、なぜこんなあっさりと逃がしたのか。そしてなぜ……人間の私を専属料理人に仕立てあげたのか。
「その答えは妾達にはわからぬ。魔王様のみぞ知る答えじゃ。じゃが、何の考えも無しにお主を逃がしたわけではなかろう。」
「だよな……。」
はぁ~……まさか自分から聞きに行く訳にもいかないし、どうしたものかな。
少し俯きながら悩んでいると、暗い空気をはぐらかすようにヴェルが言った。
「まぁまぁ、今のところ私達もお咎めを受けてないし?まだ楽観的に考えてて大丈夫なんじゃないかしら?」
「そうかもしれんな。確かにミノルが人間であることがバレている以上、それを庇っている妾達も咎めを受けるのは必定じゃからな。」
「……今は深く考えるだけ無駄か。」
私はある場所に行くため、スッと席を立った。
「む?ミノル、どこへ行くのじゃ?」
「湯に浸かってちょっとゆっくり考えてくるよ。」
ちょうど今日の私の仕事も終わったしな。暖かい湯船に浸かって色々と状況を整理しよう。
「はふぅ~、美味しかったぁ~。料理ももちろんだけど、食後の……あれ?あのお菓子何て言う名前だったっけ?」
「シュークリームだ。」
「あぁ!!そうそうシュークリーム、あれホントに美味しかった。」
アベルは大層シュークリームが気に入ったらしい。
「いや~……これから毎日こんなのを味わえるなんて、明日が楽しみで仕方ないよ。」
アベルが惚けた表情を浮かべていると、突然彼女の後ろに伸びていた影からシグルドが現れた。
「魔王様、お迎えに上がりました。」
「うえっ!?シグルド、もうそんな時間!?」
「はい、時を忘れてお楽しみになられていたところ大変申し訳ないのですが……本日の執務がまだ残っております故。城にお戻りいただきます。」
「うへぇ~……わかったよ。……それじゃあ皆、今日はこの辺でボクは帰るね。また明日もミノルの作った料理とお菓子食べに来るから……ねっ?」
「それでは皆様方……失礼致します。」
アベルがパッチリと私にウインクしたと同時に、彼女はシグルドと共に影へと消えていった。
そしてアベルが居なくなって緊張の糸が切れたのか、カミルとヴェルの二人が大きなため息を吐いた。
「「はぁ~~~っ。」」
「どうした二人とも?そんなに大きなため息を吐いて……。」
「変に緊張したのじゃ~。」
「ね~?こう、魔王様が無礼講を認めてくれてたってのは心ではわかってるんだけど……どうしてもね。」
まぁ、二人は今の今までずっと魔王を敬っていたから、突然無礼講と言われても慣れないのは当たり前だろう。
「まぁ、多分……これから毎日来るだろうから段々に慣れてくしかないな。」
「まさか……まさか、この証明書にあんなことまで書いてあろうとは。あの時しっかりと目を通してから名を記すべきじゃったぁ~!!そうすればこんなことには~~~ッ!!」
半ば泣き崩れるようにカミルは突っ伏した。そんな彼女をヴェルがなだめる。
「まぁまぁ……あの時は私も舞い上がっちゃってたし、仕方ないわよ。終わったことをいつまでも気にしても……ねぇ?ミノル?」
「そうだな。ま、これからもカミル達に料理を作り続けられるのは保証されたからいいんじゃないか?」
「うぅ……そうかのぉ~。」
「あぁ、深く考えすぎない方がいいぞ?ただ、いつもの面子にアベルが加わった位に思っておけば良いさ。」
私も普段作る料理が少し増えた位に思っているからな。
「ま、そんなことより……一度気持ちを切り替えて、明日の予定について話し合った方がいいんじゃないか?」
「明日の予定?……おぉ!!忘れておった、そういえばエルフの国へ行かねばならんのじゃったな。」
ポンッと手を打ち、思い出したようにカミルは言った。
「それで、エルフの国に入るにはこの入国許可証ってやつが必要なんだろ?」
私はインベントリからアベルにもらった入国許可証を取り出した。
「そうじゃ。まぁ、妾とヴェルがあの森に近付けば……エルフの近衛兵の奴等が迎えてくれるじゃろう。後はそれを見せるだけじゃ。」
「なるほど……な。」
要はこの紙がパスポートの役割を果たすってことか。
そして改めて入国許可証を眺めていた時……私はある部分に違和感を覚えた。
「ん?……ん!?」
「なんじゃ?そんな焦ったような顔をして……。」
「カミル、一回カミルの入国許可証を見せてもらっても良いか?」
「別に構わんぞ?ほれ。」
カミルからそれを受け取り宛名のところに目を通すと、そこにはしっかりとカミルと書いてある。
「ヴェルのも見せてもらっても良いか?」
「いいわよ?」
ヴェルの入国許可証も確認するが、やはり宛名にはヴェルとしっかり彼女の名前が書いてある。
「なんじゃ?不備でもあったかの?」
「いや……不備なのか、意図的なのかわからないんだが。私の入国許可証の宛名には人間って書いてあるんだ。」
「「ッ!!」」
「見せるのじゃ!!」
バッ……と私から入国許可証を奪い取り、カミルはそれに目を通す。そして頭を抱えた。
「最初からお見通しじゃった……というわけか。」
「これは完全にしてやられたわね。」
「私が人間ってことが最初からアベルにバレてたってことか?」
「そうじゃな。しかも……こいつを受け取ってしまったということは、お主は自分が人間であると認めてしまったようなものじゃ。」
「…………だとしたら、何でアベルはあの時私を逃がしたんだ?」
ふと私は疑問に思った。あの場で私を拘束することだってできたはず。なのに、なぜこんなあっさりと逃がしたのか。そしてなぜ……人間の私を専属料理人に仕立てあげたのか。
「その答えは妾達にはわからぬ。魔王様のみぞ知る答えじゃ。じゃが、何の考えも無しにお主を逃がしたわけではなかろう。」
「だよな……。」
はぁ~……まさか自分から聞きに行く訳にもいかないし、どうしたものかな。
少し俯きながら悩んでいると、暗い空気をはぐらかすようにヴェルが言った。
「まぁまぁ、今のところ私達もお咎めを受けてないし?まだ楽観的に考えてて大丈夫なんじゃないかしら?」
「そうかもしれんな。確かにミノルが人間であることがバレている以上、それを庇っている妾達も咎めを受けるのは必定じゃからな。」
「……今は深く考えるだけ無駄か。」
私はある場所に行くため、スッと席を立った。
「む?ミノル、どこへ行くのじゃ?」
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