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第一章 龍の料理人
第44話
しおりを挟む「お待たせ~。これでバッチリでしょ?」
しっかりといつも通りのストレートヘアに整えてきたヴェルが私達のもとに戻ってくる。
「あぁ、バッチリだな。」
「あの爆発した髪もなかなか良いものじゃったぞ?くっふふふ。」
クスクスとカミルはさっきの酷い寝癖がついたヴェルの姿を思いだし笑っている。
「冗談じゃないわ!!あんな姿で人前になんて出られないわよ。っとほらほら、そんなことはいいから。今日は何処に行くの?」
「今日は海街へ連れていって欲しい。今日は魚料理にしようと思ってな。」
「海街……ねぇ~。一番良いのは多分ウルジアなんだろうけど、あそこは……。」
「ウルジアはダメじゃ。あそこはウルが支配しておる街じゃろ?」
「そうよねぇ~。だとすると後は……。」
二人は頭を悩ませる。
「どうしてその、ウルジア?ってところはダメなんだ?」
「あぁ、ミノルは知らないものね。ウルジアには私達と同じ五龍の水龍ウルってやつがいるのよ。」
「なるほど……な。理解した。」
私がヴェルの説明に納得していると、私の隣でマームが驚いた表情を浮かべていた。
「カミルとヴェルって……五龍だったの?」
「「今頃!?」」
首をかしげながら問いかけたマームに、カミルとヴェルの二人は口を揃えて言った。
「うん、全然五龍って感じしなかった。面白いし、優しかったから……。」
「……ねぇカミル。私達ってもっと……こぅ五龍らしくした方が良いのかしら?」
「そうかもしれんのぉ~ヴェル。」
露骨に二人は落ち込んだ。余程五龍と見なされていなかったのがショックだったらしい。
「……別に今のままでいいと思うけどな?」
「……?それはどういうことじゃ?」
「だってカミルはカミルだし、ヴェルはヴェルだろ?別に優しくて面白い五龍が居てもいいじゃないか。」
もしもカミルが他の五龍のように暴虐の限りを尽くすような存在であれば……私は初めてカミルに会ったあの時に殺されていたかもしれないしな。
「私もカミルとヴェルはそのままでいい……と思う。」
「む、むぅ……まぁそうなのかのぉ~。」
「そこまで言うのなら……このままでいいかしらねっ。」
私とマームの説得で何とかこの場は収まった。
「さて、話を戻そうか。」
「そうじゃな。ウルジア以外で海街といったら後はボルドぐらいじゃろ。」
「そうね、なら今日の行き先はボルドに決まりっ。」
なんやかんやあったが、無事行き先も決まりみんなで中庭に出ると……。
「今日は私がミノルのことを運んであげるわ。」
ドラゴンの姿に戻ったヴェルが私の事を軽く持ち上げた。それを見たカミルが不満そうに言った。
「む、ヴェル!!その役目は妾のものじゃ。」
「あら、いいじゃない?別に減るもんじゃないんだし~?そ・れ・に……。」
不満を口にするカミルにヴェルはにんまりと悪魔的な笑みを浮かべる。
「ミノルが欲しいなら私を捕まえればいいじゃない?ねぇ~カミルッ!!」
そう挑発的に言った次の瞬間にはヴェルは音もなく大空に舞い上がった。
「おおッ!?」
「さぁ行くわよミノル。音を越えた速さってのを体験させてあげるわ。」
ヴェルが一つ羽ばたくと、下に見える景色が一気に置き去りになる。
マッハを越えるスピードの戦闘機とかから見る景色はこんな感じなのだろうか?
もはや下に何があるのかすらもわからない。ヴェルのとてつもないスピードに呆気にとられていると、遥か後ろからカミルの声がした。
「待つのじゃ~!!」
「ふふふっ、このぐらいだとまだカミルでも追い付いてこれるんだ。……ならもう少し本気を出してもいいかしらねっ。」
「こ、これでまだ本気じゃないのか!?」
「あったり前よ~。私を誰だと思ってるの?風迅龍の名は伊達じゃないのよ!!」
更に一つヴェルが羽ばたくと、その瞬間にドン……という大きな音がした。そして先ほどとは比べ物にならないほどのスピードに一気に加速する。
「あっははは~!!やっぱり全力で空を飛ぶのはさいっ……こうに気持ちいいわね~。」
とてつもない速度で飛びながらヴェルはさぞかし楽しそうに私の上で笑う。
その次の瞬間だった……。
「あっ……と!!危ない危ない。」
「うっ!?ぐっ……。」
突然ヴェルが急停止したのだ。その瞬間私の体にとてつもないGがかかり、まるで肺が押し潰されたような感覚に陥った。
「危うく通りすぎちゃうところだったわ~……ってミノル?大丈夫?」
「ゲホッ…ゲホッ……な、何とかな。」
こ、これからはカミルにお願いしよう。肺が潰れるかと思ったぞ。
咳き込みながらも、大きく息を吸って肺に酸素を取り込む。こうでもしないと苦しくて仕方がない。
そして私がゆっくりと大きく呼吸している最中にヴェルは降下し、地面に降り立った。
「と~ちゃ~っく……っと。どうだったかしらミノル、私のこの飛行は?」
「あぁ……いろんな意味ですごかったよ。」
「ふふふ~そうでしょそうでしょ~?私の速さに勝てるヤツなんていないんだから!!」
人の姿に変身したヴェルは大きく胸を張って言った。
「さっ、後はカミル達が来るのを待ちましょ?多分もうちょっとかかるわ。」
「あぁ、そうだな。」
そしてカミル達を待つこと数分後……ぜ~ぜ~と息を切らしたカミルとマームの二人が私達の前に降り立った。
「と、飛ばしすぎじゃヴェル……。」
「く、来るだけで疲れた。」
「あら、でも途中まで着いてきてたじゃない?良く頑張った方よ~。さっ、皆揃ったことだし……行くわよ~。」
唯一とても元気なヴェルは意気揚々と私達の前を歩き、目の前に聳える街へと歩いていった。
私を含めた三人は重い足取りでその後に続くのだった。
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