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第三章 終焉を呼ぶ七大天使
第170話 夢か現か
しおりを挟む「…………はっ!?」
巨大な東雲に呑み込まれた瞬間、ルアの意識が現実に戻ってきた。外を見れば既に朝陽が昇っており、朝であることが見てとれた。
今まで見ていたのが夢だったのか……はたまたまた何か別なものなのかと、ルアが困惑していると彼のとなりでくつくつと楽しそうに笑う声が聞こえてきた。
「くくくくく、ようやくお目覚めかルアよ。」
「し、東雲さん!!」
くつくつと笑っていた者の正体は東雲で、今は人の姿ではなく、狐の姿になっていた。
「ずいぶんと魘されていたが……悪い夢でも見たか?」
「……おっきな東雲さんに食べられる夢を見ました。」
「くくくくく♪そうかそうか、夢で妾に喰われたか。」
さぞかし愉快そうに東雲は笑う。そして少し不機嫌そうな表情を浮かべるルアに歩み寄ると、人の姿へと化け、彼にぐいっと顔を近づけた。
「今度は夢ではなく……現で食ってやろうか?」
「ひぅっ!?」
耳元でとんでもないことを囁いた東雲にルアの表情が凍りつく。そんなルアの反応を楽しむように東雲は笑う。
「くくくくく♪なぁに冗談だ。この世界でただ一人の♂を喰うことはせぬ。……別の意味で喰うことはあるやもしれんがな。」
散々ルアのことをからかい満足したのか、東雲はベッドから降りスタスタと部屋の外へと行ってしまった。
「行っちゃった……結局あれは夢…………だったのかな?」
東雲にぱっくりと食べられてしまったときの記憶……。生暖かく、ぬるりとして、甘い香りの漂っていた彼女の口内の感触……。そのどれもがまるで本当にあれを体感したかのように鮮明にルアは覚えていた。
故に、未だにあれが夢であると信じられずにいたのだ。
だが、いつまでもベッドの上で考え込んでいるわけにもいかず、一先ず今のところは夢だと思い込むことにしたようだ。
そして寝癖を直し、身支度を整えて部屋の外へと出ようとしたとき……廊下から声が聞こえてきた。
「ほ~ら~っ、抵抗しないっ!!時間はないんだから早く行くわよ。」
聞こえてきたのはアルのハキハキとした声だった。それと共に何かをズルズルと引きずっているような音も聞こえてくる。
恐る恐るルアがそっと部屋のドアを開けると、目の前をアルが通りすぎていく。そして彼女の後ろに、引きずられるようにして真琴とミリア、クロロの三人が通りすぎていった。
「ど、どこに行くんだろ……。」
異様な雰囲気に気圧され、声をかけることもできずにルアが彼女達を眺めていると、不意にアルがパチンと指をならした。すると、彼女達はどこかへと消えてしまった。
「い、行っちゃった……。」
「そんなドアの隙間で何をしているのだルア?」
「ふぁっ!?ろ、ロレットさん!?」
突然ロレットに後ろから声をかけられ、ビクゥッ!!と体を震わせるルア。
そんな彼に申し訳なさそうにロレットは謝った。
「す、すまない、驚かせてしまったようだ。」
「あ、だ、大丈夫です……。」
「そうか、ならいいのだが……。あ、あぁそうだ。それで、いったい何をしていたのだ?」
「アルさん達どこに行くのかな……って思って見てたんです。」
「あぁそういうことか。」
納得したような様子のロレット。すると、彼女はルアが疑問に思っていたことを教えてくれた。
「なにやら真琴達は追加で修行があるらしい。」
「追加で修行……ですか?」
「うむ、修行ならば我も……と思ったんだが、残念なことにアルにダメだと言われてしまった。」
残念そうにロレットは言った。
どうやらアルに連れられていったあの三人は、まだ追加で修行があるらしい。
「でも、どうして真琴さん達……追加で修行に呼ばれたんですかね?」
「それに関しては我もわからんが……アルはただ足りないとだけ言っていたな。」
「足りない……ですか。う~んよくわからないですね。」
「うむ、まったくだ。」
アルの意味ありげな言葉に首をかしげる二人。
「おっと、人のことを気にしている場合ではないな。今日はエナと共に修行をする予定なのだ。」
「あれ?お母さんとじゃないんですか?」
「由良は東雲とどこかへ行ってしまったからな。今日はエナに付き合ってもらうことにしたのだ。」
「東雲さんとお母さんが……一緒に…………。」
そしてロレットと別れた後、ルアが食堂へと向かうと、そこにはルアの分の朝食と置き手紙が残されていた。
『東雲さまと修練に出掛けてくるのじゃ。残さず食べるのじゃぞ~?』
置き手紙にはそれだけ書いてあった。それを読んだルアは不安そうにポツリと呟いた。
「お母さん……大丈夫かな。」
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