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第二章 呪われた運命
第150話 天使の奥の手
しおりを挟む「くっ……こんなムシケラごときにィッ!!」
東雲達を前にした天使は悔しそうに叫ぶ。そんな天使を前にして東雲はクスリと笑いながら口を開いた。
「くくくくく、そのムシケラに苦戦を強いられている貴様はムシケラ以下だな。」
「ぐぐぐぐッ……情けない、情けないっ、情けないッ!!私は主神に認められた天使だっ!!私はァ……貴様らごときに負けるような存在ではなっ…………い゛ッ!?」
髪をかきむしり、血涙を流し、叫んでいた天使の脇腹に東雲の細い足が深くめり込んだ。
「五月蝿い喚くな。」
その細い足から繰り出されたとは思えない威力の蹴りで、天使は空から地上へと墜ちる。
「カハッ!!ゴホッゴホッ…………。」
「無様だな。……どうだ?ムシケラと呼び見下していた者に、見下ろされる気分は。」
「ムシケラがァっ!!」
天使は覇気で辺りを漂っていた土煙を吹き飛ばすと、怒りに満ちた表情で口を開いた。
「自動修復……起動っ!!」
天使がそう叫んだ瞬間、東雲達の攻撃によって傷付いていた体がみるみるうちにもとの状態へと戻っていく。
その異変に東雲達は目を細めた。
「なんだ……あれは。回復魔法のようにも見えるが……回復速度が異常だ。」
「魔力も使ってないみたいやし、不思議なもんやねぇ~。」
「まぁ、普通の天使には無い……奥の手ってやつなんじゃないの?」
そして体が完全に修復された天使は、ギロリと上空にいる東雲達を睨み付けた。
「今殺してやるぞ……ムシケラァっ!!」
「っ!!来るぞっ!!」
先程とは明らかに雰囲気の違う天使が迫ってくる。とてつもない速度で迫り来る天使に向けて東雲は魔法を詠唱する。
「穿て……雷閃。」
東雲が天使へと指先を向けると、魔法陣から落雷と見まごうほど大きな雷が天使へと向かって放たれた。
雷は約光の1/3の速さで地上へと降り注ぐと言われているが、東雲の放ったそれは高密度の魔力によって威力も速度も魔改造されている。
故に、ほぼ光と同速で東雲が放った雷閃は直撃した。たとえ天使と言えど光の速さで迫ってくるものを避けることはできなかったらしい。
雷閃が天使に直撃すると同時に、黒煙が辺りにぶわりと広がる。その中から無傷の天使が姿を現した。
「おぉ、あれをマトモに喰らって無傷か。」
「アハハハハハッ!!ムシケラの抵抗など最早無意味だ!!私の肉体は永遠に再生を続ける。」
愉悦に浸り笑う天使。そんな彼女の背後で声が響く。
「あはっ♪じゃあ首を落としたらどうかな?」
ミリアは手にしていた深紅の大鎌で天使を一閃する。彼女の手には確かに首を切り落とした感触があったが、天使の首は繋がったままだった。
「無駄だと言っただろうムシケラ。」
「ありゃりゃ……確かに切った感触はあったんだけどね。」
確かにミリアの大鎌の刃は天使の首を一度切り裂いた。だが、ミリアはその目で刃が通過した部分から、すぐに癒着が始まっていたのを目の当たりにしていた。
「やれやれ、面倒なことになっちゃったな~。」
「面倒ならば……ここで死ねッ!!」
クルリと振り返った天使は右手に光を宿し、ミリアの心臓めがけて突いた。だが、攻撃が当たる直前にミリアの体は無数のコウモリへと変貌を遂げ、天使の攻撃を回避した。
「危ない危ない、そんなの喰らったら流石の私でも死んじゃうかもね~。」
「小癪な……だが、実にムシケラらしいな。貴様らにはそんな風に逃げ惑う姿が似合っているぞ。」
先ほどまで怒りに満ちた表情を浮かべていた天使は、いつしかその表情に余裕さが戻っていた。
しかし、次の瞬間には天使は東雲達の表情を見て再び怒りの炎を燃やすことになった。
「貴様ら……なぜ笑っているっ!!」
「おや?笑っているように見えたか?」
天使の目に写った東雲達は妖しく薄ら笑いを浮かべていたのだ。本来彼女が思い描いていたのは、絶望と恐怖に支配された表情だったのだが……そんな予想とはまったく違い東雲達は笑っていた。
「んふふふ、こんなん笑うなちゅう方が無理やわぁ。」
「あははっ♪そうそう、例えるなら……どれだけ乱暴に扱っても壊れない玩具を手にいれたみたいな気持ち。すごく楽しいよねぇ?」
「っ!?」
三人の妖しい笑みに、天使は初めて背筋にゾクリと冷たいものが走るのを感じた。それは天使が初めて感じた恐怖という感情だったのだが、それがどんなものかを知らない彼女には、それが何かを知る術はなかった。
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