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第二章 呪われた運命

第140話 帰ってきた二人

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 陽射しが橙色に染まり、夜の帳が降りようとしているにも関わらず、東雲とリリィは未だに帰ってきていなかった。

「二人とも……どこまで行っちゃったんだろ。もう夜になっちゃうよ。」

 自室のベランダから中庭を見下ろすのはルアだ。二人の帰りがあまりにも遅いため、心配らしい。

 そして彼が中庭を眺めていると、中心に突然光を放つ魔法陣が現れた。

「あっ!!」

 それを見たルアは急いで自室を飛び出し、中庭へと向かう。
 ルアが中庭にたどり着くと同時に、魔法陣の中から二人の人影が現れた。

「東雲さん、リリィっ!!」

「む?出迎えかルア、気が利くではないか。」

「ルア……ただいまっ!」

 帰ってきた二人にホッと安堵のため息を吐き出したルアだったが、リリィの姿が帰ってくる前と今で明らかに違うことに気がついた。

「り、リリィ……その足…………。」

「どう?ルアと……同じ。」

「す、すごいよリリィ!!ど、どうやったの?」

「東雲に手伝ってもらった。」

 嬉しそうに微笑みながら、リリィはクルリと回って見せる。そしてルアに歩み寄ると、ずいっと頭を差し出した。

「んっ!」

「あはは……わかったよ。」

 リリィの意図を察したルアは彼女の頭を撫で回す。

「ふふっ♪リリィ……これ好き。」

「……体は大人でも心は未だ童か。」

 リリィの姿を見ながら東雲はポツリと呟く。姿を見ながら……とは言っても東雲の視線は、リリィの胸へと向けられていた。
 そして東雲は自分の胸に手を当てて大きなため息を吐き出した。

「……くっ、どうして妾の胸には栄養がいかぬのだ。己の体が怨めしい……。もしや尻尾に栄養がいっておるのか!?」

 東雲は腰から生えている九本のうちの一本の尻尾を手にしてじっ……と眺める。
 そんな東雲の様子を不思議に思ったのか、リリィが首をかしげた。

「東雲……そんなに尻尾見つめて……どうしたの?」

「何でもない。」

 パッと東雲は尻尾から手を離すと、ルアに向かって近付き、彼の顔を引き寄せて耳元で話し始めた。

「おいルア。お前……発育に良い食べ物は知らんか?」

「へ、へっ?発育……ですか?」

「発育といっても身長ではないぞ。この胸のことだ。」

 思わぬ問いかけにルアは困惑するが、彼は東雲が自分の胸にコンプレックスを抱いていることを薄々気が付いていたため、すぐに理解した。

「えっと……ボクの知ってる範囲だと、大豆とかリンゴとか……あとナッツを食べると良いらしいですよ?」

 前世に培った知識でなんとか彼は東雲の問いかけに答える。

「大豆にリンゴはわかる。……だがナッツとはなんだ?」

「な、何て言えばいいかな……えっと、胡桃くるみみたいなものです。」

「そうか。…………ルア、お前明日一日予定は空けておけ。いいな?」

「え、は、はい……。」

 それだけ言うと東雲は城の中へと入っていってしまった。

「ルア……東雲と何話してた?」

「あ、何でもないよ。明日のボクの修行について話してたんだ。」

 咄嗟にルアはリリィに嘘をつく。まさか東雲に胸のことで相談を受けていたとは、口が裂けても言えなかったのだ。

「そう……。」

 しかし、リリィは全く疑う様子はなく、彼女はルアの手を取った。

「ルア……リリィお腹すいた。ご飯……食べたい。」

「うん、ちょうど皆今からご飯食べるところだったから、リリィも行こう。」

「うん!」

 そして二人は手を繋ぎながら、ゆっくりと食堂へと向かったのだった。













 今日もまた一日が終わり、完全に夜の帳が降りた真夜中のこと。
 皆が寝静まっている最中、動き出すものが一人いた。

「……くくくくく、良いことを聞いたぞ。」

 音もなく東雲はルアのベッドから抜け出すと、人の姿へと変化した。そして彼女は食材が大量に保管されている食堂へと向かう。

「ルアのやつは大豆とリンゴが良い……と言っていたな。」

 食堂にたどり着いた東雲は、冷蔵庫の中をごそごそと漁り始め、あるものを手に取るとニヤリと笑った。

「大豆はそのまま食う気にはならんが、リンゴなら話は別だ。」

 東雲が手に取ったのは真っ赤な艶のあるリンゴ。彼女はそれに勢いよくかぶりついた。

「んっ……くくく、リンゴは久方ぶりに食ったがうまいものだ。」

 しゃくしゃくと小気味の良い音をたてて、あっという間に東雲はリンゴを一つ完食してしまう。

「……まだまだリンゴは残っているな。」

 そして東雲はもう一つリンゴを手に取った。

「くくくくく、見ていろクロロ……これで妾は貧乳から一抜けだ!!くくくくく……くははははっ!!」

 その後夜遅くまで食堂ではしゃくしゃくと小気味の良い音が響いていた。
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