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第二章 呪われた運命

第129話 捕食者の視線

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 なんとかクロロとエナから逃げれたルアは、城の中の自室で息を荒げていた。

「はぁ……はぁ……な、何とか逃げれた。」

 息を整えながらルアはベッドに横になる。気づけば隣に東雲の姿はない。どうやら修練に出かけたようだ。そして自室に誰もいないことを確認してホッと息を吐き出した。

「ふぅ……。」

 ベッドに仰向けに寝転んだルアは先ほどクロロ達が言っていたことを思い返していた。

「ここにボクのことが嫌いな人はいない……かぁ。」

 今思えば、ここに集まってくれている人たちというのは大半がルアを守るために集まってくれている。それはルアのことが嫌いであればありえない。
 
「……なんか馬鹿なこと聞いちゃったなぁ。」

 改めてよく考えてみると、自分がしていた質問は彼女達の気持ちを考えていなかったことに気が付いたルア。
 彼女達の側になって考えてみれば、ルアがしていた質問をされれば、ルアが自分に嫌われていると思っている……という考えに至る。

 よく考えればすぐにわかることだった。自分のわがままな疑問を解決するために、身近な人達を傷つけかねなかった。
 
「もう、聞くのはやめよう。」

 これ以上誰かに聞くのは野暮……そうわかったルアは、頭から先程のことを振り払いベッドから起き上がる。

「修行に行かないと……。」

 今日の修行に行くために部屋を出ようとするルア。扉を開けると、むにゅん……と何かにぶつかった。

「んむっ!?」

「おはようルア。」

 ルアの部屋の扉の前に立っていたのはロレットだった。つまり、ルアがぶつかったのはロレットの胸である。

 慌ててルアはロレットの胸から顔を引き剥がそうとすると、ロレットはそれを逃がさずルアのことをぎゅっと抱き締めた。

「クロロ達から聞いたぞ?自分が嫌われていないか不安らしいな。」

「むぅっ!?」

 ルアの頭の上からロレットがそう言った。どうやらクロロ達から話を聞いて駆けつけてきたようだ。

「お前は自分の魅力というものにまだ気が付いていないのだな。そして自分の価値にも……。」

 そしてロレットは話し始める。

「今現在……この世にメスという存在は数多く存在している。だが、♂という存在はルア……ただ一人なのだぞ?それがどういうことかわかるか?」

「んむぅっ……。」

 ロレットの質問に答えたい気持ちは山々だが、ルアの口はロレットの胸に押し付けられているため、言葉を話すことができない。

「この世に子を為したいと思っているメスがどれだけいると思う?とてもじゃないが数えきれん。子を生むことに飢えている者達がルア……お前の存在を知ったらどうすると思う?……答えは是が非でも番いになりたいと思うのだ。そう……。」

 ロレットはより一層ルアのことを強く抱き締める。そしてそれと同時に、より強く……ロレットのほのかに甘い匂いがルアの鼻腔を支配していく。

「逆に聞こう……ルア、お前は我のことが嫌いか?」

「んむぐっ!!」

 ふるふるとルアは必死に首を動かせるだけ横に振った。

 そんな彼の反応を見て、ロレットは背中をゾクゾクと何かが突き抜けていくのを感じた。そして心がドクン……と脈打つ。
 そのロレットの心の鼓動は、密着しているルアにも伝わってきた。彼にはそれがなんなのかは知るよしも無かったが……。

「フフフ、そうか……そうか。」

 満足そうにロレットはクスリと笑うと彼のことを手離した。

「ぷはっ!!」

「乱暴なことをしてすまなかった。だが、ルアがそんなことを気にしているとあっては居ても立っても居られなくなったのだ。」

「ぼ、ボクの方こそごめんなさい……。もっとみんなのこと考えるべきでした。」

「謝らなくて良い。我らは過ちを犯して成長するものだ。これも経験と思って割り切るのだ。」

「ろ、ロレットさん……。」

 優しくロレットはルアの頭に手を置いて言った。

「にしても……どうしてそんなことを思ったのだ?我らが何か不快なことをしたか?」

「あ、えと……そうじゃなくて実は……。」

 ルアは事情をロレットに説明する。すると、彼女は一つ大きく頷き、ルアの目をじっと覗いて問いかける。

「……で?いるのか?想い人は……。」

「わ、わかんないです……。ボク、恋とかそういうのわかんなくて……だからっ……んむっ!?」

 ルアが話している途中でロレットは優しく彼のことを抱きよせた。それは先程とは違い、とても母性的で心地よい包容感があるものだった。

「それ以上は言わなくていい。事情はわかったからな。」

「は、はい……。」

 優しくルアのことを抱き締めていたロレットだが、その目には先程のエナ同様に獰猛な何かが潜んでいた。

(フフフ…………未だ想い人は定まらずか。これは思わぬ収穫だ……。)
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