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第二章 呪われた運命
第102話 嫉妬
しおりを挟む「すまなかったのじゃ……。」
ルアの目の前にはベッタリと床に額を擦り付け、いわゆる土下座の姿勢をとっている由良の姿があった。
あれから数時間後……正気を取り戻した由良は自分が何をしでかしていたのかを改めて目にすると、ルアのことを解放し今に至る。
「そ、そんなに謝らなくて良いよ。別に怒ってないし……だから頭をあげてよ。」
「うぅぅ……ルアは優しいのじゃ。こんなに優しい子をもったわしは幸せ者じゃぁ……。」
申し訳なさそうに由良は顔をあげた。
「そ、それにしても……さっきまでまるでお母さん別人みたいだったけど、あれは何だったの?」
ルアがそう問いかけると、由良は少し顔を赤くしながらボソリと小さい声で答えた。
「は、発情期だったんじゃ……。」
「あ、そ、そういうことだったんだ。」
発情期という言葉を聞いてルアは先ほどまでの由良の行動すべてに納得がいった。
「な、なんか……そのボクもごめんなさい。お母さんが発情期なんて知らなくて……。」
「ルアが謝る必要はないのじゃ!!わしが今こうして正気を取り戻せたのはルアのお陰でもあるのじゃぞ?」
「ボクのお陰?」
「うむ、本来ならば数日ほど続くはずだったのじゃが……良くも悪くもルアの体に溜まっていたものを吐き出した結果、こんなに早く治まったのじゃ。」
「そ、そうだったんだ……(な、なら……良かった……のかな?)」
結果的に自分が由良の事を救った……という事実を知り、少し気持ちがホッとした反面、次からは気を付けようとルアは決心していた。
「それにしても……発情期なんざここ数十年来ていなかったというのに、なぜ今になって…………。」
由良はなぜ今まで抑えられていた発情期が今になって訪れたのか、不思議でならないようで、頭を悩ませていた。
そんな時……
「くくくくく、随分と簡単なことで頭を悩ませているようだな。」
「なっ!?」
「あっ!!東雲さんっ!!」
突然東雲の声がしたとおもえば、由良の背後にくつくつと妖しげに笑う東雲の姿があった。
ルアはベッドから立ち上がり、東雲に向かって詰め寄った。
「東雲さん……お母さんが発情期だって知ってたのに、何でボクに教えてくれなかったんですか!!」
「くくくくく、強いて答えるのなら……その方が面白い結末になりそうだったからな。それで?どうだった?初めては由良に捧げたのか?」
「そ、そんな事までは……し、してないのですじゃ!!」
ルアより先に我慢ができなくなった由良がそう答えると、東雲は残念そうに呟いた。
「なんだ……ヤってないのか。面白くないな。」
「そ、それで……わしが発情期になった理由を東雲様は知っておるようですが。」
「うむ、知っている。いつかはなるだろうと予想もしていたぐらいだ。……ただ妾の予想よりも少し早かったがな。」
「で、では理由を教えていただけませぬか!?」
由良が必死の形相で東雲に頼み込むと、東雲は少し困惑した表情を浮かべながらも、由良にあることを問いかけた。
「ふ~む……由良よ。本当に自覚は無いのか?」
「な、なんの自覚ですじゃ?」
「ふむ、今の答えで良くわかった。……では簡単にお前の疑問に答えてやろう。」
ピョンと東雲はルアの頭の上に飛び乗ると、ルアの頭を前足でポンポンと叩きながら言った。
「お前に発情期が訪れた理由……それは嫉妬だ。」
「し、嫉妬ですと!?わしが!?」
「うむ、自覚はないだろうが……恐らく母親として、そして一匹のメスとしての本能なのだろうな。ルアの周りに人が集まる度、お前の心を嫉妬が知らず知らずのうちに蝕んでいたのだ。」
東雲の説明に由良は言葉がでなかった。
「嫉妬は長い間ルアと一緒にいるお前だからこそ、抱いてしまったモノだ。まぁ……妾から一つ助言をするならば、お前はもっと自分の心に、欲望に素直になれ。」
さらに東雲は続ける。
「母親だからとか、子供だからとかそういう邪な感情はいらん。お前は一匹のメスで、こやつはこの世界ただ一人の♂……ただそれだけだ。」
東雲は由良にそう助言をすると、ルアの頭の上から飛び降り、ドアの方へとゆっくりと歩みを進め、器用に前足でドアを開けて出ていった。
そして部屋の中には再びルアと由良の二人が取り残された。
少しの間の沈黙が二人の間に流れるが、その沈黙を打ち破ったのは由良だった。
「そ、その……ルアや。ちとお願いがあるのじゃが……。」
少し恥ずかしそうに、赤くなった頬を指で掻きながら由良は口を開いた。
「う、うん!!なに?」
「じ、実はまだ少し……体の奥が疼いておってな。じゃから……少しの間抱き締めても良いかの?」
「それで治まりそうなの?」
「う、うむ……。」
「なら……いいよ?」
さっきの東雲の言葉を聞いて断るに断れないルアは、由良のお願いをあっさりと承諾してしまう。
すると、由良は嬉しそうにニコリと笑うと、彼の体に自分の体を密着させ、ぎゅっと抱き締めたのだった。
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