上 下
88 / 249
第一章 転生そして成長

第85話 東雲のプライド

しおりを挟む
 ギルドを出たクロロはルアの手を引きながら街の中を歩く。

「いや~こうやってルアちゃんと街中を歩くのも久しぶりな気がするね~。」

 ルアの手を引きながらポツリとクロロは言った。

「ちょっとの間、違うところで生活してただけなんですけどね。」

「ほら、今までって毎日のようにこの道をルアちゃんと通ってたじゃん?だから……いなくなるとちょっと寂しくなっちゃうんだよね~。」

 そう、天使が来襲してくる前までは毎日のようにこの道をクロロはルアと歩いていた。やはり、いつもいたはずのルアがいなくなると少し寂しさを感じてしまうらしい。

「な、なんかごめんなさい。」

「うぅん!!謝んなくていいのいいの。由良さんにもルアちゃんにも事情があったんだし、あっちにいる間だって色々と何かやってたんでしょ?」

「うん……。」

「だからルアちゃんが謝る必要なんてないの~。まぁ、こうやってたまに帰ってきてくれるだけで私は嬉しいよ~ん♪」

 グイっとルアの手を引いて、彼の顔にすりすりと自分の頬をこすりつけるクロロ。一見ただのスキンシップにも見えるが、街中のど真ん中でそれをやられるルアは少し顔を赤くしていた。

 そんなことをしているうちに二人はあっという間に由良の家の前についた。

「さてっと、由良さんに挨拶しないとね~。お邪魔しま~……」

 そうしてクロロが由良の家のドアを開けたその時だった。

 ヒュンッ!!

 風を切る音とともにクロロへと向かって何かが勢いよく飛んで来た。

 もちろんそんなものが飛んでくることなんて想像もしていなかったクロロは、もろにそれにぶつかってしまう。

「んにゃっ!?」

 ゴスッ……。

 鈍い音を立ててクロロの眉間に当たったのは分厚い書籍だった。思い本の角が眉間にぶつかったクロロは思わずよろめく。

「く、クロロさんっ!?」

「あいたたたた……いったいなんで……。」

 クロロが眉間を抑えながら、自分に向かって飛んで来た本を拾い上げると、家の中から由良が姿を現した。
 
「おぉ!?く、クロロか……大丈夫かの?」

「な、なんとか無事です~……めちゃくちゃ痛かったですけど。それにしても何をしてたんです?こんな本を吹っ飛ばして……。」

「いやの、普通に掃除をしておっただけじゃ。」

「普通の掃除で本は飛びませんよ!?」

 少しとぼけた仕草を見せた由良にクロロが鋭い突っ込みを入れる。

 二人がそんなやり取りをしていると、家の奥から東雲が姿を現した。

「なんだ?客人か?」

「ふえ?しゃべる……狐?」

 突然由良の後ろから姿を現した東雲のことを見て、クロロがそう口にすると、ブチッ……と何かが切れたような音が響いた。
 そして次の瞬間には、再びクロロの眉間に本の角が勢いよく突き刺さる。

「あ゛にゃぁッ!?」

「妾をしゃべる狐扱いするとは、随分肝が据わっている猫人だな。」

 怒りのオーラを放ちながら東雲は、眉間を抑えてうずくまるクロロへとゆっくりと歩み寄る。

 どうやら東雲は、しゃべる狐とクロロに言われたことにお冠のようだ。恐らく東雲は、たかが言葉を話す狐と見られたことで、内にある仙狐としての高いプライドに傷がついたらしい。

「さて、この無礼者をどうしてくれようか……。」 

「東雲さん、ダメです!!」

 仕置きを下そうと東雲が魔力を練り始めたその時、ルアが東雲のことを取り押さえた。

「な、何をするかルアッ!?」

「クロロさんはボクの大切な友達なんです!!これ以上虐めないでください!!」

「わ、わかった……わかったから下ろせ!!この体勢は恥ずかしすぎるっ!!」

 東雲の今の体勢は、ルアに前足を両方とも持ち上げられているため、なんとも情けのない姿を晒してしまっていた。

「絶対虐めないですか?」

「約束する。」

「わかりました。」

 東雲から言質を取ると、ルアは東雲のことをゆっくりと地面に下ろした。

「まったく……とんだ恥態を晒す羽目になった。」

 はぁ~……と大きなため息を吐き出すと、東雲はクロロへと向き直る。

「命拾いしたな猫人よ。だが、次は無い……よ~く肝に命じておくのだな。」

 それだけ言い残すと東雲はそそくさと家の中へと入っていく。東雲の後ろ姿を呆然と見つめていたクロロ、そんな彼女に由良が東雲のことを話し始めた。

「あの方はわしの師匠の東雲様じゃ。」

「ゆ、由良さんの師匠さん!?」

「うむ、本気になれば天使にすら負けぬ力を持っておる。故に命が惜しかったら……口の利きかたには気を付けるのじゃ。」

「は、はぁ……。」

 そして由良も家の中へと入っていく。いきなりたくさんの情報が頭に舞い込んできて呆然としているクロロにルアが話しかけた。

「大丈夫でしたかクロロさん?」

「あ、う、うん!!ありがとねルアちゃん……さっき止めてくれなかったらホントに殺されるところだったよ。」

「あはは……多分東雲さんはプライドが高いから、普通の狐と間違われるのが嫌いなんです。」

「なるほどね。次からは気を付けなきゃ。」

 次からは二度と……東雲に会ったときには間違えない。そう心に誓ったクロロだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

処理中です...