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第10章 三つ巴
第343話 西の魔女との邂逅
しおりを挟むリルのもとを訪れた後、俺はまっすぐに町はずれにあるカーラの家へと足を運んだ。魔法で隠されている彼女の家のインターホンを鳴らすと、目の前の空き地に彼女の家が現れた。
「ん?誰かと思えば、カオルかい。」
「こんにちはカーラさん。ちょっと聞きたいことがあって……時間大丈夫ですか?」
「問題ないよ、中で話そうじゃないか。」
そして中へと招き入れられると、俺は本題について話し始めた。
「実は、西の魔女に会いたくて。」
「ユアーダに?なんでまた。」
「ちょっとダンジョンの攻略のやり方に対して言いたいことがあるんです。」
「なるほどね。まぁ、ちょいと近頃アイツのところの攻略部隊はやりすぎてるって話は聞いてた。それがまさかカオルにまで影響を及ぼすとはねぇ。」
「正確には俺じゃなくてアルマ様なんですよ。」
「魔王様?どういうことなんだい?」
「実はこんなことがあって。」
俺はカーラにアルマ様が永続のダンジョンで西の魔女の攻略隊のやつらに襲われたことを話す。すると彼女は納得したのか一つ大きく溜息を吐きながら頷いた。
「さすがにそいつはやりすぎだ。魔王様ってわかってて、しかもダンジョンの中で能力が制限されていることも分かったうえで集団で襲ったってわけか。まったくアイツの人選はどうなってんだい。人を見る目が無さすぎる……いや、敢えてそういう人材だけを集めてんのかもしれないねぇ。」
「というと?」
「欲望に忠実で扱いやすいって理由でアイツはそういう輩を攻略部隊に入れてる可能性があるってことさ。」
「なるほど、それは一理ありますね。」
「まぁ、それでも超えちゃいけない一線ってのはある。今回の件はそれを大きく踏み超えちまってるねぇ。」
そう言うと彼女は立ち上がり、立てかけてあった杖を手にした。
「ユアーダは今ならきっと自分のアーティファクトの保管所にいるはずさ。」
「カーラさんはその場所を知ってるんですか?」
「いや、正確な場所はわからない。でもステラと大体の場所は絞ってある、アタシ達が近くに行けばあっちから姿を現してくれるだろうさ。」
そしてカーラがトン……と床を杖で叩くと足元に魔法陣が現れ、次の瞬間、俺とカーラは青い水晶の煌めく場所へと転移してきていた。
「ここは?」
「見ての通り魔水晶の洞窟さ。この場所は魔物も寄り付かないほど濃密な魔素の空気が充満してる。大量の魔力に慣れてるアタシ達みたいな存在じゃないと息をしただけで体が壊れちまう場所なんだ。」
「西の魔女が隠れるには最適ってわけですね。」
「ま、そういうことさ。」
カーラにこの場所の説明を受けていると、どこからか声が響いてきた。
「おいおい随分急な来訪じゃんかよ、カーラ。」
「やっぱりここにいたのかいユアーダ。」
すると、俺たちの目の前に突然黒いローブを纏った女性が現れた。ローブと一体になったフードを深くかぶり、口元はマスクで覆い隠されている。そのフードから覗く翡翠色の瞳をこちらに向けながら彼女はカーラへと向かって言った。
「カーラ、ここはオレ様の大事な大事な場所だぜ?いくら魔女仲間とはいえ、こっから先は通せねぇ。」
「無駄な心配すんじゃあないよ。アンタに用があるのはアタシじゃない。こっちさ。」
「あん?じゃあそっちの男ってわけか。なんだ、ダンジョン攻略隊にでも入りてぇのか?」
そう問いかけてきた西の魔女ユアーダへと向かって俺は一歩前に出た。
「違う。あんたのダンジョン攻略隊について文句を言いに来たんだ。」
「文句だぁ?」
「あんたは自分が動かしてる奴らがどんなことをしてるのか知ってるのか?随分ダンジョンの中では好き勝手してるみたいだぞ?」
「そんなん知ったこっちゃねぇさ。オレ様はアーティファクトさえ手にはいりゃあいいんだからよ。末端のやつらがダンジョンの中でどんなことしてるかなんざ興味ないぜ。」
その無責任な言葉に沸々と怒りがわいてくる。
「自分の動かしてる奴らが魔王って存在に牙をむいたって言ってもそんなことが言えるのか?」
「魔王に?カハハ!!命知らずな奴らもいたもんだなぁ。」
愉快そうに笑うユアーダ。その一方で俺の中では怒りが爆発しそうになっていた。すると、俺の気持ちに呼応してかビキビキと指先から徐々に龍の姿へと変わっていく。
「笑い事じゃないんだぞ。」
「あん?」
「あんたの無責任な管理と人選で魔王様が命を落としかけたんだ。それを……わかって笑ってんのかァッ!!!!」
怒りが爆発すると同時に声が響く。
『感情の高まりに人化スキルが耐え切れません強制解除します。』
その言葉と同時に全身が一気に龍鱗で覆われ背中からは翼が生え、腰からは尻尾が生えた。変化は俺の身だけに収まらず、人化のスキルが解除されると同時にこの魔水晶の洞窟のいたるところに生えている青い水晶が突然赤く煌めき始めた。
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