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第9章 新たな生活
第312話 玉座に座っていたもの
しおりを挟むユノメルにふぐ料理を振る舞ってから数日後、俺はとある場所へと向かおうとしていた。
「よし、行くかドワーフ公国跡地に。」
『やっとだな主。』
今日向かうのは黒幕の神獣がいるというドワーフ公国跡地。そこに住んでいる神獣を倒して、俺は元の体に戻るんだ。
『地図で場所は頭に入れたか?』
「もちろんだ。」
俺は予め地図で頭に叩き込んだ場所を強く意識し、移動魔法を使う。
そして次に目を開けると、俺の目の前には広い廃墟が広がっていた。
「ここがドワーフ公国か。」
『うむ。』
こうしてみると、確かに腐食の痕は酷い。家屋なんかはもう跡形もない。残っているのは鉱石とか金属でできた建物だけだ。
「これをユノメルがやったんだろ?」
『そうだ。わずか一瞬でな。』
こんな広いところを一瞬で……マジで敵に回らなくてよかったと心から思う。
「にしても、生き物の姿がまったく見当たらないな。気配もない。」
『必然だな。主は完全毒耐性を得ている故、普通にここで生きていられるが……他の生き物はここの空気を吸っただけで肺が爛れ、死に至る。』
「でも、神獣の気配も感じないのは……どうなんだ?」
『うむぅ……気配を消しているとも思えるが、ここまで完璧に我から気配を隠せるのか……。何か妙だな。兎にも角にも主よ、あの城へと向かってみようではないか。いるとしたら恐らくあそこだ。』
「わかった。」
この廃墟にそびえ立つ荒れ果てた古城。そこへと向かって俺は歩みを進めていく。
城の城門の前にたどり着くと、ナナシが異変を感じ取った。
『……主、やはりおかしい。』
「あぁ、ここまで来ても気配も、音も何もしない。」
『気を付けて行くのだ。』
警戒心を高め、アーティファクトを手にしながら城の中へと入ると、ある匂いが鼻を突いた。
「この匂いは……血?錆か?」
『血の匂いだ。しかも新しいぞ。』
鼻を頼りに、その匂いのする方へと歩みを進めると謁見の間へとたどり着く。
「……っこれは。」
謁見の間に佇む玉座には無惨に殺された人ならざる者の姿が。
近付いてみると、玉座の周りには鮮血で血溜まりができてしまっていた。
『綺麗に結晶のみをくり抜かれているな。値が全く固まっていない、そして未だに流れていることを見るにやられたのは我らが訪れるほんの少し前だろう。』
「これが俺達の倒すはずだった神獣なのか?」
『恐らくは……。獣人とエルフを混ぜたような容姿に、緑と白の毛並み……メルから聞いていた情報と合致する。』
「確かにな。」
ここにいるという神獣の特徴はユノメルから事前に聞いていた。その情報とこの殺されている神獣の特徴はまったく同じだ。
『同じ神獣に殺されたか……はたまた別のより強い魔物に殺されたかのどちらかといったところか。』
「でも、ここって毒耐性を持ってないと厳しい場所なんだろ?」
『その通り、しかもメルの毒に対する耐性でなければ意味がない。』
「……。」
横取りされたか……。
「仕方ない、また何か別の方法を探すしかないな。」
『口惜しいが仕方がないな。』
俺は玉座に横たわる神獣に背を向けて移動魔法で城下町へと戻るのだった。
城下町へと帰ってきてまず向かったのはギルドだ。その道中で俺は面白いものを目撃する。
「ぐぐ……。」
「ん?あれは……。」
大通りをなにやらレッドキャップを担いで辛そうにしながら歩いているオーガアレス。そいつに俺は声をかけた。
「随分辛そうだな、手を貸そうか?」
「む、おまえっ!!……ふん、このぐらいよゆうだ!!ふんぐぐぐっ!!」
小股で一歩一歩進む彼を見送り、一足先にギルドへと入ると俺は飲み物を注文して椅子に腰掛けた。
「さてと、あいつが来るまで待つか。」
目的の人物が来るまで飲み物を飲みながら待っていると、数分してやっと息を切らしながら目的の人物が現れた。
「ぜぇ……ぜぇ……たおしてきたぞ。」
息を切らしながら入ってきたのは先程道端で通りすがったオーガアレスだ。今回俺は彼に聞きたいことがあるのだ。
彼は自分の体よりも大きなレッドキャップを受付嬢へと預けると、俺のことを睨みつけながらこちらへと歩いてきた。
「おまえっ!!すこしぐらいてつだってくれてもいいだろ!?」
「どっかの誰かが余裕って言ってたが?」
「ぐぐぐ……やっぱりおまえはきらいだ!!」
「ひどい言いようだな。ま、今日はお前に聞きたいことがあるからな、一杯奢ってやる。ほら好きなの頼めよ。」
オーガアレスを目の前に座らせ、軽い料理と飲み物を頼んだ。そしてそれらが届くと、俺は彼に質問を始めた。
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