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第9章 新たな生活

第296話 逆転の読心術

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 突如として自分の不可視の攻撃が破られたことに焦りと困惑を抱いているオーガアレスに俺は告げる。

「やっとお前の不可視の攻撃のからくりがわかったよ。さっきその形態になったとき、体の外に大量の闘気のようなものを放出してたな。それに魔力を流して幻影を作ることで透明な操り人形にしてる……移動の時とか回避の時とかその操り人形と位置を入れ代わることで一瞬での移動を実現してるんだろ?」 

「…………。」

 俺のその言葉に奴はすっかり黙り込む。しかし、読心術を使っている俺にはもはや沈黙は意味をなさない。

「なんでバレたのか気になるか?」

 ゆっくりと俺は奴へと向かって歩く。そしてアッサリとお互いに必殺の間合いに踏み込むと、下から奴の顔を覗き込む。

。な?」

 そう言って奴が変化したときに言っていた言葉を煽り文句としてぶつけてやると、奴から底知れない怒りがビンビンと伝わって来る。

「コノッ……ナメルナァ!!」

 すると奴は怒りに任せ、大振りで拳を振るってきた。大きく振りかぶることによってがら空きになった腹部へと冷気を纏わせた拳を突き立てるが、奴は直前で俺の背後に配置していた幻影へと入れ代わる。

 だが、それはもう予想通りだ。

「そこ危ないぞ?」

「ッ!!!!」

 奴が位置を入れ代えたと同時に、移動先の足元で青色の魔法陣が展開され、そこから放出された冷気が奴の膝までを一瞬で凍りつかせた。

「グゥゥゥッ!!コレハ……罠カッ!!」

 すっかり動けなくなっている奴をしり目に、俺は位置が入れ代わったことで目の前にいるであろう幻影へと左手を翳した。

「魔力ごと凍れ。」

 そして実体のない魔力をも凍らせる冷気を放つと、目の前にはオーガアレスとうり二つの姿の氷像が出来上がった。

「これでよし。」

 厄介だった奴の幻影を完全に封じ込めた俺は身動きが取れずにいる奴へと歩みを進めながら、右手に小さな焔の玉を作り出す。

「てっきり脳筋野郎かと思ってたけど、あんな隠し玉を持ってたとは思わなかったよ。」

「ナニヲ、マダ勝負ハッ……。」

「いや、決着だよ。お前の負けでな。」

 奴が言おうとしていたことを遮ってそう口にすると、人差し指の指先に先ほど作った小さな焔を移動させた。それを奴へと向けると、奴は不敵に笑う。

「焔の攻撃なら耐えられるってか?その焔で氷が溶ければ反撃の余地がある……そう思ってるな?」

「ッ!!ヤハリ心ノ内ガ読マレテイタカ。」

「今更気付いたところで遅いけどな。」

 俺は奴を中心にして分厚い魔力の壁を囲むように作ると、指先の焔を奴の心臓へと照準を合わせる。

「じゃあな。」

 そして指先の焔をレーザーのように射出すると、それは正確に奴の心臓部分を撃ち抜いた。それと同時に魔力の壁の内側を埋めつくすように焔が一気に燃え上がった。

「……読心術オフ。」

 燃え盛る焔に背を向け、読心術をオフにした俺は氷付けにした奴の幻影へと歩み寄る。するとナナシの声が聞こえてきた。

『なかなか魔法の使い方がなっているではないか主。特にあの罠として設置していた魔法陣は良かったぞ?』

「あれもどっかの誰かさんの押し売りだけどな。」

『くくく、そうは言ってもなかなか実戦では使えんものよ。にもかかわらず主は見事に使いこなして見せた。見事という他あるまい?』

「まぁ読心術のおかげだな。あれがなかったら奴の攻撃のからくりもわからなかったし、さっきの罠も機能しなかったと思う。」
 
 やっぱり一対一の戦闘においてはかなりこのスキルは有用だ。敵の手の内を見破れる。だが、同時に一つ重大な欠点にも気がついてしまった。

『にしても、主の読心術というスキルはなかなかに面白い。奴の心の声が丸聞こえだったな。最初に聞こえてきた声がよもやとはな!!くくくくく、思わず笑い転げるところだったぞ。』

 そう、ナナシの言っている通り最初読心術をオンにしたときに聞こえてきた奴の声が……。

『この強い雌には俺の子を産ませる!!』

 という強い意思のこもった声だったのだ。

 普通まぁあそこまで意思疎通のできる相手だと情も湧くものだが、俺はその心の声を聞いていたせいもあってトドメを刺すことには何の躊躇もなかった。心の声が一つ聞こえるだけでここまで非情になれるものなのだと、思い知らされた。

「……まぁ今はもうそれは忘れよう。んで、この魔力を凍らせたやつを喰っても相手を喰ったことになるか?」

『それは我もわからん。なにせ主が血肉を全て灰にしてしまったからな。まぁだが喰わんよりは少しぐらい可能性はあるのではないか?』

「……あんまり気は進まないけど。」

 俺は氷像の一部をもぎ取ると、その氷を口に運んだ。

「わかってはいたが何の味もしなければ、ただ冷たいだけだな。」

『かき氷とやらにすれば多少は美味いのではないか?』

「こんな冬場に食いたくないっての。……んで、今ので何か変化はあったか?」

『少し魔力が増えた位だな。』

「…………やめだ。」

 俺は氷像を粉々に砕くと、それを全て焔で蒸発させた。

「帰るわ。」

 何とも言えない複雑な気分になりながら、俺は移動魔法でギルドへと飛ぶのだった。

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