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第7章 動き出すヒュマノ
第224話 ヒュマノの秘策
しおりを挟む俺が指差してやると、その指揮官らしき男は激昂し残っている部隊に指示を出した。
「残存部隊はそいつを狙え!!エルフは後でいい!!」
「それは悪手だと思うんだがなぁ。」
指揮官の号令と共に雪崩のように一斉に向かってくる人間の兵士達。もちろん、俺にしか目を向けていない彼らには木の上からエルフ達の正確無比な矢の雨が降り注ぐ。
それのせいで兵士達はなかなか前進できず、塊となってしまっていた。
「それじゃあ行くか。」
剣を片手に、俺はトン……と地面を蹴ると、塊となっている兵士達の頭の上に足を下ろす。
「悪いが踏み台にさせてもらうぞ。」
そして兵士達の頭を足場にして一気に指揮官の前へとたどり着くと、彼の横にいた二人の兵士が俺へと向けて剣と槍を振るってくる。だが、どちらも攻撃の軌道が単純すぎる。
「ほっ!!」
槍の突きを剣の峰に当てて逸らすと、俺はそのまま剣を動かし、剣を持っていた兵士の手首へと向かって峰打ちをした。すると、たまらず剣を持っていた兵士は痛みで剣を手放した。
「ぐあぁっ!!」
そして続けざまに今度は槍の柄の部分をスッパリと真っ二つにする。
「なにっ……!?」
戦う武器を失った彼らを蹴飛ばして吹き飛ばすと、俺は既に恐怖で顔をひきつらせている指揮官へと目を向けた。
「選択肢は2つ。今すぐ部隊をヒュマノへと引き返させる……もしくは全員ここで死ぬかだ。」
「く、ぐぅ……。我々に撤退という選択肢はないっ!!お前達っアレを飲め!!」
「何をするつもりだ?」
そうヤツが号令を出すと、足に矢を受けていて動けなくなっていた兵士も、動ける兵士も何かを決心したように小さいカプセルに入った何かを飲み込んでいた。
「何をさせた!!」
剣の切っ先を指揮官の喉元へと突きつけて問い詰めると、ヤツは不敵に笑う。
「コレがヒュマノの最新技術だ……エルフ?魔族?そんなもの超越してくれる!!」
そう高々と言い放ったヤツだったが、何かを飲み込んだ兵士達の様子を見て表情を変える。
「「ぐぉ……ァァァァァァアアアッ!!」」
メキメキと音を立てて人間から何か違うものへと変貌していく兵士達。
「な、なんだこれは……違う……。説明と違うぞ!!」
明らかに思っていたことと違うことが起きたようで、焦る指揮官の男。
「ッチ、仕方ない。ちょっと眠ってろ!!」
「げぇっ!?」
剣の峰でヤツの後頭部を打ち、気絶させると俺はヤツを抱えて木の上へと飛び上がる。すると、リリルがすぐに木の枝を伝ってやって来た。
「何が起こってる!?」
「わからない、だが……少なくともこいつを生かしておけば何かしら情報が得られるはずだ。」
「……わかった。こいつは捕縛しておく。」
「あぁ、頼む。それと……エルフ達は集落に避難させた方がいい。」
「なぜだ?」
「嫌な予感がする。あいつらの相手は俺がするから遠くに離れていてくれ。」
「……わかった、気を付けろよカオル。」
「あぁ。」
そして再び俺は地面へと降り立つと、そこには先ほどまで人間だったはずの何かが大量に犇めいていた。
その姿はまるで魔物……。人間だった頃の面影は全くと言ってよいほどにない。
それと、俺は彼らの姿に既視感があった。
(……あの姿、まるで氷魔人のような。)
人間から姿を変え、魔物のようになった彼らは氷魔人のような姿をしていた。多少俺が見た氷魔人とは違うようだが……そっくりだ。
「まさか、本当にヒュマノが人間を魔物に変える薬を?」
いや、だが……指揮官らしきあの男のあの慌て様は、何も知らなかったように見えた。仮にもし……あれが演技だとしたらこんな部隊の指揮官になるよりか、演者になった方がよっぽど天職だと思う。
「人間のままだったら峰打ちで済ませたが……魔物に成り果ててしまったのなら、容赦はしない。」
俺は逆刃に構えていた剣を握り直すと、魔物へと変貌した彼らへと向かって構えた。
「もとは人間だった情け……苦しまないようにやってやる。」
そして完全に魔物へと変貌し、人間の時の理性を失った彼らは一斉に俺へと向かって襲いかかってきた。
「シッ!!」
向かってくる奴らに飛閃を飛ばし、先頭集団の首を一撃で飛ばす。もとは仲間だった者達の死体を踏みつけながらも向かってくる魔物へと変貌した者達……。
彼らが人間だった……と思ってしまえば躊躇いが出る。だから……俺は心を殺し、彼らと向き合った。
そして数分後……緑色だった大地には真っ赤な鮮血の池とそこらじゅうに魔物の死体が転がっていた。
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