128 / 350
第4章 激突
第128話 過去の出来事
しおりを挟む「以前カオル様が来る前……このお城には私と魔王様の他にもう一人住人がおりました。」
「それが……。」
「はい、カオル様が来る前までここで魔王様に料理を作っていた人物です。彼は先代の魔王様がご存命のころからここで魔王様に捧げる料理を作る仕事をしておりました。」
「でも、どうして先代のころから働いていたのなら……アルマ様の代になって急にその仕事を辞めたんですか?」
「その理由は私も深くは知りません。ですが、先代の魔王様が亡くなってからというものの、彼はまるで人が変わったようでした。そして彼の様子に異変を感じ始めていたころ……彼は忽然とここから姿を消してしまったのです。自分に関する記憶を魔王様から消し去って……。」
なるほど、通りでおかしいと思ったんだ。俺の前に料理を作っていた前任者がいたのなら、その話題をアルマ様が話してもおかしいことではない。それよか、本来ならば口にしているのが普通なはずなんだ。
「やっと合点がいきましたよ。そういうことだったんですか、今までアルマ様が前の人の話を一切口に出さなかったのは。」
「はい。」
「それで……なんでまたずっとここで仕えてた人が俺の……いや、アルマ様の成長の邪魔を?」
「それは私にもわかりません。実際に戦ったとき、何かわかるようなことを彼は言っていませんでしたか?」
「…………。」
俺はあの男と対面したときのことを思い返し、それらしい言動がなかったか確かめる。すると、出会った瞬間にあの男が言っていた言葉を思い出した。
『これ以上魔王を成長させてしまうと世界のバランスが崩れる。』
「……確か、これ以上魔王を成長させてしまうと世界のバランスが崩れる……とか言っていましたね。」
「世界のバランス……。ふむ、相当大きなことを目的として動いているようですな。だとすれば、彼一人で動いているとは考えにくい。もしかすると、組織的な何かに属している可能性もありますな。」
「アルマ様の成長を邪魔するために……ですか?」
「世界のバランスを保つ……という曖昧な目的で動いているようなので一概にそうとは言えませんが、これから先何かしら邪魔が入る覚悟はしておいた方が良いかもしれません。」
「…………。」
俺は、あのままあの男と一人で戦っていたら……どうなっていた?危険予知もろくに発動せず、相手の攻撃を見切って避けることもできない。もしナインが来てくれなかったら、やられていたかもしれない。
「ジャックさん、アルマ様が魔王として完全体になるには……後いくつの食材が必要なんです?」
「あと五つですな。」
ということは後五回もあいつと鉢合わせる可能性がある。下手したら次アルマ様が求める食材を取りに行ってる時にあうかもしれない。
あの男は……今回俺と戦った時は全然本気でやってなかった。もしあいつが最初から本気で俺のことを殺しに来ていたのなら……。
そう考えた瞬間、俺の頭の中にあの時流れたスカイフォレストが業火に包まれている映像がフラッシュバックする。
(あの時……何かが違えば俺はあの業火に包まれてスカイフォレストで息絶えていたのかも。)
そう思い詰めていると、ジャックが俺の肩にポンと手を置いた。
「カオル様、一人で思いつめることはありません。彼らが魔王様に害をなしてくるものなのであれば……当然私めもお力をお貸しいたします。」
「ありがとうございます。」
彼にそういわれると少しだけ気持ちが軽くなったような気がする。
「とにかく、今は魔王様にサンサンフルーツを食べていただきましょう。サンサンフルーツは日が沈んでしまうと腐ってしまいますからな。」
「えぇっ!?そうなんですか!?」
日没まではもうあまり時間が残されていない。彼の話が本当なら、すぐに調理を始めないと!!
「お、俺急いで準備してきますっ!!」
「ホッホッホ、よろしくお願いしますぞ。」
にこやかに笑うジャックに見送られ、俺は彼の部屋を飛び出してコックコートに着替え厨房へと向かう。そして大きなまな板の上にさっと水で洗ったサンサンフルーツを置いた。
水滴でぬれたサンサンフルーツは本当に輝く太陽のようで綺麗だ。
「……いざ目の前にしたのは良いものの、これはどう……調理すればいいんだ?」
果物ならまず皮をむくのがセオリーだが……。
悩みながら、サンサンフルーツに手を置くと頭の中にまた映像が流れ込んできた。
俺じゃない誰かが、サンサンフルーツにナイフを入れて淡々と処理していく様子……。
(これは……いったい?)
あの男と対面した時も映像が頭に流れ込んできた。これは一体何なんだ。だが、こういう映像が頭の中に流れ込んでくるってことは何か意味がある。
そう思って映像を最後まで見終えると、映像の最後ではサンサンフルーツを調理していた誰かの前にきらきらと光り輝くものが置かれていた。
「……手順は覚えた。一発勝負だが……やってやる。」
あの映像の中で見た調理法をそのまま俺が再現すればいい。
俺は愛用の包丁を手に取るとサンサンフルーツに、包丁を滑り込ませた。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった
ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。
しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。
リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。
現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!
異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた
甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。
降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。
森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。
その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。
協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
Crystal of Latir
鳳
ファンタジー
西暦2011年、大都市晃京に無数の悪魔が現れ
人々は混迷に覆われてしまう。
夜間の内に23区周辺は封鎖。
都内在住の高校生、神来杜聖夜は奇襲を受ける寸前
3人の同級生に助けられ、原因とされる結晶
アンジェラスクリスタルを各地で回収するよう依頼。
街を解放するために協力を頼まれた。
だが、脅威は外だけでなく、内からによる事象も顕在。
人々は人知を超えた異質なる価値に魅入られ、
呼びかけられる何処の塊に囚われてゆく。
太陽と月の交わりが訪れる暦までに。
今作品は2019年9月より執筆開始したものです。
登場する人物・団体・名称等は架空であり、
実在のものとは関係ありません。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
虐げられた武闘派伯爵令嬢は辺境伯と憧れのスローライフ目指して魔獣狩りに勤しみます!~実家から追放されましたが、今最高に幸せです!~
雲井咲穂(くもいさほ)
ファンタジー
「戦う」伯爵令嬢はお好きですか――?
私は、継母が作った借金のせいで、売られる形でこれから辺境伯に嫁ぐことになったそうです。
「お前の居場所なんてない」と継母に実家を追放された伯爵令嬢コーデリア。
多額の借金の肩代わりをしてくれた「魔獣」と怖れられている辺境伯カイルに身売り同然で嫁ぐことに。実母の死、実父の病によって継母と義妹に虐げられて育った彼女には、とある秘密があった。
そんなコーデリアに待ち受けていたのは、聖女に見捨てられた荒廃した領地と魔獣の脅威、そして最凶と恐れられる夫との悲惨な生活――、ではなく。
「今日もひと狩り行こうぜ」的なノリで親しく話しかけてくる朗らかな領民と、彼らに慕われるたくましくも心優しい「旦那様」で??
――義母が放置してくれたおかげで伸び伸びこっそりひっそり、自分で剣と魔法の腕を磨いていてよかったです。
騎士団も唸る腕前を見せる「武闘派」伯爵元令嬢は、辺境伯夫人として、夫婦二人で仲良く楽しく魔獣を狩りながら領地開拓!今日も楽しく脅威を退けながら、スローライフをまったり楽しみま…す?
ーーーーーーーーーーーー
1/13 HOT 42位 ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる