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第4章 激突

第104話 大喰らい

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 次の日の朝、俺はカナンに体を揺さぶられて目を覚ました。

「カオルさん、カオルさん?朝になりましたよ~?」

「……ん?あっ!?」

 急いで目を覚ますと時間はアルマ様たちの朝食寸前まで迫っていた。

「やばっ!!完全に寝坊だっ!!」

 なんっで、いつもはもっと早くに起きれるのに……。

 焦りながら身支度をぱっぱと済ませていると、ふと昨日俺が落札した幻獣の卵が目に入った。

(そういえば昨日の夜はあれに魔力を注ぎ込んだら急に意識が遠のいたんだよな。ナインはこの卵が飢餓状態にあったって言ってた気がする。)

 っと、それよりも早く朝食の準備をしないと。

 いつもよりも余裕の無い時間のなかで、俺はなんとかアルマ様たちの朝食を時間通りに作り終えたのだった。





 そして朝食を作り終えた俺は再び自室へと戻ってきていた。

「ふぅ~……なんとか間に合ってよかった。」

 自室で一人ベッドに横になった俺の横にコロコロと幻獣の卵が転がってくる。

 それをおもむろに手に取ると、胸の前に持ってきた。

「昨日は根こそぎ魔力を持ってかれたが、今日はどうだ?」

 そして魔力をまた注ぎ込もうとした時……俺は途端に冷静さを取り戻す。

「……いや待てよ?もしもの時に保険はかけておきたいよな。」

 また今朝みたいに時間に追われるような事は勘弁だ。

「ナイ…………。」

「はいマスター。」

「おぉわっ!?」

 俺が名前を呼び終わる前に目の前にナインが姿を現した。てっきり呼び終わってから出てくると思っていたから、素っ頓狂な声をあげて驚いてしまった。

「……?なぜそんなに驚いておられるのですか?」

「い、いやあんまりにも来るのが速かったものだからさ。」

「そうでしたか。それで、マスター。ナインになにかご用ですか?」

「あぁ、今からまたこれに魔力を注ぐんだが……。昨日みたいに全部魔力を持ってかれて意識を失ったら……3時間後に起こしてくれないか?」

「わかりました。」

 よし、これで安心してこれに魔力を注げる。

 俺は再び卵へと視線を移すと魔力を注いだ。すると、昨日のようにとんでもない勢いで魔力を持ってかれるような感覚は襲ってこなかった。
 その代わり、ゆっくりとじっくりと……まるで美味しい料理を味わうかのように魔力を吸われている。

 それを見た隣のナインがポツリと呟く。

「昨日の魔力供給である程度十分な魔力を確保できていたようですね。」

「あぁ、それはそれで安心なんだが……。」

 俺は今の自分の魔力の残量を確認するためにステータス画面を開いた。すると、俺が感じている感覚を現すようにMPが少しずつ減っているのがわかる。

 そしてそれを見た俺の中の不安がより一層大きくなった。

「……これ、いつまで魔力吸われるんだ?」

「飢餓状態ではないはずなので、魔力が完全に無くなるほど吸われるようなことは無いとは思いますが……。記憶領域データベースにある参考文献には、毎日魔力を空になるまで吸われた……という記録もありますので。」

「一概にどう……とは言えないってことか。」

「はい。」

「う~ん、まぁ満足するまでこうしてるしかないか。」

 まだ8割以上魔力が残ってるし……まぁ大丈夫だろ。

 そんな気軽な気持ちが後々、大きな過ちだったということに気付くことになる。




 それから約1時間後……。

「はぁ……はぁ……ま、まだ魔力吸うのか!?」

 魔力を注いでから約1時間ほど経ったが、俺は未だにこの卵に魔力を吸われ続けていた。
 魔力の残量は残り3割ほど……。このままいくと、俺のいやな予感通り空になるまで吸われるはめになるかもしれない。

「もうここまで来たならいっそのこと、一気に吸ってくれ。」

 そんな俺の思いはこの卵には届く気配はない。こっちの気も考えないで……じっくり、じっくりと魔力を吸われている。

 あ、ヤバイ……魔力の底が見えてきたせいでそろそろ体に怠さが出てきた。

 少し横になるか。

 卵を抱き抱えながら横になると、一気に睡魔が襲ってくる。それに抗うように気を保っていると……。

「マスター。ナインが居りますので安心して意識を手放してしまっても大丈夫ですよ?」

「あぁ、わかってる。でも……一応こいつが毎日どのぐらい魔力を吸うのか、自分でも確認したくてな。」

 仮に全部の魔力を吸うなら、後30分かからない程度で俺の魔力がすっからかんになるはず。それまではなんとか耐える。

 この卵のことを少しでも知るためだ。もう少し我慢……。

 そして、結局幻獣の卵は一度の魔力補給で俺の魔力を全て平らげてしまうことが判明した。
 
 まったく……なんて大喰らいなんだ。

「悪いがナイン……例の件頼んだ。」

「お任せくださいマスター。ごゆっくりお休みになってください。」

 その言葉を聞いた後俺の意識は闇の中へと沈んでいった。

 今度からは日常的に魔力を使って魔力が底をついても意識を手放さないようにしなければ……。

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