86 / 350
第3章 魔王と勇者
第086話 行方不明
しおりを挟むその日の夜、俺はラピスとともにギルドに足を運んでいた。普段ならば軽い依頼をこなすついでに酒を煽るところだが今日はどうやら少し事情が違うらしい。
「それで何かあったんですか?」
俺は正面に座る彼女……リルに問いかけた。
「いや~ね、実は依頼中に行方不明者が出ちゃったんだよ。」
「行方不明?────ですか。」
「うん。まぁ、キミたちもわかってる通り、こういう仕事柄だから行方不明なんて起きうることなんだけど。何が問題って、今回行方不明になったのはけっこうベテランの人なんだよね~。」
「そやつがおっちょこちょいなだけではないのか?」
「いや……彼は頭も切れたし、腕も確かだったから安直なヘマを犯すとは思えないんだよ。」
「ほ~う。」
興味なさそうにラピスはリルの話を聞き流している。
「それで、今回はその人を見付けてくればいいって感じ……なんですね?」
「話が早くて助かるよ~。つまりはそういうこと。」
そう言ったリルにラピスは質問を投げ掛けた。
「人探し位ならば我ら以外の者でもできるだろう?なぜ敢えて我らに頼むのだ?」
「もし仮に、行方不明になった彼が魔物に殺されていたら……その魔物はベテランハンターをも倒すほど強いってこと。そんな強い魔物がいるかもしれない場所に下手に人員は割けない。つまり、リスク回避ってやつだね。」
リルの言っていることは確かに理に適っている。ミイラ取りがミイラになり被害が拡大するのを防ぐにはそれが最適解だろう。
「その人が居なくなった場所はどこなんです?」
「ここから南に少し行ったところにある廃鉱山。」
俺がリルから詳細を聴いていると、ラピスが驚いた表情で問いかけてきた。
「お、おいカオルよ?こんな依頼を受けるつもりなのか?」
「あぁ、もちろんだ。」
「はぁ……まったくどこまでおぬしはお人好しなのだ。」
「いやなら帰っててもいいぞ?」
「バカを申すな。おぬしに何かあったら誰が我の飯を作るのだ?面倒だが、我も付き添ってやる。」
渋々といった様子でラピスがそう言うと、リルはにこりと笑う。
「ありがとー二人とも!!報酬は弾むからお願いねっ。」
そしてリルは、その行方不明になったハンターの顔写真や持っている武器の特徴などが書かれた紙を手渡してくる。
それを受け取った俺は椅子から立ち上がる。
「それじゃあ時間が惜しいので……早速行ってきます。」
「おぬし、報酬を弾むという言葉……忘れるでないぞ!!」
ラピスとギルドを飛び出すと、俺達は南にあるという廃鉱山へと急いで向かう。
その途中で俺はリルにもらった行方不明になったハンターの情報に目を通していた。
「名前はステン……歳は42歳か。」
「42歳だと?あやつめ……ベテラン、ベテランと言っておったがまだまだ若造ではないか。」
「そういうラピスはいくつなんだよ。」
「覚えておらん!!何せ100から先は数えるのをやめたからな。」
「そ、そうか……。」
キッパリとそう言ったラピスに、俺は少し呆れながらそう答えるしかなかった。
そして暫く走り続けると、リルの言っていた廃鉱山が月明かりに照らされて見えてきた。
「あそこだな。」
見えてきた廃鉱山へと駆けている途中で、ラピスが突然クンクンと鼻をならしはじめた。
「ん?クンクン……クンクン……。」
「どうした?」
「カオル、その先に見える山から血の匂いがするぞ。」
「血の匂いだって?」
「うむ。しかも血の匂いだけではない……何かが焼けこげるような匂いもする。」
ラピスの嗅覚は信用できる。ノーザンマウントでもあの氷魔人が殺した魔物の血の匂いを感じ取っていたからな。
何か嫌な予感を感じながらも、廃鉱山へと向かって走っていると……。
ボンッ!!
「「っ!!」」
何かが弾けるような音とともに廃鉱山の頂上付近から大きな炎が噴き出したのだ。
「爆発?」
リルは確か廃鉱山って言ってたけど……なんだ?可燃性のガスでも溜まってたのか?
「今の爆発はただの爆発ではないぞ。大きな魔力の気配を感じる。」
「魔力を感じた?ってことは自然な爆発じゃないのか?」
「うむ、爆発と同時に強い魔力が放たれた。自然的なものではない。何者かが魔力を使ったに違いない。」
いやな予感がどんどん膨らんでいく。
とにかくこのステンって人が無事ならいいんだが。もしかすると、この人が魔力を使って爆発を起こしたのかもしれない。襲ってきた魔物を倒すために……。
「急ごうラピス。なんか嫌な予感がする。」
「うむ。」
走るスピードを上げて廃鉱山の麓に着くと、大きく掘られた入り口の中から黒煙がモワモワと溢れ出してきた。
「うっ……この匂いは。」
中から立ち込めているこの黒い煙は、肉を黒く焦がしたような嫌な匂いがする。
「うぐぐ、近くで嗅ぐと鼻が曲がりそうだ。」
この煙はあまり吸い込まないほうが良いだろう。俺は収納袋から分厚いタオルを取り出して口に当てた。これで少しは軽減されるはずだ。
ラピスにも一応タオルを手渡し、俺たちは黒煙が噴き出す廃鉱山の中へと足を進めるのだった。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった
ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。
しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。
リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。
現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!
異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた
甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。
降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。
森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。
その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。
協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
そんなにホイホイ転生させんじゃねえ!転生者達のチートスキルを奪う旅〜好き勝手する転生者に四苦八苦する私〜
Open
ファンタジー
就活浪人生に片足を突っ込みかけている大学生、本田望結のもとに怪しげなスカウトメールが届く。やけになっていた望結は指定された教会に行ってみると・・・
神様の世界でも異世界転生が流行っていて沢山問題が発生しているから解決するために異世界に行って転生者の体の一部を回収してこい?しかも給料も発生する?
月給30万円、昇給あり。衣食住、必要経費は全負担、残業代は別途支給。etc...etc...
新卒の私にとって魅力的な待遇に即決したけど・・・
とにかくやりたい放題の転生者。
何度も聞いた「俺なんかやっちゃいました?」
「俺は静かに暮らしたいのに・・・」
「まさか・・・手加減でもしているのか・・・?」
「これぐらい出来て普通じゃないのか・・・」
そんな転生者を担ぎ上げる異世界の住民達。
そして転生者に秒で惚れていく異世界の女性達によって形成されるハーレムの数々。
もういい加減にしてくれ!!!
小説家になろうでも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる