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第2章 獄鳥ノーザンイーグル

第068話 禁忌

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 俺たちがざわついていると、リルの前で氷魔人がゆっくりと目を開けた。

「やぁ、お目覚めかい?」

「……………っ!?」

 暴れようとする氷魔人だったが、拘束されているため動けずにいる。

「お、おいリル!!こいつが元は人間ってどういう意味なんだい!?」

「そのままの意味だよ。まぁあくまでも根拠なんてない私の勘だけどさ。」

 威嚇する氷魔人の瞳の奥を覗き込みながら彼女は言った。

「なんて言うのかな~、確かに気配とかは魔物っぽいんだけど眼がね~違うんだよね。魔物の眼じゃない、どっちかって言うとホントに人間みたいな眼なんだよ。」

「長年魔物ギルドで務めて培われた観察眼ってやつかい?」

「そんなとこ、でももし仮にこの子が元は人間だったとしたら……。」

を犯してるやつがいるってことになるねぇ。」

「禁忌?」

 リルとカーラの二人の会話の中に出てきた禁忌という言葉に俺は首をかしげる。すると丁寧にラピスが説明してくれた。

「禁忌というのはこの世の理に反するもののことを言う。例えばそ奴らが話しておる、人間を意図的に魔物へと変貌させることも禁忌に指定されておるのだ。」

「その禁忌ってのを破ったらどうなる?」

「それは種族によって対応が大きく異なる。我の種族では、禁忌を破った者とその一族を根絶やしにする。」

「おぉぅ……。」

「ちなみにこの国では禁忌を犯した人は永久幽閉の刑に処することになってるよ。」

「永久幽閉……ですか?」

 またまた聞きなれない言葉が出てきたな。だが、言葉の雰囲気的に物騒なのは感じ取れる。

「永久幽閉ってのは、簡単に言ってしまえば命が尽きるまで何もない牢獄に幽閉されるってことさ。」

「やっぱり禁忌ってだけあって罪も重いんですね。」

「禁忌を犯せば世界の崩壊につながりかねないからねぇ。それだけ危ないもんなのさ禁忌ってのはね。」

 禁忌について説明を聞いたところで、リルはさっそく何枚か書類にペンを走らせ始めた。

「魔物の研究機関で禁忌が犯されている可能性についてもしっかり解明してもらわないといけないからね。実筆で書状を挟んでおこっかな。」

 そしてリルは書いた書類を封筒に入れるとそれをもって氷魔人に近づいた。

「キミには申し訳ないけど、もう一回眠っててもらおうかな。今度は安らかに眠れるよ。」

 氷魔人の目の前でパチンとリルは指を鳴らすと、徐々に氷魔人の瞼が閉じ始め終いには寝息を立て始めた。

「これで良しっと。あとは研究者が引き取りに来るまで奥で眠らせておくよ。」

 リルは氷魔人をずるずるとギルドの奥へと引きずっていった。そんな彼女の後姿を見てカーラがポツリと呟く。

「久々に見たけど、リルの催眠術の腕は落ちてないねぇ。」

「それも魔法の1つなんですか?」

「そう、それもかなり難しい精神をいじる魔法。」

「あんなふうに眠らせるだけじゃなく、極めれば心を壊すことだってできるんだ。」

「えぇ……。」

 使いこなせたら最強クラスの魔法じゃないか。

 そんなことを思っていると、リルが戻ってきた。 

「私はそこまで極めてないよ~、できるのは動けない相手を眠らせるぐらい。」

「でもそれでギルドマスターまで上り詰めたじゃないか。催眠術のリルなんて通り名で昔呼ばれてたしねぇ~。」

「ちょ、それ恥ずかしいんだからやめてよ!!……あ~、もうこの話はここでお終い!!それじゃ、今回の依頼の報酬の話になるけど、今回もまたあっちから成功報酬をもらうまで待ってもらってもいいかな?」

「全然大丈夫です。」

「うん、それならまたあとで、お金の準備ができたらお城にお邪魔するよ。」

 そう言うと、彼女は俺の耳元でさらに一言呟いた。

「今度お邪魔するときはお酒も準備しといてよね?」

「考えておきます。」

 そんな会話をしているうちに、ギルドの中に飾ってある時計がアルマ様の夕食までもう少しであることを指していた。

「あっと……アルマ様の夕食まで時間がないので、そろそろ失礼します。」

「ありゃりゃ、もうそんな時間になっちゃってたか。」

「あとこれ、ノーザンイーグルの血です。これも一緒に後で報酬金に加えておいてください。それじゃっ!!」

「むおぉっ!?」

 ノーザンイーグルの血をリルに渡すと、俺はラピスのことを引っ張って急いで城へと帰る。まだアルマ様の食事のストックはあと一日分ほどあるはずだが、一刻も早くアルマ様にはノーザンイーグルを食べてもらいたい。
 一緒に来てもらったラピスも食べたいと言っていたしな。

 そして、俺が魔王城の目の前まで走ってくるとナインが俺たちのことを待っていた。

「ご無事で何よりでしたマスター。」

「おっ、ナインか。俺がいない間アルマ様の食事は大丈夫だったか?」

「はい、とても美味しく食べていましたよ。」

「なら良かった。夕食はまだだよな?」

「はい、まだ準備はしておりません。」

「オッケー、それなら良かった。今から俺が準備する。」

「待ちわびた飯なのだ~!!カオルよ、我は先に行っておるぞ~!!」

「はいはい。」

 そしてラピスは城の中へと駆けて行ってしまう。

「ナイン、ジャックさんにも俺が帰って来たことと、アルマ様の今日の夕食は俺が今から作ることを伝えてくれ。」

「かしこまりました。早急に伝えてまいります。」

 ラピスに続いてナインも城の中へと入っていく、その後に続いて俺もノーザンイーグルを調理すべく城の中へと入るのだった。

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