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第2章 獄鳥ノーザンイーグル

第059話 アルマのお願い②

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 べろべろに酔っぱらってしまったラピスを彼女の部屋のベッドに寝かせ、自室に戻ろうとしたときふと廊下の奥に人影が見えた。月明かりに照らされて、キラリと赤い瞳が光っている……。この城で赤い瞳を持っているのはアルマ様ただ一人だ。
 しかしこんな夜遅くまでアルマ様が起きているわけないし、いったいどうしたのだろうか。

 姿を確認しようと目を凝らすと、薄暗かった廊下が鮮明に見え始めた。パッシブスキルの夜目の硬貨だ。すると、赤い瞳の人物の姿もはっきりと俺の目に映る。

「アルマ……様?」

「カオル、お願いがあるの。」

 アルマ様のお願いと言えば一つしかないだろう。

「アルマね、ノーザンイーグルが食べたい。」

 ついにこの時がやってきた。アルマ様の中の魔王の血が……ついに獄鳥ノーザンイーグルを欲したのだ。俺の答えは決まってる。

「わかりました。早急に準備します。」

「うん、それじゃあおねが……い。」

「っ!?アルマ様!?」

 話している途中でふらふらと足取りがおぼつかなくなったアルマ様が倒れる寸前で、何とか抱きとめることができた。
 すぐに様子を確認すると、どうやら眠りについてしまっているだけのようだ。抱き止めた手の中でスヤスヤと安らかに寝息をたてている。

「ふぅ……眠っただけか。よかった……。」

 ひとまずアルマ様を部屋に運ぼう。風邪を引かれては困るからな。

 そしてお姫様だっこをして廊下を進んでいると、奥からジャックが歩いてきた。

「お帰りなさいませカオル様。そのご様子ですと、どうやら魔王様が次の食材を求めた……という認識でよろしいですかな?」

「はい、今しがた獄鳥を食べたいって。」

「ホッホッホ、遂にこの時がやって参りましたな。」

「獄鳥を倒してくるついでにギルドの依頼もこなしてこようと思います。」

「それがよろしいかと。ですが、準備だけは怠らないように、雪山は予想外の出来事が起こりやすい場所ですからな。」

「わかってます。万全の準備を整えて向かうつもりです。」

「ホッホッホ、無駄なアドバイスでしたな。ではここからは私めが魔王様を寝室に運びましょう。」

「お願いします。」

 俺はジャックにアルマ様のことをそっと預ける。

「それでは、失礼致します。」

 アルマ様を抱えるとジャックは暗い廊下の奥へと消えていった。

「……さて、ひとまず俺も今日のところは休もう。」

 明日からはノーザンマウントへ向けて準備を整えなければいけないから、スケジュールがパンパンになるだろうしな。

 そして俺は自室へと戻り、ベッドに体を預けると眠りについた。








 次の日……いつも通りアルマ様の朝食を作り終えた俺は再び書物室へと足を運んでいた。今回探しているのは北の大地の地図だ。

「えっと……これか?」

 数多くある地図の巻物の中から一本を手に取ると、机の上でそれを広げた。
 すると、そこにはノーザンマウント周辺の地形などが詳細に記されていた。

「ノーザンマウントに一番近い村は…………ここか。」

 ノーザンマウントの麓には村がいくつかあるが、その中でも最も近いのはという村だ。

「一先ずここが第一拠点になるな。」

 あとはこの村に馬車が出ているかを調べるだけだ。
 こういうのはリルとかに聞いた方が早いだろう。それに、カーラが作っているはずの魔物の拘束具……あれも受け取らないといけない。あれがないと氷魔人を捕獲することができないからな。

 そうと決まれば次向かうのはギルドだ。

 地図を収納袋へと放り込むと、俺は城を出てギルドへと向かう。
 
 昼間のギルドの扉を開けると、夜遅くとは違いたくさんのハンター達で賑わっていた。
 俺は人混みを掻い潜り、受け付けに顔を出すと、見知ったカンナという受付嬢に声をかけた。

「あの……。」

「あ、カオルさん、おはようございます。今日はお早いんですね?」

「ちょっとリルさんに話があって。」

「それでしたら2階へどうぞ。カオルさんはいつでも入れていいって言われてますので。」

「わかりました。」

 彼女にペコリと一礼して、俺はギルドの階段を上がる。そして階段を上って右側の一番奥の部屋へと向かう。

「ここだな。」

 その部屋の扉をコンコンとノックすると……。

「はいは~い?誰~?」

 部屋の奥の方からリルの声が聞こえた。

「俺です、カオルです。」

「あ!!ちょうどよかった入って入って~。」

 彼女の許可も得たので、ゆっくりと扉を開けて中に入る。
 すると、自分の机で大量の書類と向き合っているリルの姿があった。

「失礼します。」



「や、キミおはよ~。いや~ちょうどよかったよ。さっきカーラが来てね、昨日作ったやつの強化版の拘束具を置いてってくれたんだ。」

 ポンと書類に判子をつき一区切りつけると、彼女は机の引き出しから一本の長いロープを取り出した。

「コレが昨日のやつの強化版。使い方は変わってないみたい。ただ、強度は前の数倍?数十倍?とかって言ってたね。」

「おぉ……。」

 こいつは今度こそラピスでも脱出は難しそうだな。だが、これなら確実に氷魔人を捕らえられるだろう。

「それで、カーラさんは?」

「昨日これを作って徹夜したみたいでね、寝るって言って帰ったよ。」

 ならお礼を言いに家を訪れるのは止めておいた方がいいな。眠りを妨げるのはよろしくない。

「あ、そういえば今日は早いね?何か用でもあった?」

「あぁ、それのことなんですけど……。一つ聞きたいことがあって来たんです。」

「ふんふん、何かな?」

「ここからリオーネスって村に出てる馬車はありますか?」

「リオーネス行きの馬車ね、えっと……あった気がするけどなぁ。ちょっと待ってて。」

 すると、リルは一冊の本を手に取り、パラパラとページを捲り始めた。そしてあるページで目を止めると言った。

「んっとね~、リオーネス行きの馬車は……今月のは今週末のやつで最後かな。」

「え!?」

「リオーネスとかあの辺はね~、結局雪が降ってるから運行が難しいんだよね。だから月に一、二回しか馬車が出てないんだ。」

 となれば、今週末のを逃せば来月まで馬車がないって訳か。
 準備……間に合うか?

 猶予は後5日……。なんとか間に合わせるしかないな。

「ありがとうございました。仕事中にすみません。」

「いいのいいの~、依頼してるのはこっち側だから。それより、気を付けるんだよ。ノーザンマウントは魔物だけじゃなく天候も敵になるからね。」

「はい、ありがとうございました。」

 俺は彼女にお礼を言うと、仕事を邪魔しないうちに部屋を後にした。
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