51 / 350
第1.5章 レベリング
第051話 獄鳥の正体
しおりを挟む結局早朝までリルとカーラの二人に付き合わされた俺は若干酔いの回った体で自室へと帰り、少し仮眠をとることにした。
「少しでもアルコールを抜かないと。」
アルマ様の朝食まではまだ時間がある……。仕事に支障が出ないようにしなければ。
重たくなってきた瞼を閉じると、俺の意識は誘われるように微睡みの中へと沈んでいった。
浅い眠りをさまよっていると、突然体の上に何かがのしかかったような不思議な感じに襲われた。
「ん~、あれカオル~?起きて~朝だよ~?」
「んん?あ、あれ!?アルマ様!?」
「あっ!!起きた起きた!!カオルおはよ~。」
「お、おはようございますアルマ様。」
急いで時計に目を向けると、時間はアルマ様の朝食まであとわずかということを指し示していた。
「いっつもならカオルもう起きてるのに、今日は遅いね~。」
「少し昨日いろいろありまして。」
「ふ~ん?そうなんだ。あっ、今日の朝ごはんは何にするの~?」
俺の腹の上でポンポンと体を弾ませながらアルマ様は問いかけてくる。
「今日はシーザーサラダと、ベーコンエッグ……あとはコンソメスープとデザートにバニラアイスにしようかと。」
「今日はアイスもあるの!?」
「はい、昨日作って冷やしておいたのでもう食べごろかと思います。」
「やったー!!じゃあアルマ先に行ってるからね!!」
ぴょんと俺の体から飛び降りると、アルマ様はパタパタと走って部屋を出て行ってしまう。その後、廊下の方から声が聞こえた。
「む~……なんだなんだ朝から騒がしい。」
「あ、ラピス!!今日は朝ごはんにアイスもあるんだって!!」
「あいす?なんだそれは。」
「だからラピスも早く行こー!!」
「むおぉぉぉぉぉっ!?こ、これひっぱるなぁぁぁぁぁっ!!」
「あははははははあははははっ!!」
楽しそうなアルマ様の声とともに廊下からバタバタと走る音が聞こえる。聞こえてきた声から察するにおそらくアルマ様と俺の会話を聞いて起きてきたラピスが、アルマ様に引きずられていったに違いない。
「俺も早く準備して行かないと。」
アルマ様を待たせるわけにはいかない。早く準備していこう。
いち早く支度を整え、部屋の扉を開けるとちょうどジャックとすれ違う。
「おやカオル様おはようございます。」
「ジャックさんおはようございます。」
「昨日もまたリル様に付き合わされたようですな。」
「ははは、一回は断るんですけどね……無理矢理付き合わされちゃうんですよね。」
「ホッホッホ、彼女は昔から酒豪で有名ですからなぁ。私も何度付き合わされそうになったことか。」
「断り方を教えてほしいぐらいですよ。」
「簡単ですよ。思い人がいると告げればよいのです。それだけでリル様は一瞬固まりますからな。その隙にドロンするのが一番良い方法です。」
おぉぅ……思ったより残酷な断りかただった。その断り方は確かに彼女にはクリティカルヒットだろうな。
とてもじゃないがそんな残酷な断り方は俺にはできない。
ってか、ジャックもカーラもリルとは昔から関りがあるように語っているが……ジャックの年を考えると、もしかしてリルとカーラって……俺よりも相当年上なのか?
と、ふとそんなことに気が付いてしまうと、俺の心を読んだかのようにジャックが言った。
「カオル様、くれぐれも彼女たちに年齢のことを尋ねてはいけませんぞ?それが紳士のマナーというものです。」
「ははは、気を付けます。」
ジャックがそう釘を刺してくるのだ、絶対に聞いてはいけないことなのだろう。くれぐれも口を滑らせないように気を付けないと。
うっかり口を滑らせた暁には明日がないかもしれないからな。
「あ、それじゃあアルマ様が待ってるので……。」
「はい、今日もよろしくお願い致します。」
ペコリとお辞儀してくれたジャックに見送られ、俺はアルマ様達へ料理を作りに向かった。
朝食を作り終えた後、俺は城の中にある書物室へと足を運んでいた。
ここに来るのは、アルマ様に黄金林檎をせがまれた時以来だな。
あの時のことを思い出しながら、とある本を探す。
ぎっちりと敷き詰められた本棚を注意深く見渡しながら歩いていると、目的の本を見つけることができた。
「あった、これだ。」
俺が手に取った本のタイトルは「ノーザンマウントの生体記録」。ノーザンマウントというのがいったいなんなのかというと、それは次にアルマ様が欲するであろう食材の獄鳥が住んでいる雪山のことだ。
恐らくこの本には、ノーザンマウントに住んでいる魔物の事が記されているはず。
そう思ってページを捲ると、まず最初に書かれていたのは注意書きだった。
「なになに?」
『ノーザンマウントは過酷な環境に耐えられるように進化した魔物の温床だ。仮にこの本を読んでいる君が登頂を考えているのなら、最低でもレベルを40まで上げておいたほうがいい。雪山では寒さで体の自由が奪われる。それ故自分よりレベルの低い魔物でも苦戦することがある。』
「…………最低でもレベル40か。」
現在のレベルは36。ダンジョンから帰って来て、レベルアップの声はまだ聞いていない。
ジャックは獄鳥を倒すのなら50を目標に……って言ってたな。
「あと14……どう上げるか考えないとな。」
そしてパラパラとページを捲り、ノーザンマウントに住む色々な魔物のことを頭に知識として蓄えていると、遂にそのページにたどり着いた。
「獄鳥……正式名称ノーザンイーグル。」
こいつが次……俺が狩らなければいけない魔物か。
本によると、獄鳥と呼ばれる所以はノーザンマウントで出会えば確実に出会った者を地獄へと誘うことからそう呼ばれているらしい。
そして、理由はもう一つ……食材として食べた場合、あまりの美味しさに天獄を見てしまうからだとか。
「なるほど、これは二つ目にして強敵が現れたなぁ……。」
この本にも、ノーザンイーグルに関しての情報はあまり記載されていない。生態などはほぼ不明だ。
「どうしたもんかな。」
ため息混じりにそうポツリと溢したその時だった。
「マスター?」
「おわっ!?ビックリした……ナインか。」
「驚かせてしまい申し訳ありません。なにやらお困りのようでしたので、お声を掛けさせて頂きました。」
気配もなく横にいたのはナインだった。どうやら悩んでいる俺を心配して声をかけてくれたらしい。
「ナインに手伝えることがあれば何なりと言ってくださいマスター。」
「手伝えること……って、メイドの仕事は良いのか?」
「問題ありません。本日の業務は全て滞りなく終了致しました。」
「流石、仕事が早いな。」
彼女はまだ午前中だというのにもう仕事を終わらせてしまったらしい。
それなら、俺のレベルアップを手伝って貰おうかな。
「それならナイン。俺のレベルアップを手伝ってくれ。」
「かしこまりました。マスターのレベルアップのサポートを致します。」
そして俺はナインとともにトレーニングルームへと足を運ぶのだった。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?
N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、
生まれる世界が間違っていたって⁇
自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈
嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!!
そう意気込んで転生したものの、気がついたら………
大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い!
そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!!
ーーーーーーーーーーーーーー
※誤字・脱字多いかもしれません💦
(教えて頂けたらめっちゃ助かります…)
※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
異世界転生!ハイハイからの倍人生
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。
まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。
ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。
転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。
それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる