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第1.5章 レベリング

第051話 獄鳥の正体

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 結局早朝までリルとカーラの二人に付き合わされた俺は若干酔いの回った体で自室へと帰り、少し仮眠をとることにした。

「少しでもアルコールを抜かないと。」

 アルマ様の朝食まではまだ時間がある……。仕事に支障が出ないようにしなければ。

 重たくなってきた瞼を閉じると、俺の意識は誘われるように微睡みの中へと沈んでいった。



 浅い眠りをさまよっていると、突然体の上に何かがのしかかったような不思議な感じに襲われた。

「ん~、あれカオル~?起きて~朝だよ~?」

「んん?あ、あれ!?アルマ様!?」

「あっ!!起きた起きた!!カオルおはよ~。」

「お、おはようございますアルマ様。」

 急いで時計に目を向けると、時間はアルマ様の朝食まであとわずかということを指し示していた。

「いっつもならカオルもう起きてるのに、今日は遅いね~。」

「少し昨日いろいろありまして。」

「ふ~ん?そうなんだ。あっ、今日の朝ごはんは何にするの~?」

 俺の腹の上でポンポンと体を弾ませながらアルマ様は問いかけてくる。

「今日はシーザーサラダと、ベーコンエッグ……あとはコンソメスープとデザートにバニラアイスにしようかと。」

「今日はアイスもあるの!?」

「はい、昨日作って冷やしておいたのでもう食べごろかと思います。」

「やったー!!じゃあアルマ先に行ってるからね!!」

 ぴょんと俺の体から飛び降りると、アルマ様はパタパタと走って部屋を出て行ってしまう。その後、廊下の方から声が聞こえた。

「む~……なんだなんだ朝から騒がしい。」

「あ、ラピス!!今日は朝ごはんにアイスもあるんだって!!」

?なんだそれは。」

「だからラピスも早く行こー!!」

「むおぉぉぉぉぉっ!?こ、これひっぱるなぁぁぁぁぁっ!!」

「あははははははあははははっ!!」

 楽しそうなアルマ様の声とともに廊下からバタバタと走る音が聞こえる。聞こえてきた声から察するにおそらくアルマ様と俺の会話を聞いて起きてきたラピスが、アルマ様に引きずられていったに違いない。

「俺も早く準備して行かないと。」

 アルマ様を待たせるわけにはいかない。早く準備していこう。

 いち早く支度を整え、部屋の扉を開けるとちょうどジャックとすれ違う。

「おやカオル様おはようございます。」

「ジャックさんおはようございます。」

「昨日もまたリル様に付き合わされたようですな。」

「ははは、一回は断るんですけどね……無理矢理付き合わされちゃうんですよね。」

「ホッホッホ、彼女は昔から酒豪で有名ですからなぁ。私も何度付き合わされそうになったことか。」

「断り方を教えてほしいぐらいですよ。」

「簡単ですよ。思い人がいると告げればよいのです。それだけでリル様は一瞬固まりますからな。その隙にドロンするのが一番良い方法です。」

 おぉぅ……思ったより残酷な断りかただった。その断り方は確かに彼女にはクリティカルヒットだろうな。
 とてもじゃないがそんな残酷な断り方は俺にはできない。

 ってか、ジャックもカーラもリルとは昔から関りがあるように語っているが……ジャックの年を考えると、もしかしてリルとカーラって……俺よりも相当年上なのか?

 と、ふとそんなことに気が付いてしまうと、俺の心を読んだかのようにジャックが言った。

「カオル様、くれぐれも彼女たちに年齢のことを尋ねてはいけませんぞ?それが紳士のマナーというものです。」

「ははは、気を付けます。」

 ジャックがそう釘を刺してくるのだ、絶対に聞いてはいけないことなのだろう。くれぐれも口を滑らせないように気を付けないと。
 うっかり口を滑らせた暁には明日がないかもしれないからな。

「あ、それじゃあアルマ様が待ってるので……。」

「はい、今日もよろしくお願い致します。」

 ペコリとお辞儀してくれたジャックに見送られ、俺はアルマ様達へ料理を作りに向かった。









 朝食を作り終えた後、俺は城の中にある書物室へと足を運んでいた。

 ここに来るのは、アルマ様に黄金林檎をせがまれた時以来だな。
 あの時のことを思い出しながら、とある本を探す。

 ぎっちりと敷き詰められた本棚を注意深く見渡しながら歩いていると、目的の本を見つけることができた。

「あった、これだ。」

 俺が手に取った本のタイトルは「ノーザンマウントの生体記録」。ノーザンマウントというのがいったいなんなのかというと、それは次にアルマ様が欲するであろう食材の獄鳥が住んでいる雪山のことだ。

 恐らくこの本には、ノーザンマウントに住んでいる魔物の事が記されているはず。
 そう思ってページを捲ると、まず最初に書かれていたのは注意書きだった。

「なになに?」

『ノーザンマウントは過酷な環境に耐えられるように進化した魔物の温床だ。仮にこの本を読んでいる君が登頂を考えているのなら、最低でもレベルを40まで上げておいたほうがいい。雪山では寒さで体の自由が奪われる。それ故自分よりレベルの低い魔物でも苦戦することがある。』

「…………最低でもレベル40か。」

 現在のレベルは36。ダンジョンから帰って来て、レベルアップの声はまだ聞いていない。

 ジャックは獄鳥を倒すのなら50を目標に……って言ってたな。

「あと14……どう上げるか考えないとな。」

 そしてパラパラとページを捲り、ノーザンマウントに住む色々な魔物のことを頭に知識として蓄えていると、遂にそのページにたどり着いた。

「獄鳥……正式名称。」

 こいつが次……俺が狩らなければいけない魔物か。

 本によると、獄鳥と呼ばれる所以はノーザンマウントで出会えば確実に出会った者を地獄へと誘うことからそう呼ばれているらしい。
 そして、理由はもう一つ……食材として食べた場合、あまりの美味しさに天を見てしまうからだとか。

「なるほど、これは二つ目にして強敵が現れたなぁ……。」

 この本にも、ノーザンイーグルに関しての情報はあまり記載されていない。生態などはほぼ不明だ。

「どうしたもんかな。」

 ため息混じりにそうポツリと溢したその時だった。

「マスター?」

「おわっ!?ビックリした……ナインか。」

「驚かせてしまい申し訳ありません。なにやらお困りのようでしたので、お声を掛けさせて頂きました。」

 気配もなく横にいたのはナインだった。どうやら悩んでいる俺を心配して声をかけてくれたらしい。

「ナインに手伝えることがあれば何なりと言ってくださいマスター。」

「手伝えること……って、メイドの仕事は良いのか?」

「問題ありません。本日の業務は全て滞りなく終了致しました。」

「流石、仕事が早いな。」

 彼女はまだ午前中だというのにもう仕事を終わらせてしまったらしい。

 それなら、俺のレベルアップを手伝って貰おうかな。

「それならナイン。俺のレベルアップを手伝ってくれ。」

「かしこまりました。マスターのレベルアップのサポートを致します。」

 そして俺はナインとともにトレーニングルームへと足を運ぶのだった。
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