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第1.5章 レベリング

第034話 魔女(?)

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 次の日、俺は早速ジャックにリルから依頼されたダンジョンのことについて相談を持ちかけた。すると彼は意外にもすんなり首を縦に振ってくれた。

「もちろん構いませんよ。」

「えっ!?いいんですか?」

 俺の相談に一つ返事で返してきた彼に思わず俺は聞き返す。

「以前カオル様が留守にした際に、その準備の良さは把握しておりますので。私でも温めるだけで魔王様が満足する美味しい料理を作り置きしてくれましたから。今回もそうしてくれるのでしょう?」

「もちろんです。」

「そうであれば何も問題はありません。まぁ魔王様は少し寂しい想いをしてしまうかもしれませんが、これもカオル様のレベルアップのためですからな。」

 そう言って彼は俺とラピスがダンジョンに行くことを快く了承してくれた。そして彼は一口紅茶を口に含むと、ふぅと息を吐き出しながら言った。

「それにしてもダンジョンの探索の依頼が入るとは、なかなか珍しいですな。」

「話を聞いた限りだと、ダンジョンの先遣隊の人達が魔物に手も足も出なくてギルドに依頼が回って来たらしいです。」

「なるほど、それはかなり難易度の高いダンジョンのようで……まぁカオル様のレベルアップにはもってこいでしょう。」

 ティーカップをテーブルに置くと彼はダンジョンのことについて話し始めた。

「ダンジョンに出てくる魔物は通称と呼ばれています。この世界に蔓延っている魔物と同じような見た目をしておりますが、魂の本質が全く違います。」

「魂の本質?」

「はい、ダンジョンの外で倒した魔物の死体は消えないため武器や防具などの素材となりますが、ダンジョンで倒した魔物はその場で消滅し、丸ごと経験値となって体に吸収されるのです。」

「じゃあ普通の魔物を倒すよりもよっぽど効率よくレベルアップできるってことですか?」

「そういうことですな。」

 じゃあ出会った魔物は片っ端から倒していった方がよさそうだな。

「しかしここで気を付けねばならないことが一つあります。それは、倒した魔物の経験値は最後に攻撃した一人にしか入らないのです。」

 つまり経験値を得るにはとどめの一撃……ラストアタックを決めないといけないってことか。ラピスと二人で攻略するから気を付けないといけなさそうだ。

「まぁレベルに関してはラピス様はあまり興味はなさそうですし、カオル様に譲ってくれるのではないですか?」

「そうしてくれるとありがたいんですけどね。後で話してみます。」

「ぜひそうしてみてください。それで出発はいつ頃にする予定で?」

「今週末にしようかと思ってました。」

 アルマ様の料理を作り置きしておかないといけないし、二日三日分のダンジョン内で過ごすための準備も整えないといけないからな。

「かしこまりました。ではこちらでもそのように調整しておきます。」

 そしてジャックからの了承も得たところで、俺が部屋を後にしようとしたとき……ふと彼は思い出したように言った。

「そういえばカオル様は、というものをご存じですかな?」

「それは俺の持ってるスキルみたいなやつですか?」

「残念ながらそこまでの力はありません。ある一定の狭い空間の時の流れを止める魔法なのです。とても実戦で使えるような代物ではありません。」

「それがなにか?」

「最近私の古い友人がそれを使ってあるものを開発したそうなのです。おそらく今後カオル様にとって必要になる物かと。」

 そう言って彼は俺にとある住所の書いてある紙を差し出してきた。

 住所を見た限り彼の言っている友人の家というのは、どうやら城下町の外れの外れ……本当に町外れにあるようだ。

「まだ魔王様のご飯までは時間がありますし、行ってみては如何でしょうか?」

「……わかりました。」

「ホッホッホ、そう言ってくれると信じておりました。その友人には既にカオル様が向かうと言ってありますので……。」

 その言葉を聞くに最初から拒否権はなかったんじゃないか。

 ジャックの手の回しように思わず呆れてしまったが、今後必要になるものということであれば一度見てみた方が良いだろう。

 そして俺は笑顔のジャックに見送られ、彼の友人の家がある町外れへと赴くのだった。







「……住所だとこの辺りのはず。」

 ジャックに渡された紙に書いてある住所を頼りに、彼の友人宅へと向かっていたのだが、紙に書いてある住所の付近に来ても家らしきものは見当たらない。

「おかしいな。」

 ジャックが間違ったのだろうかと思っていたその時……。

「何もおかしくは無いさ。」

「っ!?」

 突然後ろから声をかけられた。すぐに後ろを振り返ると、そこには俺よりもふた回りほど大きな……まさに巨人と呼ぶべき程の身長の女性が立っていた。
 彼女の風貌はどこか西洋の魔女のような雰囲気を醸し出している。

「あんたがジャックの言っていた人間だな?」

「あ、は、はい。」

「アタシの名前はカーラ。見ての通りのさ。」

 彼女は、くいっと誇らしげに三角帽子を持ち上げながらギザギザの真っ白な歯を見せて笑う。

「カオル……です。」

 カーラと名乗った彼女の気迫に圧され、思わず声が小さくなる。

 って言ってるけど、どこからどう見ても物理系の人だけどな!?
 どちらかと言えば、その大きな木製の杖よりもでっかい斧なんかを持ってた方が似合いますけどっ!?

 とまぁ、そんなことを心で思ってはいるが、とても口にはできない。マジで殺されそうだからな。

「ここに来たっつうことは、アタシのを見に来たんだろ?」

「あ、そ、そうです……。」

 俺が首を縦に振ると、カーラは満足そうに笑みを浮かべ、手にしていた大きな杖で地面をトン……と叩く。
 すると、俺の目の前の空間がぐにゃりと歪み、そこになかった筈の大きな家が突然姿を現した。

 突然のことに驚いていると、カーラは得意気に笑った。

を見るのは初めてかい?こんなことで驚いてたら、アタシの家に入ったら心臓が持たないよ?」

 どうやら家を隠していたのはという魔法らしい。

 ポカンと呆気にとられていると、彼女にドン!!と背中を押された。

「ほら、なにボサッとしてんだい。見せたいもんは中にあるんだ、ほらほら入った入った。」

 そしてとてつもない力でグイグイと背中を押され、家の中に連れ込まれる。

「あ、お、お邪魔します……。」

「見せたいもんは新作だけじゃあないからねぇ。他のもたっぷり見てってもらうよ?」

 鋭い眼光を光らせ、ニヤリと笑う彼女。そんな彼女の笑みを見て俺の中にふと、ある不安が沸き上がった。

 あれ?これ……俺帰れるかな? 
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