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二節 開花
4-2-3
しおりを挟むヴラドたちが吸血鬼対策部隊の本部へと襲撃をかけてから、ぱったりと報道で吸血鬼事件のことについて触れられることはなくなった。
まるで初めからそんなことはなかったかのように……。その代わりに報道されているのは、相変わらずエリーとメイの二人が逃亡を続けているというものだけ。
すっかり日本でやることもなくなったエリーとメイは今後のことについて話し合っていた。
「ねぇエリー、これからどうしよう?」
「どうしよう……か。正直見通しが立ってねぇんだよな。アタシもこの通りだしよ。」
「うん、一番の問題はそれよね。元に戻る方法は……ってそんな質問するだけ野暮だったわね。」
「ん~まぁ仮に見つかったとしても、ここ最近人間に戻りたいとは思わなくなったな。」
煙草を咥えながら、呆けるようにエリーは言った。
「え、戻りたくないの?」
「ぶっちゃけた話、今のこの体結構楽だぜ?それに傭兵ってアタシらの仕事を考えりゃあ、戦闘力が上がることは悪いことじゃねぇだろ?」
「そりゃあそうだけど……ん~まぁ、エリーが良いならそれでいいけれど。まだ吸血鬼って存在の全貌が明らかになったわけじゃないんだから、とにかく気を付けてよね?」
「わかってる。」
「兎にも角にも、今は時の流れに身を任せるしかないわね。今のところリースさんの依頼の後に閊えてる依頼はないから、窮屈だけど少し日本でゆっくりしましょうか。」
「そうだな。」
そしてエリー達が話し合いを終えてくつろいでいると、そこへひょっこりとリンが顔を出す。
「え、エリーお姉ちゃん。」
「んぁ、リンか。」
チラリと時計を見ると、時計の針はリンの吸血の時間を指し示していた。
「飯の時間だな。ほいよ。」
エリーはリンに手を差し出した。すると、リンはエリーの人差し指を口に咥えてちゅ~ちゅ~と吸血を始めた。
その光景を不思議そうにメイが眺めていた。
「思ったけど、吸血鬼が吸血鬼の血を吸うって……大丈夫なの?」
「ん?知らねぇけど、リンの腹は膨らむらしいぜ?」
「へぇ~……。」
そしてリンがエリーの指を口から話すと、とても満足そうな表情を浮かべる。
「す、すごい……エリーお姉ちゃんの血、すっごくすっごく美味しくなってる。」
「アタシの血が?」
「う、うん。」
「吸血鬼になっちまったからか?そこんとこは、よくわかんねぇな。」
「ほ、本当はもっと欲しかったけど我慢したの。」
「勘弁してくれリン。アタシが死んじまうぜ……ってか吸血鬼って失血死すんのか?」
すっかり自分が吸血鬼となったことに慣れてしまったエリーはのんきに、そんなことを考えながら1日を過ごすのだった。
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