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第四章 一節 人と吸血鬼と
4-1-6
しおりを挟むエリー達は侵入した研究施設の地下を目指していた。その途中、けたたましくサイレンが施設の中に鳴り響いた。
『侵入者を確認。侵入者撃退プロセスを発動……被検体038番を解放します。』
「あん?」
機械音声が響くと同時に、彼女たちの目の前の扉がゆっくりと開き、そこからゆらりと一人の人影が姿を現した。
灯りに照らされて見えたその風貌にエリーはぽつりと呟いた。
「一ノ瀬……テメェまでこんなくだらねぇ実験に使われたのか?」
「ウゥァ……。」
エリー達の前に現れたのは変わり果てた姿の一ノ瀬。既に理性は完全に失っているようだ。
「政府のやつら、ひどいことするわね。」
「こいつの性格はまぁまぁ好きだったんだが、こうなっちゃ仕方ねぇな。」
エリーはハンドガンをしまうと、腰から銀のブレードを二本抜いた。
「バリー、メイのこと庇って下がってな。」
「わかった。気をつけろよエリー。」
そして、エリーはゆっくりと変わり果てた一ノ瀬へと歩み寄っていく。
「テメェも結局は政府のやつらに踊らされてただけなんだろ?あん時の土下座に免じて……なるだけ楽に逝かせてやる。」
タンッとエリーは軽く床を蹴ると、一ノ瀬へと一直線に距離を詰める。
「メ、命令を……遂…行ぅ。」
ぽつぽつと言葉を一言一言つなぎ合わせるように呟いた一ノ瀬は、自らの腕に嚙みつくと、そこから流れた血を自らの体に纏わせていく。そのスピードは速く、エリーの刃が届く前に彼女の体を覆いつくす。
「何だか知らねぇが、終わりだっ!!」
構わずエリーは心臓へとブレードを突き立てるが、甲高い金属音とともに弾かれてしまう。
(っ!!硬ぇっ!?)
直後一ノ瀬の血の鎧から触手が生え、エリーへと向かって放たれた。
「チッ。」
バックステップで下がったエリーの足元の床が触手によって簡単に貫かれる。
「面倒なモン貰ったなぁ一ノ瀬。」
エリーはブレードを投げ捨てると、メイに声をかける。
「メイ!!アレよこしてくれ!!」
「うん!!」
そしてメイからエリーへと投げ渡されたのは、パイルバンカーの入ったアタッシュケース。エリーはそれを受け取ると、手早く右腕に装着した。
「ふぅ、さて第二回戦と行くかぁ!?」
再びエリーは床を蹴って一ノ瀬との距離を詰める。しかし今度は一筋縄ではいかず、一ノ瀬の血の鎧から生えてきた触手がエリーを迎撃するべく放たれる。
「ほっ!よっ!」
身軽な動きでエリーはその触手を躱すと、再び一ノ瀬の懐へと潜りこんだ。
「ウゥァッ!!」
懐に入ったエリーへと一ノ瀬は蹴りを繰り出した。それをもエリーは半歩体をずらして躱すと、一ノ瀬の顎へと向かって左腕でアッパーを叩き込む。
その衝撃はすさまじく、一ノ瀬の体が一瞬宙に浮いた。それと同時に、エリーは右手に装着したパイルバンカーを一ノ瀬の体に当てる。
「終わりだ。」
そして轟音とともに放たれる銀の杭は、一ノ瀬の心臓を貫いた。その瞬間がっくりと体から力が抜け、エリーにもたれかかるように倒れた一ノ瀬は、最後の最後にエリーの耳元でぽつりとつぶやいた。
「あり…がとう。」
その言葉を絞り出した後に彼女は絶命した。エリーはそっと一ノ瀬の体を床に寝かすと、後ろで隠れていたメイたちに声をかけた。
「終わったぜ。」
そして彼女たちは再びブレインへと向かって歩みを進め始めたのだった。
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