腐りかけの果実

しゃむしぇる

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第三章 一節 切り開かれた未来

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「くぁぁ~…………最近暇だなぁ。」

 ソファーに寝転がりながら大きな欠伸をしたのはエリー。ここ暫くはリースに吸血鬼のことを追うのを止められているため、彼女には現在仕事がないのだ。

「すっかりだらけちゃって……。」

 そんな彼女を見下ろして呆れたようにため息を吐いたのはメイだ。

「つったってよ、お袋に止められてる以上何もできねぇだろ?アタシの吸血鬼用の武器だってまだ直ってねぇんだ。」

「そりゃあそうだけど……。こういう時こそトレーニングとかさ。」

「トレーニングか。」

 チラリとエリーが、たまたまそこを通りすがったバリーへと視線を向ける。するとその視線に気が付いたバリーはそそくさと声をかけられる前に行ってしまった。

「相手がいねぇんだよなぁ。それともメイがアタシのトレーニング相手になってくれるか?」

「冗談言わないでよ、わたしはそういうのからっきしなんだから。」

「だよな。」

 そして怠惰にエリーが過ごしていると今日の実験を終えたリースとリンの二人がやってきた。

「やぁやぁ暇そうだねエリー?」

「エリーお姉ちゃん!」

「おぅふ。」

 エリーのことを見ると一直線にリンは彼女へと走り、お腹へと飛びこんだ。

「そんな暇してるエリーに私からお願い事があるんだ。いい暇つぶしになると思うけど、どうだい?」

「内容は?」

「ツバキの旅館を狙う半グレ集団の壊滅さ。」

「旅館を狙う半グレだぁ?ずいぶんらしくねぇ場所狙ってんなぁ。宝石店とかに強盗に入るんならわかるがよ。」

「いや、案外間違ってないよ。ツバキの旅館には私が集めた価値のある物品がたくさんある。どこでその噂を耳にしたのかは知らないけど、おそらくはそれが狙いだね。」

「はぁ~、どこまでも金が目的か。」

「まぁ金が絡めば死人が出るのは世の常さ。で、やってくれるかい?」

「あぁ、あの旅館はまた行きてぇと思ってたんだ。そこを半グレ風情にやるわけにゃいかねぇわな。」
 
「それじゃあよろしくね!」

「まかせな。」

 リースからお願いを託されたエリーは、すぐに自分の武器を整備して用意を整え始める。

「メイ、ナビゲートは頼むぜ。」

「まかせて!もうリースさんからその半グレがたむろしてる場所の座標はもらってるから。」

「ん、オーケーだ。」

 そしてバイクのヘルメットをかぶり出かけようとすると、リンがエリーに声をかけた。

「え、エリーお姉ちゃんどこ行くの?」

「ちょっと悪い奴を懲らしめてくるだけだ。大人しく待ってな。」

「き、気を付けて……ね?」

「あぁ。」

 ぽんぽんとリンの頭を撫でた後、エリーはバイクに跨り半グレの屯する場所へと向かうのだった。



 メイのナビゲート通りにバイクを走らせ、目的の場所についたエリーは、半グレが屯している場所を眺めてため息を吐く。

「ここは、ビリヤード場か。半グレには似合わねぇなぁ。こういうのは紳士がやるもんだぜ?」

 半グレたちが根城にしていたのは、もう使われなくなったそこそこ大きなビリヤード場だった。使われなくなっているというのに中からは灯りが漏れてきている。

 そうぽつりと溢すとメイから無線が入る。

『エリー、ツバキさんから連絡があって、一人応援に向かわせてるって。』

「ん、了解。」

 そしてエリーが無線を切ると、建物の陰からツバキ専属のくノ一であるカラスと同じ装束を身にまとった女性が現れた。

「お初目にかかります。私の名は。カラス様の命により助太刀いたします。」

「フクロウにカラス……アンタらの一族ってのは鳥の名前を襲名するもんなのか?」

「詳しくは言えませんが、そのように思っていただいて結構です。……さぁ、自己紹介はもういいですね。任務を遂行しましょう。」

「あぁ。」

 エリーは両手にサプレッサーのついたハンドガンを構え歩き出す。その前を歩くフクロウは小太刀を両手に構えている。エリーは前を歩くフクロウの足運びを興味深く眺めていた。

(普通に歩いてるように見えるが、まったく足音が出てねぇ。すげぇな。)

 フクロウのことを観察しながらも、二人はビリヤード場の中に入る。すると中では至る所で男女が裸で抱き合っていた。体液や汗の臭いに混じり、強烈なアルコールの臭い。そしてドラッグの臭いが鼻をつく。

 呆れたように眺めていたエリーにフクロウが言った。

「今回の任務はです。ここに今いる者は部外者でも殺してください。」

「あいあい。わかった。」

 すると入口に立っていた二人に気が付いた半グレの男が何人か寄ってくる。

「おぉ、また女が来たぜ!!しかも忍者のコスプレなんてしてやがる!!誰が連れてきたんだぁ?」

「そんなこった構いやしねぇ!!おい、あっちで俺と……。」

 フクロウの体に触れようとした男の腕が宙に舞う。

「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!!お、俺の、俺の腕ぇぇぇぇっ!!」

「私の体に気やすく触るなゴミムシ。」

 フクロウが血の付いた小太刀を払うと鮮血が床に落ちる。

 そこでやっと異常事態に気づいた半グレが戦闘態勢に入った。

「カチコミだ!!囲め!!」

 すると続々と半グレがエリー達を囲む。それにエリーとフクロウは眉一つ動かさない。それどころか二人は笑った。

「ハッ、自分らから死ににくるたぁいい心がけだ。」

「えぇ、まったくです。」

 笑う二人に神経を逆なでされたのか、二人へと目を血走らせた半グレたちが襲い掛かる。
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