腐りかけの果実

しゃむしぇる

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第三章 一節 切り開かれた未来

3-1-1

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 ヴラド達がいなくなった後、エリーはリースに無線をつないだ。

「お袋、アタシだ。」

『エリー!!無線を繋いできたってことは、やったんだね?』

「あぁ、一応……今回は生き残れたみてぇだ。」

『一応って言うと?』

「ヴラドの野郎をぶっ殺すことはできなかった。アイツは弱点が二か所あったんだ。」

『普通の吸血鬼とは一線を画している存在ってわけか。まぁでも、逃がしちゃったとはいえ生き残れたんだからいいじゃない。』

「そうだな。これからリンのことを保護して戻るぜ。」

『うんうん、帰り道にはくれぐれも気を付けるんだよ。』

「了解。」

 エリーは無線を切ると、リンの家のドアを開けて中に入る。そして子供部屋の中に入ると、そこには部屋の中心でうずくまるリンの姿があった。
 エリーは歩み寄ると、リンの肩に手を置いて語りかける。

「大丈夫か?」

「ぐすっ……お姉ちゃんだれ?」

「アタシの名前はエリー。お前を助けに来た。」

「え、エリーお姉ちゃん……あ、あのね。」

「言わなくていい。お前にこの親がどんな仕打ちをしてたのかは知ってるからな。」

 そう言ってエリーはリンのことを軽く抱き上げた。

「ひとまずここにいちゃいけねぇ。アタシと一緒に来てくれるか?」

「うん。」

 そしてエリーはリンを連れてリースのラボへと戻るのだった。

 リンを連れてラボに戻ると、そこにではリースが二人のことを待っていた。

「お帰りエリー。」

「あぁ。」

 にっこりと嬉しそうな表情をエリーに向けた後リースは、リンに声をかけた。

「やぁ、キミがリンちゃんだね?」

「う、うん。」

「私はエリーの母親のリース。よろしくね。」

「え、エリーお姉ちゃんのお母さん?」

「信じらんねぇだろ?」

 くつくつと笑ってそう言ったエリーの言葉にリンは何度も頷く。

「さて、一先ずリンちゃんの体についてる血を洗い流そうか。リンちゃんお風呂は好きかい?」

「す、好き。」

「うんうん、結構。それじゃあ私と一緒にお風呂入ろ!!エリーもシャワー浴びてきなよ。」

「あぁ、そんじゃリンのことは任せたぜ。」

 リースとリンは大浴場のほうへと向かって行った。それを見送った後エリーはシャワールームへと向かった。乱雑に衣服を脱ぎ捨てた後、シャワールームに入った彼女は少し熱めのシャワーを浴び始める。

 水滴が彼女の体に当たると、ヴラドの返り血が洗い流されていく。

「はぁ、アタシ勝ったんだよな。」

 いまだに少し現実味を帯びていない現状に思わずエリーはそうこぼす。

「あの目を出す吸血鬼の野郎、去り際にって言ってやがった。」

 目の吸血鬼が最後去り際に残した言葉がエリーの頭に張り付いて離れない。

「アタシらが吸血鬼に関わり続ければ、アイツ等と鉢合わせるのは時間の問題だ。来るときには備えておかなきゃならねぇな。」

 シャワーを終え、ラウンジで煙草を吸いながら一服していたエリーのもとにすっかり綺麗になったリンとリースがやってくる。

「待たせちゃったかなエリー。」

「いんや、そうでもねぇ。リンもすっきりしたみてぇだな。」

「うん。き、気持ちよかった。」

 ホカホカと湯気を立ち昇らせるリンの顔はとてもほっこりとしていて、リラックスしているように見える。

「さてリンちゃん、お風呂にも入ったところで……お腹減ってないかい?」

 ツンツンとリースはリンのお腹をつつく。するとそれに反応してか、きゅるる……とリンのお腹から可愛らしい悲鳴が上がる。

「あはは、正直なお腹だ。」

 満足そうにリースは笑うと、一人キッチンへと向かい軽い味付けをした重湯を持ってきた。

「本当は美味しい料理をがっつり食べさせてあげたいところなんだけど、栄養失調の症状が顕著に出てるからね。お腹がびっくりしないように消化に良いものから少しずつ食べていこうか。」

 スプーンでそれを少し掬うと、軽く冷ましてからリースはリンに差し出した。

「はい、あ~ん。」

「あ……。」

 ひな鳥のように口を開けたリンに重湯を食べさせていくリース。その途中ぽろぽろとリンが涙を流し始める。そんなリンを優しくなだめながらゆっくりとリースは重湯を食べさせた。

 その後、やはりあのイベントが巻き起こる。

「あれ、リンちゃん目が少し紅いね?これってもしかして前にエリーが言ってた、吸血衝動ってやつ?」

「あぁ、間違いねぇな。」

「え、エリーお姉ちゃんすごくいい匂い。おいしそう……。」

「こうなっちゃ仕方ねぇからなぁ。」

 一つ溜息を吐き出すとエリーはリンに人差し指を差し出した。

「ちゃんと加減してくれよ?」

「う、うん!い、いただきます。」

 死なないことがわかっているエリーは、大人しくリンに自分の血を吸わせるのだった。

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