腐りかけの果実

しゃむしぇる

文字の大きさ
上 下
38 / 88
二節 死に戻りのリベンジ

2-2-7

しおりを挟む

 ターゲットだった松本ヨシキの会社から脱出したエリーはすぐにメイに連絡を入れる。

「メイ、アタシだ。」

『あ、エリー!!心配したのよ、中に潜入してから一切無線がつながらなくなっちゃってたから……。』

「ターゲットの確保は失敗した。だが、一つ有益な情報がつかめたぜ。」

『ターゲットの確保に失敗って……何があったの?』

「アタシと同じ目的のやつがいた。そいつにターゲットを渡す代わりに一つ……情報をもらったんだ。」

『その情報が噓の可能性は?』

「ねぇ。断言できるぜ。」

『そう、それでどんな情報をもらったのよ。』

「吸血鬼化する薬をばら撒いてるやつらが、その薬を使ったやつらを回収してる。今さっきかち合ったやつもその組織の一人らしい。」

『えぇ!?そうなるとかなり厄介かも……こっちがかなり先手を打たないと、リースさんの欲しいサンプルを回収できないわね。』

「ひとまずラボに戻るぜ。詳しい話はそっからだ。」

 ターゲットを引き渡す代わりに得た、この事件の核心に迫る情報……そしてエリーの運命にも大きくかかわる重要な情報。三回目の生にてやっと掴んだそれをエリーは脳に深く刻み込みながらラボへと戻るのだった。



 ラボに戻り、メイと情報共有を終えたエリーは、まっすぐにリースのもとへと向かう。

「お袋、入るぜ。」

 ノックもせずにエリーはリースの研究室の中へと入る。すると機械のメンテナンスをしているリースの姿があった。

「あ、エリーお帰り~。どうだった?」

「ターゲットの回収こそできなかったが、代わりに一つ、いい情報をつかんだぜ。」

 エリーは本棚からヴラド三世のことが記載された本を引っこ抜くと、リースの前に広げ、ヴラド三世の顔写真を指さす。

「アタシのことを散々殺しまくりやがったこいつは、吸血鬼化する薬をばら撒いてる組織の一人だ。」

「その情報は……どこから?」

「ターゲットを回収に行ったとき、ちょうどその組織の一人とかち合ってな。ターゲットを引き渡す代わりに教えてもらった。嘘はついてなかったぜ。」

「ふむ、キミに聞かれたことに素直に答える辺り、なかなか義理深い人だったみたいだね。人の道を外れていることをしている組織なのに不思議なものだよ。」

 メンテナンスを終えたリースはエリーの報告に苦笑いする。

「さて、エリーもいい報告をしてくれたからね。私からも一ついい報告をさせてもらおうかな。エリー利き手出して。」

「ん。」

 エリーはリースに言われるまま右手を差し出す。するとリースは先ほどまでメンテナンスしていた機械をエリーの右手に装着していく。

「火薬による爆発推力を採用した対吸血鬼用パイルバンカー。第一号完成だよ。」

「お、思ってたより重ぇな。」

「どうしてもね爆破の衝撃に耐えられる素材を使ってる関係上、重量はかなり重くなっちゃった。でも威力は保証するよ。」

 そう言うとリースは近くに立てかけてあった分厚い金属の板をエリーに見せた。その金属の板の中心には大きな風穴があいている。

「これは最新鋭の戦車の装甲を再現した金属板なんだけど、それにかかればこの通りアッサリ貫通さ。」

「マグナムなんかとは比べ物にならねぇなこの威力は……。」

「ただ、射程距離はほぼ0m。密着状態じゃないとこの威力は発揮できないよ。それに連続使用は3回までしかできない。それ以上は部品と、使用者の手が壊れちゃう。」

「3回もチャンスがあれば十分。むしろ多すぎるぐらいだ。」

「少しでも保険は多いほうがいいかなと思ってね。使用回数を一回きりに絞ればまだまだ軽量化はできるよ。」

「ん、まぁとりあえず今回はこれでいいわ。ちなみに試しに使ってみてもいいか?」

「当たり前だけどシューティングレンジでやってね。ここじゃいろんなものが吹き飛んじゃうよ。」

 そしてシューティングレンジへと移動してきた二人。リースは先ほど穴が開いていた金属板と同じもの持ってくるとその場に固定する。

「それの威力を確かめる前に、まずはこの金属板の耐久度を見てよエリー。」

 リースはシューティングレンジに立てかけてある対戦車ライフルを担ぐと、その金属板に向かって構えた。彼女が引き金を引くと、室内に響き渡る轟音とともに巨大な弾丸が金属板に向かって一直線に飛んでいくが、金属板に直撃した瞬間、その弾丸はチュン……と甲高い擦れるような音とともに跳弾し、大幅に威力を削がれて壁に激突し落ちた。

「この通り対戦車ライフルでもビクともしないよ。」

「あぁこんぐらいでちょうどいい。」

 エリーはその金属板に歩み寄ると、パイルバンカーを密着させる。そして手元のレバーを勢いよく引く。

 それと同時に響く雷が間近に落ちたかのような爆音と、手に襲い掛かる強烈な衝撃。思わずエリーは苦悶の表情を浮かべるが、そんな彼女の眼前では、その威力を現すように銀色に光る杭が金属板を貫通していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

自衛官、異世界に墜落する

フレカレディカ
ファンタジー
ある日、航空自衛隊特殊任務部隊所属の元陸上自衛隊特殊作戦部隊所属の『暁神楽(あかつきかぐら)』が、乗っていた輸送機にどこからか飛んできたミサイルが当たり墜落してしまった。だが、墜落した先は異世界だった!暁はそこから新しくできた仲間と共に生活していくこととなった・・・ 現代軍隊×異世界ファンタジー!!! ※この作品は、長年デスクワークの私が現役の頃の記憶をひねり、思い出して趣味で制作しております。至らない点などがございましたら、教えて頂ければ嬉しいです。

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

しっかり者のエルフ妻と行く、三十路半オッサン勇者の成り上がり冒険記

スィグトーネ
ファンタジー
 ワンルームの安アパートに住み、非正規で給料は少なく、彼女いない歴35年=実年齢。  そんな負け組を絵にかいたような青年【海渡麒喜(かいときき)】は、仕事を終えてぐっすりと眠っていた。  まどろみの中を意識が彷徨うなか、女性の声が聞こえてくる。  全身からは、滝のような汗が流れていたが、彼はまだ自分の身に起こっている危機を知らない。  間もなく彼は金縛りに遭うと……その後の人生を大きく変えようとしていた。 ※この物語の挿絵は【AIイラスト】さんで作成したモノを使っています ※この物語は、暴力的・性的な表現が含まれています。特に外出先等でご覧になる場合は、ご注意頂きますようお願い致します。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

処理中です...