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二節 交錯する思惑
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二泊三日という旅行期間もあっという間に過ぎ去った。
二人にとっては久しぶりのしっかりとした休暇、その効果は絶大で、傭兵生活などで蓄積した疲労などを完璧に取り去った。
旅館からでてきた二人はここに来る前とは違いどこかスッキリしたような、面構えをしている。
「んぁ~、体が軽ぃ。」
ぐるぐると肩を回すエリーの姿はやはり軽快そうだ。その隣にいるメイに至っては温泉の効果だろうか、肌のツヤが以前よりも増している。
「お忘れ物はございませんか?」
二人を見送るため同行してきたツバキが問いかける。
「大丈夫です、しっかり確認しましたから。エリーも大丈夫よね?」
「あぁ、バッチリだ。」
「ふふふ、そうですか。それでは麓まで送りましょう。もうお二方のお迎えが来ているようですから。」
そして三人は旅館へと続く山道を下ってゆく。その最中、エリーが何かに気が付いた。
「ん?」
クンクンとエリーが鼻を鳴らす。
「エリー?どうかした?」
「……いんや、なんでもねぇ。」
(かすかに血の匂いがする……。獣の匂いじゃねぇ、間違いなくこいつは人間だ。)
きょろきょろとあたりを見渡す彼女だが、それらしきものは見当たらない。そんな彼女の様子をツバキは興味深そうに眺めていた。
登ってくる時とは裏腹にあっという間に麓にたどり着くと、そこではバリーが二人のことを待っていた。
「おっ、来たな二人とも。ずいぶんリフレッシュできたみたいだな!面構えが違う。ツバキさんによっぽどもてなしてもらったみたいだな。ちゃんとお礼言ったか?」
「言ったつぅの。」
「ふふふ、もうお礼はたくさんもらってますよバリー様。」
「そいつは失礼しましたツバキさん。それと姉さんから伝言を預かってますよ。」
そう言ってバリーはツバキに一枚の紙を手渡した。それをそっと彼女は開くと、一つ納得したようにこくりと頷いた。
「確かに預かりました。」
その言葉を聞いたバリーは車の運転席に乗り込んだ。そしてツバキはエリー達へとぺこりと一礼する。
「もしまたお時間があればいつでもいらしてくださいね?」
「ありがとうございます!絶対来るわよエリー!」
「はいはいわかったよ。ほんじゃ、世話んなったな女将さん。」
「帰り道にはお気をつけて……。またのご来訪お待ちしております。」
エリー達の姿が見えなくなるまでツバキは深々と頭を下げていた。そして車が完全に見えなくなると、彼女のもとに忍者装束の女性が現れる。
「ツバキ様、あのエリーという女性……血の匂いに感づいておりました。」
「えぇ、そのようね。普通の人間じゃまず感じ取れないでしょうものを、敏感に感じ取るあの力……どうやら順調に成長しているみたいですね。次に会うときが楽しみ……ふふふ。」
踵を返してツバキが山道を戻り始めると、彼女のそばに控えていた忍者装束の女性もどこかへと消えた。
二人がリースのラボへと戻ると、たくさんの資料をまとめているリースの姿があった。
「あ、二人ともおかえりー。どうだった?いいとこだったでしょ?」
「あぁ、最高だったぜ。ま、お袋が何から何まで手掛けただけあったわ。」
「あそこは景色もいい上に近くに温泉の源泉があったからね。立地条件が最高だったんだ。まぁ~思わず旅館立てちゃったよね。」
けらけらとリースは笑う。
そんな彼女の様子にエリーが呆れていると、メイがリースのまとめている資料に目を落とした。
「これは、もしかして吸血鬼の研究データですか?」
「その通り!キミたちが温泉につかっている間に、ずいぶん研究が進んだよ。」
「ほーん、なら吸血鬼をぶっ殺す方法も分かったのか?」
「もちろん!まずはこれを見て~。」
リースが取り出したのは一枚のレントゲン写真。一見普通のレントゲン写真のように見えるが、ある部分が普通の人間とは違っていた。
「ここ、わかる?」
リースが指さしたのは心臓……に隣接している謎の臓器。
「こいつは?」
「おそらくは吸血鬼の力の源ってところだろうね。彼らが何かしらの能力を使うときには必ずここが肥大化するんだ。」
「ほぉ……。」
「ちなみにやっぱり普通の武器じゃ傷つけることはできなかったよ。ここの臓器だけほかの部位よりも圧倒的に修復が早いんだ。ナイフで切ったとしても、切ったそばからすぐに修復しちゃう。」
「銀の武器なら?」
エリーのその問いかけにリースはにこりと笑って頷いた。
「一撃さ。実験では試しに殺傷能力の低いフォークで試したんだけど、臓器を貫いた瞬間に絶命したよ。」
「はっ、なら話は早ぇな。生け捕りは専門外だったが……殺しに関してはエキスパートだぜ。」
「あ、もちろんサンプルは生きた状態じゃなきゃダメだよ?」
「マジか。」
「大マジ♪」
やる気を出したエリーの心をへし折るリースの一言。吸血鬼についていろいろ分かったとはいえ、彼女たちの仕事は変わらないようだ
二人にとっては久しぶりのしっかりとした休暇、その効果は絶大で、傭兵生活などで蓄積した疲労などを完璧に取り去った。
旅館からでてきた二人はここに来る前とは違いどこかスッキリしたような、面構えをしている。
「んぁ~、体が軽ぃ。」
ぐるぐると肩を回すエリーの姿はやはり軽快そうだ。その隣にいるメイに至っては温泉の効果だろうか、肌のツヤが以前よりも増している。
「お忘れ物はございませんか?」
二人を見送るため同行してきたツバキが問いかける。
「大丈夫です、しっかり確認しましたから。エリーも大丈夫よね?」
「あぁ、バッチリだ。」
「ふふふ、そうですか。それでは麓まで送りましょう。もうお二方のお迎えが来ているようですから。」
そして三人は旅館へと続く山道を下ってゆく。その最中、エリーが何かに気が付いた。
「ん?」
クンクンとエリーが鼻を鳴らす。
「エリー?どうかした?」
「……いんや、なんでもねぇ。」
(かすかに血の匂いがする……。獣の匂いじゃねぇ、間違いなくこいつは人間だ。)
きょろきょろとあたりを見渡す彼女だが、それらしきものは見当たらない。そんな彼女の様子をツバキは興味深そうに眺めていた。
登ってくる時とは裏腹にあっという間に麓にたどり着くと、そこではバリーが二人のことを待っていた。
「おっ、来たな二人とも。ずいぶんリフレッシュできたみたいだな!面構えが違う。ツバキさんによっぽどもてなしてもらったみたいだな。ちゃんとお礼言ったか?」
「言ったつぅの。」
「ふふふ、もうお礼はたくさんもらってますよバリー様。」
「そいつは失礼しましたツバキさん。それと姉さんから伝言を預かってますよ。」
そう言ってバリーはツバキに一枚の紙を手渡した。それをそっと彼女は開くと、一つ納得したようにこくりと頷いた。
「確かに預かりました。」
その言葉を聞いたバリーは車の運転席に乗り込んだ。そしてツバキはエリー達へとぺこりと一礼する。
「もしまたお時間があればいつでもいらしてくださいね?」
「ありがとうございます!絶対来るわよエリー!」
「はいはいわかったよ。ほんじゃ、世話んなったな女将さん。」
「帰り道にはお気をつけて……。またのご来訪お待ちしております。」
エリー達の姿が見えなくなるまでツバキは深々と頭を下げていた。そして車が完全に見えなくなると、彼女のもとに忍者装束の女性が現れる。
「ツバキ様、あのエリーという女性……血の匂いに感づいておりました。」
「えぇ、そのようね。普通の人間じゃまず感じ取れないでしょうものを、敏感に感じ取るあの力……どうやら順調に成長しているみたいですね。次に会うときが楽しみ……ふふふ。」
踵を返してツバキが山道を戻り始めると、彼女のそばに控えていた忍者装束の女性もどこかへと消えた。
二人がリースのラボへと戻ると、たくさんの資料をまとめているリースの姿があった。
「あ、二人ともおかえりー。どうだった?いいとこだったでしょ?」
「あぁ、最高だったぜ。ま、お袋が何から何まで手掛けただけあったわ。」
「あそこは景色もいい上に近くに温泉の源泉があったからね。立地条件が最高だったんだ。まぁ~思わず旅館立てちゃったよね。」
けらけらとリースは笑う。
そんな彼女の様子にエリーが呆れていると、メイがリースのまとめている資料に目を落とした。
「これは、もしかして吸血鬼の研究データですか?」
「その通り!キミたちが温泉につかっている間に、ずいぶん研究が進んだよ。」
「ほーん、なら吸血鬼をぶっ殺す方法も分かったのか?」
「もちろん!まずはこれを見て~。」
リースが取り出したのは一枚のレントゲン写真。一見普通のレントゲン写真のように見えるが、ある部分が普通の人間とは違っていた。
「ここ、わかる?」
リースが指さしたのは心臓……に隣接している謎の臓器。
「こいつは?」
「おそらくは吸血鬼の力の源ってところだろうね。彼らが何かしらの能力を使うときには必ずここが肥大化するんだ。」
「ほぉ……。」
「ちなみにやっぱり普通の武器じゃ傷つけることはできなかったよ。ここの臓器だけほかの部位よりも圧倒的に修復が早いんだ。ナイフで切ったとしても、切ったそばからすぐに修復しちゃう。」
「銀の武器なら?」
エリーのその問いかけにリースはにこりと笑って頷いた。
「一撃さ。実験では試しに殺傷能力の低いフォークで試したんだけど、臓器を貫いた瞬間に絶命したよ。」
「はっ、なら話は早ぇな。生け捕りは専門外だったが……殺しに関してはエキスパートだぜ。」
「あ、もちろんサンプルは生きた状態じゃなきゃダメだよ?」
「マジか。」
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