腐りかけの果実

しゃむしぇる

文字の大きさ
上 下
10 / 88
第一章 一節 二人の傭兵

1-1-7

しおりを挟む
 エリー達が日本へと帰ってきてから数日、彼女たちはリースの地下施設の中にて芦澤カナが住んでいる近くの防犯カメラの映像をひたすらに眺めていた。

「エリー、そっちはどう?」

「いんや、まったくだドアすら開いてねぇ。」

 芦澤カナの住んでいる部屋の目の前にある監視カメラのリアルタイムの映像を眺めながら煙草を吹かすエリーは退屈そうに欠伸をする。

「暇だし銃の整備でもすっか。」

 防犯カメラの映像に目を向けながらもあっという間に銃を部品ごとに分解したエリーは、その部品一つ一つをきめの細かい布で磨いていく。
 そして整備を終えてまた組み立て終えスライドを手前に引いていたその時だった。

「ん?」

 エリーは防犯カメラの映像でわずかにドアノブが動いたことに気が付いた。

「メイ、来るかもしれねぇぞこれ。」

「えぇ、わかってる。」

 ようやく表れた外出の兆候に二人は食い入るように監視カメラの映像に見入った。すると再びドアノブが回り、そこから目的の人物芦澤カナが姿を現した。

「やっと出て来やがったか。んじゃちょっくら行ってくる。サポートは任せたぜ。」

「了解よ。気を付けてね。」

 エリーは右耳に小型の無線機を取り付けると、ガレージへと向かう。するとそこには彼女の母親のリースが待っていた。

「お袋、芦澤カナが現れたから行ってくるわ。」

「そうだと思ってちゃんと準備しといたよ、エリー専用のバイクをね。」

 リースはそのバイクの上にかぶせてあったシートを剥ぎ取ると、そこから出てきたのは何とも奇妙な形状をしたバイクだった。前輪二輪、後輪一輪という三輪のバイク。つまるところのトライクというやつだ。

「こいつは……どうやって運転すんだ?」

「簡単だよ、まぁ跨ってそこのグリップ型のハンドルを握ってみなさいな。」

「ん。」

 エリーは言われるがまま跨るとまるで銃のグリップのような形をしたハンドルを握る。するとハンドルの間に設けられたモニターにエリーの名前が表示され、READYと表示される。

「ハンドル操作は単純、曲がりたい方向にそのグリップハンドルを回すだけ。急カーブとかはまぁ体重操作が必要になるけどその辺は大丈夫でしょ?」

「あぁ、問題ねぇ。」

「それと、そのバイクの最大の特徴があるんだけど、その握ったハンドルを思い切り手前に引いてみなさい。」

「こうか?……おぉっ!?」

 ハンドルを手前に引くと、あろうことかそのハンドルは引っこ抜け、銀色に鈍く輝くブレードが姿を現したのだ。

「緊急用のサブウェポン。使いどころがあるかはわからないけれど、まぁカーチェイスになった時とかに使ってみればいいんじゃない?」

「ってかよ、これハンドル引っこ抜いちまってるわけだが、運転はどうなるんだ?」

「自動運転に切り替わるよ。」

「それを聞いて安心した。」

 エリーは引き抜いたブレードを鞘に納めるように戻すと、ハンドルを強く握る。するとエンジンがすさまじい勢いで回転を始めた。

「29番出口から出るといいよ。そこが一番近いはず。」

「了解っ。」

 ガレージから29番出口へとつながる道筋がライトで照らされると、エリーはヘルメットをかぶりバイクを発進させ29番出口へと向かっていく。そして29番出口のカタパルトの真ん中にバイクを停めると、それに応じてカタパルトが上へと動き出す。

 地上へと着くのを待っている最中、メイから無線が入る。

『エリー、ターゲットは徒歩で駅の方向へと向かって進行中。通りは車が多いわ裏道を使って。』

「あいよ。」

 その無線が終わるとほぼ同時にカタパルトが地上にたどり着き、駅近くの住宅街の一角にある住宅のガレージに繋がっていた。

「おいおい、普通に誰かの家のガレージに出てきちまったぞ。だけどまぁどうせこの家もお袋の所有物なんだろうな。」

 その証拠にエリーがガレージたどり着いたことを確認するための監視装置が作動し、ガレージを封鎖していた扉が開いていく。

「まったく、自分の親ながら用意周到すぎて呆れてくるぜ。」

 そんな悪態をつきながらもエリーはバイクを発進させる。すると再びメイから無線が入った。

『エリー、ターゲットが駅に着く前に裏路地に入ったわ。』

「あん?わざわざか?」

『えぇ、道筋はそのバイクに送ってあるからガイド通りに進んで。』

「ん。」

 少し違和感を持ちながらもエリーはターゲットの芦澤カナが入っていったという裏路地を目指して進む。そしてめっきり人通りが少なくなった路地へとエリーは踏み入ると、その路地の奥から漂う戦場で何度も嗅いだあの匂いを感じ取る。

「……強い血の匂い。まさかこの匂いをこの日本で嗅ぐことになるとは思わなかったぜ。」

 ヘルメット越しにでも感じるその匂いに少し顔をしかめたエリーは脇にバイクを停め、ヘルメットを外して歩き出す。
 そして少し歩くと衝撃的な光景に出くわした。

「カ……ッ、助け………。」

 最後の希望を求めてエリーのほうへと必死に手を伸ばしていた男。しかしあっという間にその体は干からび、命の灯が一つ消えた。
 干からびた男を無造作にごみ置き場へと投げ捨てると、ターゲットの芦澤カナが口元を拭いながらエリーのほうに目を向けた。

「あ!見られちゃったぁ~……。私の食事シーンに出くわすなんて、あなたもツイてないなぁ~。」

「あぁ、そいつはお互い様だな。テメェもアタシなんかと出会わなきゃ長生きできたのによ。」

 エリーはそう言ってハンドガンを抜くとすさまじい早撃ちで芦澤カナの片方の肺と太ももを撃ち抜いた。

「かはっ……!!」

「わりぃな。これがアタシの仕事だ。」

 崩れ落ちるターゲットを見下すエリー。ほぼ致命傷となりうる二か所への射撃で幕は下りたかと思われたが、次の瞬間エリーの背筋に危険を知らせる悪寒が走った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

自衛官、異世界に墜落する

フレカレディカ
ファンタジー
ある日、航空自衛隊特殊任務部隊所属の元陸上自衛隊特殊作戦部隊所属の『暁神楽(あかつきかぐら)』が、乗っていた輸送機にどこからか飛んできたミサイルが当たり墜落してしまった。だが、墜落した先は異世界だった!暁はそこから新しくできた仲間と共に生活していくこととなった・・・ 現代軍隊×異世界ファンタジー!!! ※この作品は、長年デスクワークの私が現役の頃の記憶をひねり、思い出して趣味で制作しております。至らない点などがございましたら、教えて頂ければ嬉しいです。

しっかり者のエルフ妻と行く、三十路半オッサン勇者の成り上がり冒険記

スィグトーネ
ファンタジー
 ワンルームの安アパートに住み、非正規で給料は少なく、彼女いない歴35年=実年齢。  そんな負け組を絵にかいたような青年【海渡麒喜(かいときき)】は、仕事を終えてぐっすりと眠っていた。  まどろみの中を意識が彷徨うなか、女性の声が聞こえてくる。  全身からは、滝のような汗が流れていたが、彼はまだ自分の身に起こっている危機を知らない。  間もなく彼は金縛りに遭うと……その後の人生を大きく変えようとしていた。 ※この物語の挿絵は【AIイラスト】さんで作成したモノを使っています ※この物語は、暴力的・性的な表現が含まれています。特に外出先等でご覧になる場合は、ご注意頂きますようお願い致します。

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...