腐りかけの果実

しゃむしぇる

文字の大きさ
上 下
7 / 88
第一章 一節 二人の傭兵

1-1-4

しおりを挟む
 二人は日本につくと、スーツの男から一つの端末と手帳を二つ手渡される。

「今後連絡はこの端末で行います。GPS発信機などは取り付けていませんのでご安心ください。」

「ん、この手帳は?」

「銃火器携帯許可証です。爆発物や銃火器を持ち歩く際には必ず携帯してください。」

「なるほど、こいつがアタシたちの免罪符ってわけだ。」

「現在あなた方は政府の特務部隊という肩書にしてあります。もし何かトラブルが起きた場合それを見せれば大抵のことは片が付くでしょう。」

「ほぉ~、まぁ大事に持っとくわ。」

 そう言いながらエリーはそっとメイのほうにそれを渡す。

「結局管理は私なのね。はいはい、失くされるよりかはマシだわ。」

 メイは半ば呆れながらもそれを受け取ると、バッグの中へと仕舞う。それを確認したスーツの男はくるりと二人に背を向ける。

「では私はこれにて失礼いたします。」

 そう淡々と言ったスーツの男にエリーが言う。

「おいおい、名前も教えてくんねぇのか?」

「私の名前も機密事項ですので。」

 振り返ることもなくスーツの男はそう言うと、彼のことを迎えに来ていた車でさっさと行ってしまう。それを見送ったエリーはやれやれとため息を吐いた。

「ったく、不親切な野郎だぜ。」

「ま、名前も知らないぐらいの関係でいいんじゃない?どうせ必要になったら私が調べればいいだけだし。」

「そうだな。ほんじゃアタシ達もとっととここからずらかるか。」

 そして二人が空港から移動を始めようとした時だった。突然二人の前に一台の黒いセダンが止まる。それを見たエリーの表情が歪んだ。

 運転席の窓が開くと、そこからスキンヘッドでサングラスをかけた男が顔を出す。

「げ、バリーかよ。」

「なっはっは!!久しぶりだなぁ、エリー!!それにメイちゃん。」

「お久しぶりですバリーさん。」

 運転席で車を運転していたのはバリーという男。エリーとメイとは長い付き合いがある男だ。

「ちっ、やっぱりアタシ達が来るのはわかってやがったか。」

 少し不愉快そうに舌打ちをしたエリー。そんな彼女に追い打ちをかけるようにバリーは言う。

あねさんは二人の活躍はもちろん、どこで何をしていたのかさえ全部知ってるぞ?おかげで俺もこうやって二人を迎えに来れたってわけだ。」

「マジでどっからアタシ達の情報仕入れてんだよ。」

「そいつは俺にもわからねぇな。ま、何はともあれ乗りな二人ともあねさんが待ってるからよ。」

 バリーに促されるがまま二人は車に乗り込むと、彼は車を発進させた。その車中でメイはスーツの男から渡された端末を分解していじくりまわしていた。

「ん、やっぱりあった!」

 分解された端末の中から小さなパーツを手に取ったメイは、それを車の窓を開けて投げ捨てる。その様子を見ていたエリーがメイへと問いかけた。

「GPSか?」

「うん、ご丁寧に盗聴器付きのね。」

「はっ、さすがはHENTAIの国だぜ。政府のお偉いさんってやつらもやることがきたねぇ。」

 そう罵りながらエリーが煙草に火をつけると、バリーが運転席から声をかけてきた。

「エリー、早速で悪いがそのHENTAIなやつらが俺らのケツ追っかけてきてるみたいだ。」

「あぁ、わかってる。」

 エリーは懐からハンドガンを一丁取り出すと、銃口の先に銃声を小さくするサプレッサーを取り付けた。そしてスライドを引いて弾を込めると、バリーへと合図を送る。

 その合図でバリーは車通りも人通りも少ない路地へとわざと入り込む。すると、彼女たちを尾行していた車はのこのこと後を追いかけてきた。バリーは周りに人も車もいないことを確認するとエリーへと向かって言った。

「今だエリー。」

「あいよ。」

 バリーのその言葉と同時にエリーは車から上半身を乗り出すと後を追いかけてきていた車に向かってハンドガンを構えた。

「ドッグファイトはおしまいだぜ?」

 サプレッサーによって極限まで小さくなった銃声が二発響くと、一発は尾行していた車の前輪タイヤをパンクさせ、もう一発はフロントガラスのど真ん中に突き刺さり、蜘蛛の巣状にフロントガラス全体にヒビが入る。

 それによって視界も失われ走行能力も失われてしまった尾行の車は路肩に停まらざるをえず、停車した。

 それを確認したバリーは一気にスピードを上げる。

「ナイスだエリー、射撃の腕は相変わらずだな!」

「はっ、こちとら数時間前まで戦争やってたんだぜ?舐めんなよバリー。」

「なっはははは、そうだったなぁ!」

 尾行の車を一気に振り切ると、バリーはハンドルの横に設置してあるボタンを押した。すると、車の前と後ろでカチャンと何かが切り替わるような音が鳴る。

「今ナンバープレートを変えた、これで追跡はもうできないだろう。さ、あとはあねさんとこまで突っ走るぞ。」

 そして難なく追跡も振り切った彼女たちは、バリーの言うあねさんという存在のいる場所へと向かっていくのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

処理中です...