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第一章 一節 二人の傭兵
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時は現代、西暦2085年
突如として蔓延した凶悪な疫病により世界各国にて大規模なロックダウンや物流の制限などが行われ、経済難の数か国では危機的な食糧難に陥っていた。
食糧難に陥った国は自国での食料の生産が追い付かず、輸入にも頼れないため最終手段として隣接している国へと進軍し食料を奪い取るという手段に出始める。その結果世界各地で戦争が勃発していた。
その食料をめぐるとある二国間の戦争の最中に一人雇われの日本人の傭兵が紛れ込んでいた。
彼女がいる場所は国境を挟んだ密林地帯、戦争中の二か国の兵士たちが隠れ犇めき合う最前線。彼女は地面に穴を掘り、その中に落ち葉と共に身を隠してある瞬間を待っていた。
(…………。)
本来ならば耳をすませば聞こえてくるであろう鳥や動物の鳴き声はこの密林では聞こえない。代わりに聞こえるのは甲高い銃声と、一瞬にも満たない悲鳴。
情人ならばたった一人でこんな場所にいれば数時間もせずに気が狂うだろう。だが、彼女は一人にもかかわらず冷静に、じっとこの場所で丸一日近くあるものを待っていた。
ガタガタ……。
突然響いてきた何かの音。それは彼女が丸一日潜伏し、待ち続けていたものだった。彼女が待ち続けていたもの……それは敵の補給部隊。しかし待望のものが来たにもかかわらず彼女は微動だにしない。
そして彼女の目の前を敵国の補給部隊が通り過ぎようとしていた。しかし次の瞬間、補給物資を積んだ車を護衛していた兵士が行進の最中にあるものに足を引っかけてしまう。それと同時に彼らの頭上からピンの抜かれたフラッシュバンが降り注ぎ、空中で激しい光と爆音をまき散らす。
「Oh!?」
激しい光に兵士たちの視界が奪われた瞬間、彼女は穴の中から飛び出した。いつの間にか彼女の目にはサングラスがかけられていた。
そして流れるように腰からサバイバルナイフを抜くと一番近い兵士の喉に深く突き刺した。残る護衛の兵士は三人。その誰もがすでに視界を取り戻し、仲間がやられていることに気が付く。彼らも訓練された兵士だった。故にそれからの行動は早く、すぐに携帯していたマシンガンで彼女のことを撃つが、やられた兵士を盾にされ物陰に隠れられる。
「21、18、21……。」
ぽつりと彼女は三つ数字をつぶやくと腰のホルダーからハンドガンを抜きセーフティーを解除した。それと同時に兵士のうちの二人がすぐさまマシンガンのリロードを始める。彼女は三人から撃たれた弾丸の数を数え、彼らのリロードのタイミングを見計らっていたのだ。
「じゃあまずはお前からだな。」
物陰から横に一気に転がると、弾をまだ残していた兵士の頭をハンドガン一発で撃ちぬいた。そしてすぐに標準を切り替えリロードが完了する間際の残りの兵士の頭を続けざまに撃ちぬく。
「ふぅ~……。」
彼女が一つ息を吐き出すと、補給物資を積んだ車が今にも走り出そうとしていた。
「悪いが逃がさねぇよ。」
弾倉に残った弾でタイヤを撃ち抜きパンクさせると、制御を失った車は横転してしまう。その車に彼女がハンドガンのリロードを完了させ近づくと、中から運転していた兵士がハンドガンを構えて現れる。しかし引こうとした引き金がピタリと止まった。
「あ~、焦りすぎだ。セーフティー外し忘れてるぜ?」
そう兵士に語り掛けながら、彼女は容赦情けなくその兵士の頭をハンドガンで撃ちぬいた。
「任務完了っと。さぁ~、一服一服。」
そして彼女が懐から煙草を取り出し火をつけたところで耳掛け式の小型の無線機に無線が入った。
『あ~、あ~。こちらメイ。エリー聞こえる?』
「聞こえてるぜ。」
『ならオッケー、例の補給部隊はもうやっちゃった?』
「あぁ、今頃は閻魔様に天国か地獄か決められてるころだと思うぜ。」
敵国の補給部隊を一人で壊滅させた彼女の名前はエリー。無線の先で彼女に語り掛けているのはオペレーターのメイ。二人はタッグで傭兵稼業を営んでいるのだ。
『流石エリーね仕事が速い。でもね、残念なお知らせが一個あるわ。』
「残念な知らせ?」
『うん、今回のクライアントがバックレたのよ。』
「はぁ!?それじゃあアタシが今までここで待ってた時間は!?」
感情を露にしながらエリーは無線の先にいるメイに問いかける。
『無線越しに怒鳴らないでよ!!こっちだって困ってるんだから!!』
しかし無線から返ってきたのはエリーをも黙らせるメイの怒鳴り声だ。それに耳をキーンとさせながらエリーはメイに再び問いかけた。
「あ~はいはい悪かった、それでどうすんだ?」
『ひとまずそこから離れたほうがいいわ。もうすぐその物資を狙ってクライアント側の兵士が来るはずよ。』
「了解、ほんじゃただ黙って渡すのも癪だし。」
エリーは再びハンドガンに手をかけると輸送車のガソリンタンクを撃ち抜いた。するとちょろちょろとガソリンがあふれ出てくる。
「煙草の火を消すにはちょうどいいぜ。」
そして彼女はそのあふれ出たガソリンへと向かって未だ火種の残る煙草をポイと投げ捨てた。するとそれに引火して物資の積んであった輸送車はあっという間に火に包まれた。
「ほんじゃおさらば!!」
その場から彼女が離脱を開始した直後、ドーン!!と一際大きな爆発音が密林の中に鳴り響いたのだった。
突如として蔓延した凶悪な疫病により世界各国にて大規模なロックダウンや物流の制限などが行われ、経済難の数か国では危機的な食糧難に陥っていた。
食糧難に陥った国は自国での食料の生産が追い付かず、輸入にも頼れないため最終手段として隣接している国へと進軍し食料を奪い取るという手段に出始める。その結果世界各地で戦争が勃発していた。
その食料をめぐるとある二国間の戦争の最中に一人雇われの日本人の傭兵が紛れ込んでいた。
彼女がいる場所は国境を挟んだ密林地帯、戦争中の二か国の兵士たちが隠れ犇めき合う最前線。彼女は地面に穴を掘り、その中に落ち葉と共に身を隠してある瞬間を待っていた。
(…………。)
本来ならば耳をすませば聞こえてくるであろう鳥や動物の鳴き声はこの密林では聞こえない。代わりに聞こえるのは甲高い銃声と、一瞬にも満たない悲鳴。
情人ならばたった一人でこんな場所にいれば数時間もせずに気が狂うだろう。だが、彼女は一人にもかかわらず冷静に、じっとこの場所で丸一日近くあるものを待っていた。
ガタガタ……。
突然響いてきた何かの音。それは彼女が丸一日潜伏し、待ち続けていたものだった。彼女が待ち続けていたもの……それは敵の補給部隊。しかし待望のものが来たにもかかわらず彼女は微動だにしない。
そして彼女の目の前を敵国の補給部隊が通り過ぎようとしていた。しかし次の瞬間、補給物資を積んだ車を護衛していた兵士が行進の最中にあるものに足を引っかけてしまう。それと同時に彼らの頭上からピンの抜かれたフラッシュバンが降り注ぎ、空中で激しい光と爆音をまき散らす。
「Oh!?」
激しい光に兵士たちの視界が奪われた瞬間、彼女は穴の中から飛び出した。いつの間にか彼女の目にはサングラスがかけられていた。
そして流れるように腰からサバイバルナイフを抜くと一番近い兵士の喉に深く突き刺した。残る護衛の兵士は三人。その誰もがすでに視界を取り戻し、仲間がやられていることに気が付く。彼らも訓練された兵士だった。故にそれからの行動は早く、すぐに携帯していたマシンガンで彼女のことを撃つが、やられた兵士を盾にされ物陰に隠れられる。
「21、18、21……。」
ぽつりと彼女は三つ数字をつぶやくと腰のホルダーからハンドガンを抜きセーフティーを解除した。それと同時に兵士のうちの二人がすぐさまマシンガンのリロードを始める。彼女は三人から撃たれた弾丸の数を数え、彼らのリロードのタイミングを見計らっていたのだ。
「じゃあまずはお前からだな。」
物陰から横に一気に転がると、弾をまだ残していた兵士の頭をハンドガン一発で撃ちぬいた。そしてすぐに標準を切り替えリロードが完了する間際の残りの兵士の頭を続けざまに撃ちぬく。
「ふぅ~……。」
彼女が一つ息を吐き出すと、補給物資を積んだ車が今にも走り出そうとしていた。
「悪いが逃がさねぇよ。」
弾倉に残った弾でタイヤを撃ち抜きパンクさせると、制御を失った車は横転してしまう。その車に彼女がハンドガンのリロードを完了させ近づくと、中から運転していた兵士がハンドガンを構えて現れる。しかし引こうとした引き金がピタリと止まった。
「あ~、焦りすぎだ。セーフティー外し忘れてるぜ?」
そう兵士に語り掛けながら、彼女は容赦情けなくその兵士の頭をハンドガンで撃ちぬいた。
「任務完了っと。さぁ~、一服一服。」
そして彼女が懐から煙草を取り出し火をつけたところで耳掛け式の小型の無線機に無線が入った。
『あ~、あ~。こちらメイ。エリー聞こえる?』
「聞こえてるぜ。」
『ならオッケー、例の補給部隊はもうやっちゃった?』
「あぁ、今頃は閻魔様に天国か地獄か決められてるころだと思うぜ。」
敵国の補給部隊を一人で壊滅させた彼女の名前はエリー。無線の先で彼女に語り掛けているのはオペレーターのメイ。二人はタッグで傭兵稼業を営んでいるのだ。
『流石エリーね仕事が速い。でもね、残念なお知らせが一個あるわ。』
「残念な知らせ?」
『うん、今回のクライアントがバックレたのよ。』
「はぁ!?それじゃあアタシが今までここで待ってた時間は!?」
感情を露にしながらエリーは無線の先にいるメイに問いかける。
『無線越しに怒鳴らないでよ!!こっちだって困ってるんだから!!』
しかし無線から返ってきたのはエリーをも黙らせるメイの怒鳴り声だ。それに耳をキーンとさせながらエリーはメイに再び問いかけた。
「あ~はいはい悪かった、それでどうすんだ?」
『ひとまずそこから離れたほうがいいわ。もうすぐその物資を狙ってクライアント側の兵士が来るはずよ。』
「了解、ほんじゃただ黙って渡すのも癪だし。」
エリーは再びハンドガンに手をかけると輸送車のガソリンタンクを撃ち抜いた。するとちょろちょろとガソリンがあふれ出てくる。
「煙草の火を消すにはちょうどいいぜ。」
そして彼女はそのあふれ出たガソリンへと向かって未だ火種の残る煙草をポイと投げ捨てた。するとそれに引火して物資の積んであった輸送車はあっという間に火に包まれた。
「ほんじゃおさらば!!」
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