926 / 1,052
第五章
採血
しおりを挟む拘束されているボルトドラゴンを見下ろしていると、奴の拘束されている実験室に何人か白衣を身に包んだ獣人が入っていく。
『では、血液採取から始めます。』
あそこにいる獣人の声が、近くのスピーカーのようなものから流れた。その声を聞いたジルが一つ頷いて合図を送る。
すると、下にいた白衣を着た獣人はあらかじめ用意していた、自分の体ほどもあるとんでもない大きさの注射器を構え……思い切りボルトドラゴンの尻尾の付け根へと刺した。
『採血開始。』
痛みを感じているのか、それとも強烈な異物感を感じているのか……ボルトドラゴンは小刻みにプルプルと震えている。
そんなことは気にせず、白衣の獣人は注射器で採血を進めていく。その様子を眺めていたジルがポツリと呟く。
「ふむ……やはり真っ黒な血液のようですな。」
注射器の中に採られていく血液は、ドロリ……と濃厚で真っ黒だった。
「うげ、いかにも健康状態に難アリの血液じゃ。わ、ワシはきっと真っ赤でサラサラなはずじゃ。」
「どうかな?最近ランと張り合って大食い勝負してるし、心配なら頼んで確かめてもらうか?」
すると、ニコニコと笑みを浮かべながらジルがレイの方を向く。それにビクッと彼女は反応した。
「い、嫌じゃ!!あんな針を体に入れたら死んでしまうのじゃ!!」
「ほっほっほ、大丈夫ですよ。アレは大きな魔物専用の注射器ですから。普通はこの大きさです。」
ジルはスッとポケットに手を入れると、よく病院で見るようなサイズの注射器を取り出した。
注射器を手にした彼から隠れるように、レイは俺に背中へと回ると、目を細めながらジルを睨みつけている。
さながら、注射が怖い年頃の子供のようだな。
「失礼しました、ほんの冗談でございます。」
にこやかに微笑みながら、ジルは再び注射器をポケットへと戻す。すると、ホッと安堵のため息を一つ吐いて、レイは俺の横に立った。
そんなやり取りをしている間にも、ボルトドラゴンのいる実験室では色々な検査が行われていた。
「今は何の検査をしてるんだ?」
「体温や健康状態の検査でございますね。なるべく健康状態を維持しながら、検査と実験を進めるために記録をつけているんです。」
その様子を眺めていると、俺たちのいる部屋に先程まで採血を行っていた獣人が、何かを持って入ってきた。
3
お気に入りに追加
633
あなたにおすすめの小説
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活
ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。
「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。
現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。
ゆっくり更新です。はじめての投稿です。
誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。
異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。
長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍2巻発売中ですのでよろしくお願いします。
女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。
お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。
のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。
ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。
拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。
中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。
旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)
ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。
流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定!
剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。
せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!?
オマケに最後の最後にまたもや神様がミス!
世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に
なっちゃって!?
規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。
……路上生活、そろそろやめたいと思います。
異世界転生わくわくしてたけど
ちょっとだけ神様恨みそう。
脱路上生活!がしたかっただけなのに
なんで無双してるんだ私???
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる