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第四章
それぞれの美味しさ
しおりを挟む「そういえばルビーブリムと、ブラックファッティのどちらが美味しいと思いますか?」
イリスがふと疑問に思ったのか店員に聞いていた。さっきこのお店を教えてくれた魚屋の店主は、ルビーブリムの方が美味しいと言っていたが‥
この店で働いていて、専門にこの魚を扱っている人ならばどう答えるのか気になる。
「そうですね、今の時期だとちょうどルビーブリムの産卵期直前なので脂がのっています。ブラックファッティもこの時期から脂を蓄え始めるのですが、一番脂を蓄えて美味しくなるのは、もっと海水の温度が下がる時期なんです。そういうことを踏まえると今の時期ではルビーブリムの方が美味しいと思いますね。」
と、至極丁寧に教えてくれた。ルビーブリムは今の時期が脂がのっているのか……。産卵期直前だから栄養を蓄えないといけない時期なんだな。
ブラックファッティは、マグロ同様に寒くなってぐっと海水温が下がる時期に脂を蓄えて、越冬しようとしてるんだろうな。
「なるほど~、ふふっ♪ご丁寧にありがとうございますっ。」
「いえいえ、これも私共の仕事ですので。」
上機嫌になったイリスにペコリと一つ礼をする店員の男性。ここまで丁寧に接客されると気持ちがいいな。
「さてさて、それじゃあそろそろ行こう。」
「そうですね、皆さんもお昼ご飯を待ってるでしょうし。」
もうそろそろ昼飯時か、早く戻らないとシンやリリンにぶーぶー言われそうだな。
「そうですか、それではまたのお越しを心よりお待ちしております。」
俺とイリスはお礼を告げて店を後にした。また機会があれば来れるといいな。
「あとは、なにか買いたいものとかないか?」
「うーん、私は特に大丈夫ですけど……。ヒイラギさんは何かあったりしないんですか?」
「取りあえず当分の食料も確保できてるし、この街で美味しいと言われてる魚も入手できた。俺も特にないかな。」
王都での革命にどれだけの時間がかかるか、正直予想もできないが……丸っと一ヶ月位は不自由なく生活できるぐらいの備蓄はあるし、問題ないだろう。
「何か、こう……イリスの思ってたデートにはならなかったかもしれないが、楽しめたか?」
「ふふっ♪私は十分楽しめましたよ?ヒイラギさんと二人で出掛けられただけで、私は大満足ですっ♪」
「そうか。」
「あ、一個だけやりたいことあるんですけど……いいですか?」
ふと思い出したようにイリスが言った。
「なんだ?」
「帰るとき、手を繋いで帰ってくれませんか?」
少しもじもじしながらイリスは言った。ちょっと恥ずかしいけど、それぐらいならお安い御用だ。
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