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第四章
残り続ける言葉
しおりを挟むブラックフィッシュは俺にダンジョンキーを手渡し、たっぷりと撫でられた後、満足したように帰っていった。
人間でもなかなか見ない義理堅いやつだったな。彼が沖に帰っていくのを見守っていると、服の袖をシアとメリッサが引っ張る。
「お兄さん!!シアもうお腹ペコペコッ!!」
「わたしも…だから…はやくかえる。」
「わ、わかったから。引っ張らないでくれ」
二人にズルズルと店がある方へと引っ張られる。そんな俺の姿をドーナとランの二人はクスクスと笑いながら温かい目で見守っていた。
◇
そして少し時は流れハウスキットの厨房にて……。
「ひ、ヒイラギ!?なんかすごい鍋がボコボコ煮たってるけど大丈夫なのかい!?」
「あっ!!しまった……忘れてた!!」
慌ててボコボコと沸騰して吹き零れそうになっている鍋の火を止める。
「ふぅ、危なかった。教えてくれてありがとう。」
「いや、このぐらいなんてことないんだけど……大丈夫かい?」
「あぁ、少し考え事をしてただけだ。すまない集中するよ。」
そして再び俺はまな板の前に立ち、今日の夕ご飯の刺身を切り出し始めた。無心になって切っていると、頭の中にあのフードの女が最後に言った言葉がフラッシュバックする。
『またな。ヒイラギ。』
まるで、また俺の前に現れるかのようなその言葉は、向こうの世界にいた時、師匠が何度も去り際にかけてくれた言葉とまったく同じもの。
「…………。」
「ね、ねぇヒイラギ?」
「ん、あ、あぁなんだ?」
「ホントに大丈夫なの?凄い怖い顔して悩んでるみたいだけど……。」
「そ、そんなに怖い顔だったか?」
「そりゃあもう……。」
「すまない気を付けるよ。」
一言ランに謝り、せっせと舟盛り用の木型に刺身を盛っていく。
「よし、これでいい。」
そしてシアが釣った、一番大きな魚のお頭付きの刺身の舟盛りが完成する。
「よくあんなに速く綺麗に盛り付けるねぇ。」
「ね~?ホントこの魚とか生きてるみたいよ。」
まじまじとドーナとランの二人は舟盛りを観察して言った。
「こういうのも慣れだよ、二回、三回ってやれば自然にできるようになるさ。今度教えるから盛ってみるか?」
二人に聞くと興味津々といった様子で頷いた。
「わかった。それじゃ、向こうで食べよう。」
「お刺身すごいいっぱい……楽しみ!!」
「わたしも!」
シアとメリッサの二人に急かされながら、俺はいつものテーブルへと舟盛りを持っていく。今夜の夕食で、俺達はこの街の海の恵みを存分に味わい尽くしたのだった。
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