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3章 ダンジョンと仲間

第89話 リーダーは誰?

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「おい、ムーニャ、こっちこい」

「……」

 オレたちの前に師匠がやってきた。ムーニャの背中を鞘で小突きながら。

「ほれ。約束覚えてんだろ。双葉に謝れ。バカ弟子」

「……」

 しょんぼりしてるムーニャ。戦いに負けたのが悔しいのか、それとも鈴に謝るのがイヤなのか

「ふんっ。どーせ謝る気なんてないんでしょ?別にいいわよ」

 鈴は腕を組んで、そっぽを向いていた。

「……双葉鈴」

「なによ?」

「この前は、ひどいこと言ってごめんなさい……」

 ペコリ、と頭を下げるムーニャ。素直に謝るとは思っていなかったので意外だ。

「……まっ、その謝罪は受け入れてあげてもいいわ。別にあんたなんかに言われたこと、全然気にしてないし」

「そうなの?」

「そうよ」

「泣いてたのに?」

「泣いてないわよ! バカ!」

「むっ、ムーニャ、バカじゃない。ハーバード飛び級」

「おい、嘘つくな。てめぇ、学校いってねぇだろ」

 師匠が追加でムーニャを小突く。今度は頭だ。

「は、ハーバード飛び級くらい賢い……」

「そうかよ。まぁ、そういうこった。こいつはバカで空気を読めないやつだが、ちゃんと謝ることはできるやつだ。それに、実力だってある。咲守、嬢ちゃん、こいつの剣を見て、どう思った?」

「正直、本気でやっても勝てるかどうか……かなり強いと感じました」

「私も同じです。神器とスキルを使って、なんとか相手はできると思いますが、刀だけでは……難しいかもしれません……」

「冷静な分析ができてるな。まぁ、そうだ。こいつの剣は、おまえらより頭一つ抜けてるだろう」

「ほんと? ムーニャの方が強い? なら、ムーニャが一番弟子だよね?」

「ちょっとおまえは黙ってろ」

「はい……」

「でだ。前にも話したが、こいつのこと、おまえらのパーティに入れてやってくれねぇか?」

「ムーニャさんを? うーん……」

 オレは腕を組んで頭をひねる。鈴に謝ってくれたとはいえ、あんな酷いことを言うやつだ。今は師匠に従ってるが、師匠にも失礼なことを言った。正直、気に食わないって気持ちが強い。

「俺のことはいい。こいつが口が悪いのは、前から知っていた。俺の足のことについては、想定内の悪口だ。それに、その悪口が勘違いだったと今証明して見せた。こいつより、俺は百倍強い」

「百倍は言い過ぎ。せいぜい三倍くらい」

「黙れ」

「はい……」

「まぁ、つまりだ。双葉本人とおまえらが許してくれんなら、こいつを新メンバーとして推薦したい。どうだ?」

「どう、と言われましても……みんなはどう思う?」

 みんなのことを見る。みんなも困り顔だ。

「ゆあは……仲良くしてくれるつもりがあるなら良いけど、鈴ちゃんが嫌なら反対かな」

「ムーニャ、仲良くできるよ。ベストフレンドになる自信ある。Yeah」

 ムーニャがグッと親指を立てる。みんなは、白い目でそれを見て、スルーだ。

「……私としては、強い仲間が増えるのは賛成です。ムーニャさんが入ってくれれば、私たちは格段に強くなります。ただ、連携が取れるかが心配ですね。今日までの言動を見てのことですが」

「ムーニャ、連携できる。みんながムーニャの指示を聞くといい。そうすれば無敵」

「咲守くんがリーダーですよ?」

「んー? そうなの? イッシン?」

「おまえ、ちょっと黙ってろよ」

「あー……桜先生はどう思います?」

「私ですか? んー……私としては、戦力が増えて、みんなの安全度が上がるのでしたら歓迎なんですが……栞さんが言うように、連携がうまく取れなくなって、逆に危うくなるのが心配かな、という印象です」

「ふむふむ。たしかに。最後に鈴。正直、おまえ次第だ。おまえが一番傷つけられたんだし、おまえの意見を聞きたい」

「は? 傷ついてないんですけど?」

「はいはい、そういうのいいから」

「ふん! わたしは賛成。だって、こいつむちゃくちゃ強いじゃない。戦力になるわよ」

「双葉鈴、いいやつ。すき」

「わたしは嫌いよ」

「ひどい……なんでそんなこと言うの?」

 おまえがそれを言うか、とツッコミたいが黙っておく。

「じゃあ、バカ弟子の加入、認めてくれるってことでいいか?」

「えっと、はい、そうですね。みんな賛成みたいなので、良いかな、と思っています。ただ、しばらく一緒に戦ってみて、連携が上手くいかなかったら抜けてもらう、ということでもいいですか?」

「ああ、それで構わない」

「ムーニャもそれでいい。連携はムーニャが指示する。それなら完璧。最強パーティ」

「いえ……ですから……パーティの指示はリーダーの陸人くんが出します。それはわかってますよね?」

「そうなの?」

 ムーニャがオレの方を見る。

「まぁ、一応そうかな。でも、桜先生のオペレーションにも従うし、その辺りもわかって欲しいんだけど」

「んー……でも、ムーニャ、自分より弱いヤツに従いたくない」

「……は?」

 また、ムーニャのやつがカチンとくる発言をはじめた。

「ちょっと、なんなのあんた? 荻堂せんせに負けて反省しなかったわけ?」

「なんのこと?」

「あんた、わたしに謝ったわよね?」

「そうだね」

「なら、こっちに従いなさいよ」

「それとこれは話が違う。ムーニャ、たしかに悪いこと言った。それは謝る。でも、弱いヤツをリーダーとは思えない」

「へ、へ~?……弱い? オレが?」

「おい、咲守、落ち着け」

「お、落ち着いてますよ? まぁ? たしかに、さっきはギリギリ勝てるかどうか、みたいに評価しましたけど、本気だせば、絶対オレが勝ちます」

「そんなことない。ムーニャの圧勝。相手の実力もはかれないの? 三流だね」

「おい、ムーニャ」

「ははは! 師匠! やっぱこいつイヤです!」

 オレは、ブチギレそうだったが、笑って誤魔化すことにした。オレは大人なので、こんなアホにはキレないのだ。

「待てって。咲守、落ち着け」

「落ち着いてますって! 反対! 断固反対!」

「……双葉」

「はいはい」

 Bang!!

「いてぇ!?」

 突如、ケツに強烈な痛みが走る。振り返ると鈴のバカがゴム弾を打ち込んできていた。

「頭冷やしなさい」

「むしろキレたわ! クソチビ!!」

「そんなに舐められたのがムカつくなら、決闘でもして白黒つけたら? あんたが勝ったら、ムーニャも従うんじゃない? オーケー?」

「ガルル……」

 オレはケツをさすりながら、チビのことを睨む。ああ……ケツがいてぇ……

「だそうだ。ムーニャ、どうだ?」

「そうだね。もし、咲守陸人がムーニャに勝ったら認めてあげてもいい。でも、負けたらムーニャがリーダー。それがいい。みんなムーニャに従うといい」

「おまえ……」

「あいつに従うとかいう条件は無視して、あんたが決闘で勝てばいいのよ? おーけー、りっくん? いつまでケツ押さえてんのよ?」

「いてぇんだよ!今度おまえにも撃ち込んでやろうか!」

「サイテー。女の子にそんなことする気なの? で?」

「わかったよ! やってやんよ! 今すぐな!」

 オレは双剣に手をかけ抜ききる。ボコボコにしてやんぜ! ブンブンと腕を回した。

「まぁ待て。咲守」

「なんすか! 師匠!」

「決闘は1週間後だ」

「なんでですか! 今すぐボコします!」

「おまえ、師匠のいうことが聞けないのか? 俺はおまえの素直なところも評価して一番弟子だと思っているんだが?」

「ぐぬっ……し、師匠がそういうなら……」

「ちょろくて草」

「鈴ちゃんは黙ってなよ。また話がごちゃごちゃになるよ」

「で? 結局いつやるの? ムーニャはいつでもいい」

「1週間後だ。1週間後、またここにこい」

「わかった。それまで首を洗って待ってるといい。最強が誰だか教えてあげる。咲守陸人」

「こっちのセリフだ!」

 ということで、オレとムーニャの決闘が1週間後に行われることに決まったのだった。
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