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2章 ダンジョンと刀

第62話 修行をつける条件

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 師匠がオレたちを呼んだので、全員が師匠の前に集まった。訓練場の中に、ちょっとした緊張感が漂う。

「オレが修行をつけてやることについて、一つ条件を出したい」

「今更?条件ってなによ?」

 鈴が嫌そうな顔で、腕を組みながら聞き返す。

「次に攻略するダンジョンについてだ」

「ダンジョン?」

「ああ、政府からは、〈ダンジョンを1つ攻略すれば東京駅ダンジョンの開放を検討する。ダンジョンは指定しない〉って言われてんだろ?なぁ?小日向?」

「はい……その通りですが……」

「じゃ、次に攻略するダンジョンは、池袋駅ダンジョンにしろ」

「池袋駅ダンジョン!?それはダメです!」

 桜先生が、いの一番に反対する。

「桜先生?どうしたんですか?」

「どうしたって!陸人くん!池袋駅ダンジョンはかなりの死傷者を出してる危険度最上級のダンジョンだよ!それに!あのダンジョンでは荻堂先生の……」

「ああ、そうだ。オレのダチたちが殺されたダンジョンだ」

 そういう師匠の顔は、暗く憎しみに満ちていた。あまりの迫力に、ごくりと息を呑む。

「じゃあ!絶対ダメです!そんなところにこの子たちを行かせられません!」

「まぁ待てよ。小日向。池袋駅ダンジョンが危険なのはボスだけだ。ボス部屋までは割と普通に到達できる」

「だから!そのボスに何十人もの犠牲者が!」

「俺なら、コイツらを勝たせられる」

「え?」

「俺が何年あのクソやろーのことを考えてたと思う?8年だ。あいつらがぶっ殺されてから8年、1日も欠かさず、あのクソを殺すことを考えてきた。今なら、絶対倒せる」

「それは……荻堂先生が戦えばという話で……」

「違うな。咲守」

「は、はい……」

 突如、名前を呼ばれ、師匠が真っすぐ、オレのことを見た。

「おまえなら倒せるよ。俺の言う通りにすればな」

「マジすか……」

「マジだ。だが、最終的に判断するのはおまえらだ。相対してみて、ダメそうなら逃げればいい。でも、こいつなら勝てると思ったら、俺とダチの未練を晴らしちゃくれねーか?」

「……」

 突然の申し出だったので、考え込む。オレたちは、東京駅ダンジョンさえ攻略できればいい。そのためには、政府に認めてもらうためにもう一つ、どこでもいいからダンジョンを攻略しなくてはいけない。
 じゃあ、そのダンジョンはどこにするのか。師匠が来る前のオレたちは、比較的安全だと言われている大崎駅ダンジョンにしようと決めていた。だけど、大崎駅ダンジョンだって前人未到の未攻略ダンジョンだ。危険がないなんてことはありえない。

 師匠のことをもう一度見る。師匠のことを巻き込んだのは俺だ。師匠の思いに答えたいという気持ちはある。だけど、桜先生曰く、池袋駅ダンジョンは、かなり危険なダンジョンだという。みんなは耐えれるだろうか。

「師匠、オレが戦えるとしても……みんなが……」

「もちろん。1人も死なないように鍛える。1番危ないのは的場だが、おまえには鉄壁の防御があるしな」

「う、うん……」

「双葉はもう少し動体視力と予測能力を鍛えりゃいけんだろ」

「ふんっ」

「嬢ちゃんは武器に慣れれば十分戦える実力だ。前線で戦ってもらう」

「はい」

「あとは、おまえが倒せ。咲守」

「……」

 師匠がそこまで考えているなら、という気持ちが強くなった。だからオレは、

「精一杯、戦います」

「やってくれるか?」

「はい。でも、仲間に危険が及んだら、逃げてもいいですか?」

「もちろんだ。全員生きて帰ってこい」

「……わかりました。よろしくお願いします」

 頭を下げる。

「陸人くん!でも!」

 桜先生に相談なく決めてしまったので、案の定、声を荒げられた。

「桜先生、オレたちが攻略しようとしてる東京駅ダンジョンも最上級難易度ですよね?」

「それは……」

「それに、今、攻略しようとしている大崎駅ダンジョンだって、危険がないわけじゃない。グランタイタンみたいに、イレギュラーなことが起こるかもしれない。結局、どのダンジョンも命懸けなんです。だったら、師匠が〈絶対倒せる〉っていうボスに挑んだ方がいいと思うんです」

「……」

「だから、オレは戦います。戦わせて下さい」

「……わかったわ。でも、危なくなったら逃げるのよ?みんなもいい?」

 全員が桜先生に頷く。

 そして、師匠がニヤついた。

「よし!決まったな!明日からもっと厳しくしごいてやる!覚悟しろよ!ガキども!」

 こうして、オレたちの次の目標が決まった。

 池袋駅ダンジョン、多くの犠牲者を出し、師匠の仲間たちを全滅させた危険度最上級のダンジョン攻略だ。
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