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1章 奪う力と与える力

第13話 危機感知スキル

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-翌朝-

 僕は別荘の中で身を潜め、誰にも見つからないように昨晩を過ごした。今は、玄関ホールの前で使用人一同と一緒に来客を待っている。午前中にやってくる侯爵を迎え入れるためだ。20名ほどの使用人が姿勢を正して来客者を待つ。玄関扉の前には、執事長らしき高齢の男性と変装したカリンが待ち構えていた。
 間もなくして、馬車が到着する音が聞こえてくる。それを聞いて、執事長とカリンが大きな扉を開けた。

「ブカイ侯爵、ようこそおいで下さいました」

 男が入ってくると同時に、執事長がそう声をかけると、使用人一同が頭を下げた。

「ああ、クワトゥル様は?」

 僕は目線だけを上げて、男の方を見る。茶色いコートを羽織ったがっしりとした体型の渋いオッサンがぎろりと執事長を睨んでいた。白髪、白髭でなかなかに渋い雰囲気をまとっている。

「クワトゥル様は、午後にいらっしゃる予定でございます」

「そうか、まったく……なぜ私がこのようなことを……」

 呼び出した本人がいないことを知り、不快感をあらわにする侯爵。

「申し訳ございません。クワトゥル様はギフト授与式を控えた身。よからぬ輩に狙われている可能性もございます。どうか、ブカイ侯爵様のお力をお貸しください」

「ちっ、そんなことはわかっている。使用人風情がごちゃごちゃと物申すな。鬱陶しい」

「これは……大変失礼致しました」

 すっと一歩下がる執事長。

 このブカイ侯爵という男がここにきた目的は、この別荘の中に敵意を持つものが存在しないか、または罠などの危険物が存在しないかを調査するためだ。こいつの持っているスキルは、〈Aランクの危機感知スキル〉、自身の周囲数十mの範囲に存在する危機を感知することができるらしい。

 もし、こいつに今スキルを使われたら、僕とカリンは終わりだ。すぐに特定されて取り押さえられるだろう。だから、すぐにでもスキルを奪わなければならない。僕はすっと近づき、「コートをお預かり致します」と頭を下げながら、両手を差し出した。

「……ああ」

 一瞬警戒するような雰囲気を見せるが、さっとコートを脱ぎ、渡してくる。顔は見えない角度のはず。大丈夫、大丈夫だ。そして、コートを受け取るとき、隙を見て、指先で撫でるように侯爵の手を触った。

「ん?」

「お預かり致します」

「ああ……いや、すぐ帰る。そこで待て」

「はは」

 なにか違和感を感じたようだが、見逃され、ブカイ侯爵は歩き出す。やつは別荘1階の中心付近まで移動した。

「別荘の全長は?」
 侯爵が執事長に確認する。

「80mほどかと」

「たしかだな?」

「はい。こちらに屋敷の図面がございます」
 執事長がさっと建物の図面を差し出した。侯爵は、それを受け取って確認する。

「……問題ない。では、ここで危機感知を行う」

「お願い致します」

 侯爵が目を閉じ、なにか集中するような素振りを見せる。そして、数秒後、

「問題ない。この別荘にはクワトゥル様への害意を感じない。クワトゥル様にはそうお伝えしろ」

「はっ、ありがとうございました」

 執事長がお礼を言い終わる前にカツカツと足音を立てて玄関に向かう侯爵。僕はそいつの通り道を妨げないように前にでて、コートを差し出した。侯爵は、歩きながら片手でコートを受け取り、そのまま玄関を出ていった。

「ふぅ……」
 密かに息を吐く。

 あいつのスキルが派手に光散らすようなものじゃなくて良かった……
 もし、結界みたいなものを身体から発してサーチするような魔法だったとしたら詰んでいた。そうだった場合、「なぜ危機感知が発動しない!?」と大騒ぎになっただろう。
 でも、あいつのスキルの特性はディセとセッテが調べてくれていた。確信はなかったが、なんとか事無きを得たようだ。

 僕が安心して立ち止まっていると、カリンと目が合う。『姿を隠せ』カリンの目がそう言っていた。すぐにその意図に気づき、僕はこっそりと後ろに下がって姿を消す。第四王子が来るまで、身を潜めておくとしよう。



 僕は第四王子の居室までやってきて、ベッドの下に潜り込んだ。無駄にでかいキングサイズのベッドの下で目を閉じて、さっき奪った危機感知スキルを発動してみる。意識したのは、自分にとって脅威になる存在を探したい、という感じだった。
 すると、別荘を巡回する兵士たちの位置を頭の中で把握することができた。どれくらいの距離に何人いるかまで詳細に分かる。

 面白い能力だ。いつか、機会があったら永久に奪うのもありかもしれない。そう思っていたら、プツリと兵士たちの位置が把握できなくなった。

「時間切れか」

 そう、触れただけでスキルを奪う能力は、一時的なものだ。制限時間が過ぎたのだろう。ブカイ侯爵から奪ったスキルは元の持ち主へ戻ったようだ。

 さぁ、しばらくは待機だな。改めて、僕は、第四王子が到着するのを待つことにした。
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