上 下
122 / 194

122 貴族対応不可

しおりを挟む
 私はそれだけを言って部屋に戻って資料を読んだり、依頼書のデザイン希望を見てどうしたものを作ろうかと考えたり新作を考えたりする。帰ったら教えて欲しい。そう思いながらそんなことをお願いしていないのでそうなるかもわからない。イザーク様なら終わったら教えてくれるはずだ。多分きっと。家主は私だし、食事の準備とか色々滞っているだろうし。いやいや、アリアなら優秀だからちゃんと仕事をしてくれているはずだ。ご飯を作ってもらえるだけで贅沢なのだから手抜き料理でもいい。私が作っている訳ではないんだし。いつも美味しいご飯だし…

 仕事をしていると扉をノックする音が響く。返事もしていないのに部屋に入ってきた。返事なしに入って良いと言った覚えはない。だけど、その程度のことでもあるし、見られて困るものがない。

「叩き返しました。」
「穏便に済ませられなかったのですか。」

 後ろから抱きしめられ頭を撫でられる。ミカエラは邪魔だと思いながらも手を止める。話を聞こう。見上げると額に唇を寄せられた。不機嫌そうだ。作業用の資料を片付けて長椅子に移動する。そうしないと彼が立ちっぱなしになるからだ。相手を立ちっぱなしにさせておくつもりもない。私の服装に文句言わないような…この人。長椅子に座ると当然のように隣にくる。

「穏便にしようとしましたが、呪い持ちの話をちゃんと聞くつもりはなかったようです。選民主義というか…思考が偏っているんです。あの人たち。」
「そうなのですか。じゃあ私やイザーク様の話を聞いてくれないならこちらの状況に明る人たちに丸投げするしかないですね。お疲れ様でしたと頭を撫でればいいのですか?」

「……え???いいのですか????」
「別にそれくらいなら構いませんよ。いつもしていますし。」

 ボスっと膝に頭を置いてきた。何故こうなった。いや、別にいいけれど。ミカエラはそう思いながらわしゃわしゃと頭を撫でる。

「この服の時は嫌だと言っていたではないですか。」
「…家族のこととかわかりませんが、面倒なご家族だなという同情です。で、解決したのですか?してないのですか???」
「さぁ、わかりません。こちらとしてはさっさと縁を切りたいのですが、切ったらユーリ様の護衛ができなくなるのも問題なんです。身元保証がないということで。」

「ロズウェル侯爵家が保証人ではダメなのですか??」
「身元不明になりますからね。まぁミカエラの婚約者でも良いんですが…でも少し弱いですね。婚姻が理想です。」

 ミカエラは首を傾げて何故そうなるのですか??と思いながら綺麗な銀髪を撫でる。身体を起こして押し倒された。見下ろされた。頭を撫でられた。この光景に警戒心や恐怖もないなんて…慣れた。距離が近い。

「ロズウェル侯爵の養子になったらどうでしょう。そっちの方が簡単では??」
「縁を切りたいので結婚しましょう。もう面倒なんです。私の親とか。都合のいい手駒とかその程度の認識なんです。」
「…家族会議してください。先にユーリ様たちとお話をしてからにしてください。仕事継続のために私を巻き込まないでください。」
「結婚を前提にとお話ししたこともあったはずですが。」
「仕事のためではないですか。そういうのに協力する気はありません。明らかにこじれているじゃないですか。」
「私の話を聞いてくれているわけでもないので。結婚相手を用意するからと言われましたよ。私は婚姻の書類にサインすることになっても貴方の側を選ぶでしょうね。」

 それは迷惑だ。どう見ても不貞行為。それは私に迷惑がかかる。

「私の迷惑を無視してますね。解決してください。ご家族が突撃してくるなら返品しますよ。」


 私から言えることはそれしかない。それにどうやっても話を聞く気がないなら私が何を言っても無駄ではないだろうか。それが露骨なんだから余計に。私にできることがあるのだろうか。いやない。平民如きだとか、人の家に押しかけているくせに服装がどうだとか好き勝手に言われている。もう面倒臭いし対応したくない。結婚願望はないし、前提だとしても前提であってそれが覆されることだってある。もうこの人の家族面倒臭いというのが私の中にあるし、積極的に協力してどうにかしようと思わない。私のことを見る気も相手する気も向こうにはない。それならこちらが努力したところで無駄だ。認めてほしいというよりはイザーク様が言っていることが正しいなら今更だろうし、私が関与するべき問題でもない。きっかけだったかもしれないけれど、知ったことではない。静かに仕事をさせてほしい。それだけだ。それを言うと困るだろうから言わないけれど。それくらい気づいているだろうけれど。

「努力します。ミカエラが必要だったら協力していただいても???」
「内容によります。平民の私に何ができるんです。」

 貴族対応本当に面倒くさい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?

曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」 エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。 最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。 (王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様) しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……? 小説家になろう様でも更新中

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

【完結】婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

運命の歯車が壊れるとき

和泉鷹央
恋愛
 戦争に行くから、君とは結婚できない。  恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。    他の投稿サイトでも掲載しております。

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」 結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は…… 短いお話です。 新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。 4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

処理中です...