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103 求めるもの

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 イザークは侯爵家へ経過報告に立ち寄った。近隣諸国に通じている貴族が彼女を狙っているという情報があるからで、国としても渡すつもりが全くないので私と懇意にすることは上層部もなんとも言わない。それにしてもプレゼントで宝飾品となると彼女に作成を依頼しなければならないのというのは嫌だ。そう思いながら侯爵家の資料を眺める。彼女が喜ぶのが原材料なのだけれども、それでも全ての仕事を確認して触ったことのない石を渡すのも変だと思いながら何が好きなのだろうと宝石図鑑を見る。

「イザーク、何を探しているんだい?」
「虫除けのプレゼントを考えて要るのですが本人はよその工房に依頼したらあまり喜ばないでしょうし、それなら自分が作るから原材料の方が嬉しいと言い出したので、どうしたものかと。」
「確かに。彼女なら自分で作れるし、国宝を作れる職人に依頼するなら資料として扱いそうだね。貴族の宝石とかは基本的にキラキラしたものが多いから翡翠とか瑪瑙とかそういうキラキラあまりしてないのだと比較的珍しいんじゃないかな。それはそうと、そろそろご両親に彼女ができたくらいの報告をしたらどうだい?」
「…したことを知られたら出禁だと言うと思うので。とりあえず嫌われない距離感でしかないので。」

 ある程度距離は縮まったが、ここだけは譲れないという線引きが明確だ。それを少しずつ距離を詰めているのに急にそんな話をしたら怒る。確実に怒るどころではないというのが目に見えている。どうしたものかというのが目下の悩みでもある。仕事の方が楽だ。そう思わせるほどに幼少期に刷り込まれた生涯労働力という認識と妊娠や出産から連想されるものが嫌なものだという意識が強い。どうにか払拭したいがそれにはどれくらい時間がかかるだろうか。以前の独身だけの夜会で嫉妬をしてくれたのが進展だったくらいで、そういうので少しずつ崩していくしかないので道のりはかなり長い。

「女性に対して不能かと思っていたのに、体質上運命の相手が見つかってよかったね。見ていて微笑ましいよ。」
「そうでしょうか。」
「そうだね。会った時からソワソワして楽しそうだったけれど、今はそれ以上に幸せそうだから見ていて楽しいよ。」

 主人からそう言われるとは思わなかった。確かにモノクロだった世界が色づいたのは彼女と出会ってからで、特異体質を説明するまでは全てを隠して接していたが、今ではそれも取っ払って話ができている。それはとても楽しいが別のことで頭を悩ませるとはついぞ思わなかった。良い傾向ではあるだろうけれど、仕事に私情を挟むようになってしまった。彼女に暴行を働いた男たちを去勢しただけではあるが…麻酔もなしに潰したことに後悔はない。

「翡翠の原石なんて手に入りましたか?」
「まぁ、加工前の原石ならそれなりに手に入るんじゃないかな。」
「そうでしたか。色々発注をかけてみようかと思います。」
「伯爵からは君の婚姻を妨害してないかと、たまに催促が来るが、適当にあしらっておくよ。」
「ありがとうございます。」

 そうでもしておかないと独身であることを言われるのであれば匂わせておけばいいとも思うが、それはそれで多方面に迷惑をかけてしまうのであまり前向きにできない。別に私が独身でも気にしないのではなかったのか。スカルラッティ家の特産に珍しい宝石があるわけでもないし、魔石もない。魔石と核石はあまり渡したくない。危険な使い方をしそうだからだ。とりあえず届いた原石も大き過ぎなければ彼女も受け取ってくれるだろう。

「それにしても彼女もしぶといというか、諦めが悪いよね。」
「妊娠して帰ってきた孤児を見てきたら懐疑的になるでしょう。結婚しなければならないという義務もないのですから。家庭というのを知らないのであればある意味当然かと。持つ理由が分からないと言われればそれまでです。」
「貴族の令嬢とかはその辺りをキッパリと割り切っているから比べると難攻不落だろうね。」
「難攻不落ですよ。私が持っているのは実務能力だけですし。彼女がモフみとか言っているから特異体質が1番の魅力なんでしょうね。」

「それはうちの娘と感性同じだろう…単純に逃げない毛玉に飛びついているだけで・・・」
「そうですが?それで同衾も許してくれるなら安いですよ。」

ため息混じりの時点で不本意だろう。中身も意思もイザークで変わらないことを承知しながら毛玉なら良いよという彼女も不思議だ。
「まさか起きるまでずっと毛玉なのか?」
「寝たら毛玉から戻るのはご存知でしょう…彼女が寝たら人の姿に戻ってこっちが抱き枕なりしてますよ。」

当然です。

「よく怒られないな…」
「先に起きて毛玉になってますから。間に合わなかったら蹴り飛ばされてます。」

まぁ、喧嘩してなかったら良いよ。と、ユーリは不思議だと思いながら何も言わなかった。本人達がそれでいいなら良いと思う。少し複雑だけど。
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