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95 生活空間

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 孤児院育ちで1人暮らしで、小さな工房で親方に使い潰されそうなところだった。恋愛なんて考えることもないし自分の立ち位置を理解していたはずなんだけれどなぁ。と、思いながら隣にさも当然のようにいる護衛を見上げる。ずっとこちらをみていたのか目が合う。工房の長椅子でも読書をしてくつろいでいる。

「意識しないと狼の姿に慣れないのですか?」
「人が犬の姿になることができるのであって、犬が人になっているわけではありませんから。」
 犬の姿になってくれた。中型くらいの大きさの犬で左右の瞳の色が違って尻尾がとても長い珍しい犬種のような姿だ。モッフモフ。
 ミカエラは目を輝かせてイザークを抱き上げて作業場の席に戻り自分の膝に乗せてもふもふと撫でる。解せぬと顔になっているが私からしたらこっちの方がうれしい。

「この大きさなら同衾可です!夏はお断りですが、夏以外は大歓迎です!!」
 頬擦り。ミカエラは良い笑顔で犬姿の彼を抱きしめる。イザークは複雑だが嬉しいので尻尾がパタパタと揺れてしまっていた。
 ミカエラ、なぜこっちの姿なら喜んでくれるのですか。それはそれで辛いのだけれどももふもふと堪能させてから元の人姿になり見下ろすことになる。ミカエラは笑顔のままで固まってしまった。

「では、寝台に行くときは犬の姿でいましょうか。それ以外はそうする必要もないですし。」
「犬型ならずっと膝の上にいてて良いです!!!」
「私はあなたに触れていたいのですが?」
「結構な頻度で触れているではないですか・・・」
「足りませんよ。」

 口付けをしてくる。顔を逸らして拒絶をする。そこまでしたくない。
「どちらも私なんですが。」
「成人男性と中型犬に対する気持ちが同じなわけないでしょう。ぬいぐるみ扱いまでです。」
「…わかっています。」

 甘えたいと距離感が近くなっている。撫でるとすり寄ってくる。犬だ。撫でるだけで機嫌が良くなるのだけれども…それで良いのだろうか。ミカエラはそう思いながらも本人が満足するなら。と、思いながら触れるように努める。



家のことをアリアに任せながらもイザークは仕事を持ち込んでいるのか帳簿を付けていたりそばにいる。

「会計書類の確認。」
「ギルドにお金払って一任してるんで大丈夫ですよ。信用問題になるので。」
「私がするから契約を改めてはどうですか。」
「いえ、このままギルドに任せます。イザーク様は従業員でもないので。」

夜にギルドからの定期的に貰う報告書を寝室で目を通す。お金が増える増える。イザークはまだ犬の姿ではない。

「無防備過ぎますよ?」
「…嫌悪感感じたらユーリ様に返品交換をお願いしますから。」
「そう感じたら教えてください。改善しますから。」
「縋るようなことはしないでください。歳上なんですから…」
「縋るような気持ちになります。私にはあなたしか居ないのですから。」

そう言われたら強く言えないが、仕事中の方が好きではある。書類を片付けてベッドに腰掛ける。

「仕事中の方がかっこいいです。」
「それは有難いですけれど、疲れませんか?」

ミカエラは首を傾げて仕事の方が慣れているから疲れるという感覚は特にない。熱を帯びた目で見つめられても私は返せない。

「プレゼントを何か送りたいと考えているのですが、ミカエラが作る側なので悩んでます。」
「そうですね、材料持ってきてくださったら作りますよ?」
「プレゼントにならないでしょう。」

欠伸をしてベッドに入る。犬の姿になってベッドに入ってきた。抱きしめて目を閉じる。このモフモフは凄くいい。すやぁとミカエラは眠りについた。

イザークは直ぐに人の姿になり寝顔を見つめる。犬の姿で寝るなんてことはしたことがないし、意識的に姿を変えているだけだ。色々考えることになる。どうしようも無い程に彼女が欲しい。嫌われる、拒絶されたくない。彼女の妥協に甘えているだけだ。

手元の毛玉がいなくなったのに気づいたのか眠った彼女が目を覚ました。

「すみません、眠ると安定しないようでして。徹夜でお傍に居ます。」
「…ダメ。徹夜…なんて。アリアに誤解されないように早起きするならいいですよ。」
「寝惚けていると貴方は積極的ですよね。」

布団に入り腕枕を提供して抱き寄せてみる。毛玉なくて残念とか言いながら二度寝した。
愛おしい可愛い。感情の制御が難しい。傍にいたい。いると感情の制御が難しい。嬉しいのに辛い。

すやすやと眠る彼女の髪に口付けをして髪を撫でているとゴロンと傍に距離を詰めた。心臓がうるさくて眠れそうにない…
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