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階段が13段のアパート

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 島田秀平の有名な話である。
 ある日後輩の芸人がアパートを新しく借りることにしたらしい。
 下北沢でアパートがわずか8200円、その値段を聞いた瞬間に誰もが思った。その物件はやばい、と。
 近年の不動産屋は問題物件はそれを説明しなければならない義務があるので、その不動産屋もその後輩の芸人Aさんに説明したそうだ。
 「どういうわけかここは誰も2週間もたずに出て行ってしまう物件なんです。一人だけ2週間持ったかたは13日目に死体で発見されました………」
 明らかに本物である。しかも死んだ住人の死因は窒息死であったという。
 首をつったわけでもないのになぜ窒息したのか、その原因は不明なままであったらしい。

 「お前本当に大丈夫なの?」
 「大丈夫ですよ。楽しみにしていてください」

 芸人根性とよぶべきか、Aさんはいいネタになるくらいに考えているらしかった。

 翌日、Aさんから電話がかかってきた。
 1日目の夜、ふとAさんは目を覚ました。時刻は午前2時22分。子供たちの可愛い声で「わーっ」という声が階下で響いたかと思うとコツンと物音がしたという。
 「島田さん、やっぱりやばいですわ」
 そういいつつもAさんはその部屋に住み続けた。
 なんといってもAさんは貧乏で引っ越し費用をねん出するのは難しかったのだ。
 その後島田が不動産屋に聞いたところでは、どうやら階段が13段のアパートで階段をあがったすぐ角の201号室は例外なく問題物件であるという。
 もしも皆さんがアパートに住んでいるのであれば確認してみて欲しい。
 再びAさんからの電話が島田にかかってきたのは13日目の朝だった。
 
 「やばいです。俺もこれ以上は無理だから今日引っ越そうと思うんですが手伝ってもらえませんか?」
 「おいどうした?何があった?」
 
 Aさんの語るところによれば、毎日午前2時22分になぜか目を覚ます日が続いていたという。
 しかし子供のにぎやかな声が聞こえるだけで危険を感じさせるものではなかったようだ。
 だが気になるのはいつも最後にコツンと聞こえる音だった。
 しかも毎日一つづつ音が増えていく。Aさんはようやくひとつの推理に思い当った。
 そうか、毎日一段登ってくるんだ。ということは2週間たつとあいつらが登り切って入ってきちゃうんだ。だからみんな2週間持たずに出て行ってしまったんだ……。
 
 「それでも子供の声だしそれほどやばいことにはならないんじゃないか、って思ってたんです。でも昨夜は子供じゃなくて、明らかに大人の声でうなるような声がしてものすごい音でドドドドド!と階段を上がってきたかと
思うと玄関のドアがドーン!ドーン!って叩かれるんですよ。今夜あいつらが来たらどんなことになるかわからないんでお願いします!」
 「わかった。みんなにも声をかけておくから急げ!」

 これはやばいと思った島田は仲間たちに神社やお寺からお札やお守りを持ってこい、それを貼って早いとこ引っ越し終わらそう、と声をかけた。
 しかし皆さんも引っ越しをした人はわかると思うが、なんの準備もなく一日で引っ越しを終えるのは至難の業である。
 大勢の芸人仲間を動員したが引っ越しは終わらず時刻が午後7時半を回ろうとしたそのときだった。
 バン、という大きな音がしたかと思うと電気が落ちて室内がまっくらになった。
 ブレーカーを上げたが電源は戻らなかった。そのうえAさんの苦しそうなうめき声が聞こえ始める。

 「おい、大丈夫か?A!」

 そう聞かれてもAさんは苦しそうにうめくだけである。
 とにかく明るいところに行こう、とAさんを引きずるようにして仲間たちは屋外の街灯の下に向かった。
 街灯の下ではAさんが首もとを抑えるようにしてうずくまっていた。

 「大丈夫か?A?」

 それでも苦しそうにしたまま答えないAの様子に島田たちは慌てて救急車を呼んだ。
 どんどんAさんの顔色は紫色になっていき、救急車が到着したころにはすでに意識がなかったという
 幸い消防署が近かったせいか5分程度で救急車がついたからよいようなものの、もう少し到着が遅ければAさんの命はなかったらしい。
 なぜならAさんが苦しんでいたのは喉の奥にあるものが詰まっていたからなのだ。
 喉につまっていたそれは物凄い圧力で圧縮されたお札とお守りであった。

 2週間後窒息死していた前の住人、喉がつまって九死に一生を得たAさん。
 なぜそんな事態に陥ったか合理的な説明はできない。
 ただ、まるで石のようにギュッと圧縮されたお札とお守りは確かに存在し、今もAさんが大切に所有しているという……。
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