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第二部 根を張り始めた私

パンプディングの恨み

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朝ごはんを作り、メリダさんとごはんを食べ、それから学舎を回ってロウソクを確認しつつ、授業を受ける。合間に雪の積もる庭を散歩してみたり、古い教科書を読んでみたりして、夜は暖炉の脇で手仕事をしながら過ごす。
アーロンはまだ話せるようになっていない。
あちらこちらの神棚にお供え物をしてるのにな……。
それとなく生活のリズムができた頃、私は呼び出された。
神殿長が、帰ってきたのだ。

「気をしっかり持つんだよ」
その日の朝、メリダさんはソワソワと世話を焼いてくれた。
「とっておきのパンプディングを作ったからね」
本当に小さなパンプディングだった。冬のこの時期、卵もミルクも貴重品なのだ。レーズンが上に散らされている。これだってすごく貴重なのに……。
「メリダさんの分は……?」
「あ、あたしは良いんだよ。マージョがお食べ」
なんか最後の晩餐みたい。
でも、メリダさんのパンプディングは絶品なのだ。人の情が目に染みるよ……。

「あ……ありがとう……!」
「がんばるんだよ……!」
「はいっ!」
いただきます!と、スプーンを持ち上げたところで、セシル卿が現れた。
「容疑者」
「げ」
「げって言ったな?お前、今、げって……!」
「言ってませんよ、おはようございます」
しらを切るとジトッとこちらを睨む。
「神殿長がお呼びだ」
えーっ!
「いつ?」
「今すぐだ」
「……パンプディング食べちゃだめですか?」
「ダメに決まってるだろう!」
えーっ!!メリダさんのパンプディング美味しいのに!
「後で食べれば良いだろう」
「冷めちゃうじゃないですか!アツアツのメリダさんのパンプディングに対する冒涜ですよ、それ!」
「冒涜とか……お前、それ、神殿長の前で言うなよ、絶対……」
「セシル卿は(性格が悪くて)メリダさんのパンプディングを食べさせてもらったことがないからそんなことが言えるんですよ!」
「お前、なんか、すごく失礼なことを考えなかったか?」
「ソンナコトアリマセンヨー」
だけどなー。
パンプディングはなー。
「これを目前に呼びつけるなんて、人を人とも思わない所業ですね……」
「いや、お前、一応おやつどころじゃない重大容疑がかけられてるんだからな。……わかってるのか、こいつ……。」

わかってますよ。
わかってますけど、こんな美味しいものを目前に……絶対アーロンだったら激怒するよ!

「だから、とっておいてもらって後でたべれば良いだろう」
「そんなこと言ってこっそり食べるつもりでしょう!」
「お前のオヤツなんぞとって食わんわ!」
あ、そうだ。今すぐ食べられないんだったら……
「メリダさん、これ、厨房の神棚に上げておいてもいいですか?」
「厨房……神棚なんかあったかい?」

えっへん。
ちゃんとあるんですよ。

「ちょっと高いところにあるくぼみなんで、セシル卿にお願いしましょう」
せっかく背が高いですしね。
セシル卿はブツブツ言いながらもパンプディングを厨房の神棚に供えてくれた。

パッと神棚が光る。あ!これはアナスタシアかアーロンが嬉しいのね!

ニコッとしたら、セシル卿が目を瞬かせていた。
「な……なんだったんだ、今の……」

あら?! あなたも見える人でしたか!
ツルツルスベスベなのに!

「何か今、心の中で罵っただろう!」
いえいえいえ~!
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