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第二部 根を張り始めた私

松葉杖

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松葉杖が来ると、神官補の行動範囲はずいぶん広がった。
でも、庭でさえ雪のせいで足元が悪くてなかなか外にはでられない。

我慢強い人らしく、口にはしないけれどストレスは溜まっているようだし、動けないのがもどかしくもあるようだ。

ハンナさんとマルタさんがつけてくれたガラス窓のそばが神官補の定位置になるまでにあまり時間はかからなかった。


とても美しいものを見たのはそんなある日だった。
「あ……」

パンとスープだけの夕食を終えて、ランタン片手に暗闇の中へ水を汲みに外へ出た時、私はすごいものを見てしまった。

「来て!神官補!来て!」

松葉杖で立ち上がった神官補を肩で支える。滑ると危ないし私が支えたほうが早い。

相手は怪我人だし、雪から助け上げた時も肩を貸したので、全く意識していなかったのだけれど、今回、神官補は困惑したように、身をかわそうとした。
「マージョさん……!重いでしょう!」
「すぐそこだから大丈夫!」
本当に、今すぐ見せたい!
「一体何が……」
「気にしなくて良いから体重かけちゃってください!」

コートを着せて、マフラーでぐるぐる巻きにした神官補を支えて、庭に出した椅子に座らせる。

「見て! 空!」

オーロラだ。
夜空を赤や緑の光のカーテンが彩っている。

「!」
神官補の吐く息が白い。
でも、この寒さの中に出てくる価値はあるよ。圧倒されるくらい、空が広く、深く見える。
いつもだったら宝石箱をひっくり返したみたいに、星が見える空を圧倒するような光の洪水。

「オーロラ神の微笑……」
神官補が呟いた。

薄暗がりの中、神官補のまつ毛が震える。彼の視線はオーロラに吸い付くように定められて動かない。

「……あなたは本当に恵まれた人なのですね」
やがて、彼はそっと言う。

「女神オーロラが喜ばれた時に、空にこの光が満ちると言われます」
「そうなの……」
私はそんな話は知らなかった。 けれど こんなに美しいものを彼と一緒に見ることができたことはとても嬉しかった。そう言うと、神官補は虚を突かれたように私に視線を移し、目を見開く。

「綺麗なものを一緒に見る人がいるって素晴らしいことですね」
私はそう続ける。

冷たい空気で頭が冴えざえする。なんだか、今日は普段わからないことがすっきりと見通せるような気がした。
「人間ってやっぱり一人では生きられないようにできてるのかもしれない。綺麗なものや、美味しいものを分かち合うようにできているのかも」

チャーリーや、アリスちゃんや、夏雪草のみんなとも一緒に見たかったな……。ハンナさんとか、ガラス細工のインスピレーションがわいて、すごいことになりそうだね。


「あー……。そういうことですか」
私の言葉に、彼は小さくつぶやき、それから静かに俯いて微笑みを浮かべる。
「私もマージョさんと一緒にこれを見れて良かったと思います」
神官補と目が合った。
「こんなに美しいものは確かに分かち合って見たほうが良いですね」
あなたと一緒にオーロラ神の恵みを見たことは忘れないような気がします。

珍しく柔らかく、神官補は言った。
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