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第二部 根を張り始めた私

バグズブリッジまで

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バグズブリッジまでは、普通だったら馬車で一日かからない。
でも雪の中だし、2日はかかるとのことだった。
そもそも、この雪の中、キリングホールからここまで来れるということ自体、装備や馬車の優秀さがわかる。
バグズブリッジまでなら、なんとか冬の間も行き来がないでもないのだけれど、キリングホールからとなるとほとんど冬の往来は途絶える。

バグズブリッジに着く頃には、同行している騎士さん達の対応も分かってきた。

まずセシル卿。
私のことを馬鹿にしてる。
めちゃくちゃ馬鹿にしてる。
「おはようございます」
「なんだ、容疑者」
私には名前があるんですけどね?!

そこに神官補がやって来て「セシル卿……?」と地を這う声で言うまでがセットだ。
神官補に叱られると大人しくなるのだが、いなくなるとまた「容疑者」呼ばわりだ。学習しない。

神殿騎士は神学校で神学の基礎を学ばなくてはならず、そこで神官補の同級生だったのだと、後で知った。
「まことに遺憾なことに知り合いです」
と、神官補は、首を振っていた。
「いや、しかし、ヴァレンタイン、俺はお前に会えて良かったと思っているぞ?」

再び地を這うような声での返事が来る。

「下の名前で呼ぶなと何度言えば分かるのでしょうね、あなたは?」
やはり学習してない模様。


3人いるその他の騎士さんに関してはとにかく対応が四角四面だ。
個々人の性格が、っていうより、本神殿の組織としての特徴なんだろうな。
あと、多分私の立場は相当悪い。
この3人には世間話さえしてもらえない。セシル卿は「容疑者」呼ばわりの割には割と話をしてくれるんだけど。

この3人に関して言えば、面と向かって暴言を吐かれたり、暴力を振るわれたりはないけど、とにかく人間らしいコミュニケーションが皆無。

「これ、胡桃のキャラメルがけなんですけど、食べます?」
「結構です。容疑者の提供する食品を受け取ることは禁じられています」

「バグズブリッジを過ぎるとずいぶん村が増えるそうですね」
「そうですね」
「キリングホール近辺の特産物は何なんですか」
「すみませんが、お答えしかねます。あなたは容疑者ですから」

……心が折れそうになるよ!
バグズブリッジで神官補を置いて行くことは決定事項だったので、私とこの4人でキリングホールに向かうことになるんだけど、大丈夫なんだろうか、とかなり不安になる。


あと、まあ、普通にかなり寒い。
めちゃくちゃ着込んで来て、本当に良かった。
あまり生活魔法を見せたくなかったし、スキルを使うなんてもってのほかだから、何枚も重ね着をしていなかったら体調を崩していただろうと思う。
食事も、鞄にこっそりとオヤツをいっぱい持ってきて正解だった。

神官補が、隣に座ってくれているので、着々と古典ヴァドス語の復習を続ける。
時折神官補が騎士さん達が来ないように見張りをしてくれるので、隙を見てジャムの瓶に熱湯を入れ、小型カイロみたいなものを作って2人で暖をとる。

バグズブリッジでは神殿で一泊することになった。
ここでまた一悶着起きた。

ギルド長のフェリックスさんから、面会要請があったのを、セシル卿が突っぱねようとしたのだ。
「容疑者と関係者以外のものを会わせるわけにはいかん」
「ほう。いつからギルド関係者とギルド長が無関係になったんでしょうねえ」
神官補がネチネチとひっくり返させたんだよ……。

なんかドラマで見る刑務所の面会みたいだったけれど、騎士さんの監視のもと、フェリックスさんにはお会いできた。
美味しいご飯を差し入れしていただきました。


もうね、フェリックスさんはご飯が美味しい優男認定だよね。
さすがギルド長!

カトラリーまで美しい心豊かな食卓で涙が出そうになる。
食器類の美しさって心のゆとりと直結するよね……。
大慌てで荷造りをしたから、忘れたものがあって、スプーンはその最たるものだったし、ナイフは携行を許されなかった。

「よかったらそのスプーン、もっていってください。旅先で不自由なさるといけない」
そう言われて、スプーンをまじまじと見て、ちょっと胸がつまりそうになる。
緻密な飾りのつけられた銀のスプーン。
これだけで一財産だ。

「……そんな……こんなに貴重なもの……本当に良いのですか?」
「私のものですから。マージョさんにぜひ差し上げたいと思ったのですよ」
    精緻な飾りのついたスプーンをありがたくいただいて、神官補にお別れを言ったら涙が出そうになった。

気が重い。
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