異世界に召喚されたんですけど、スキルが「資源ごみ」だったので隠れて生きたいです

新田 安音(あらた あのん)

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第二部 根を張り始めた私

食料庫の中身

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村のおまつりってすごい。
メンストン家のみんなが帰った後も、色々な人が入れ代わり立ち代わり、ほんの少しづつ食べ物を持って来てくれる。
一人ずつ持って来てくれる量は必ずしも多くはない。
蒸したお芋を2つ、とか、栗の甘煮を一口、とか。
でも、塵も積もれば何とやらで、気づくとテーブルの上にはものすごいご馳走が並んでいる。

メンストン家には家族全員分のドーナツを手渡したけれど、親しくない家には、私も家族の人数分ではなく、一人分のドーナツを手渡す。時々予定外のプレゼントをもらうこともあって、そんなときは大慌てで毛糸玉だとか、瓶詰めのソースだとかをお返しに手渡す。

あっという間に一日で食料庫の中身が様変わりした。他の家の人が作ったピクルスは、ちょっと目先が変わって楽しい。すごい!
長い冬の「自分の食料庫の中身に飽きた」を解決する生活の知恵だ。

夕方近くにトーマスさんがパイを持ってきてくれた。エレンさんご自慢のチキンパイ。
「マージョさんの家が最後です」
トーマスさんがちょっとホッとしたような顔をする。色々な人と話をして少し疲れたんだね。
冬至祭は夜の長さを祝う祭だから、今日は夜遅くまでみんなで話をしながらこのご馳走を食べ尽くすのだという。
私の家が終わったらあとは気のおけない家族の時間だ。
トーマスさんは徒弟だから、ちょっと気を使うのかもしれないけれど……。

私はお一人様で、食べて、普通に寝ますよ!

「色々あった一年でしたね」
「本当にお世話になりました」

この世界に来たのは夏だから実質半年だ。なんだか目まぐるしく色々あったな。

エレンさんからは、乳鉢とすりこ木が届いた。いくつあっても良いものなので嬉しい。
トーマスさんからはかぎ針のセット。バグズブリッジでマルタさんに作ってもらったのだという。

「最後にバグズブリッジに行った時には、冒険者から下取りした鍋と鍋帽子がずいぶん町の人に人気でしたよ」

えっ、そうなの?

「下取り品で値段が安くなったから手が届いた、という層の人たちもいたようです。特に部屋住みの人ですね。共同キッチンしかないので、鍋帽子で料理の幅が広がるようです」

冒険者を顧客層と考えてたのに、意外な需要があったんだね。
限られた調理設備しかなく、部屋に暖炉もなかったりするのだという。煙突裏の部屋が人気で、階下の暖炉のおかげで部屋は暖かくなるけれど、自室ではお湯一つ沸かせないのだと。

「暖かい煮物が食べられると喜ばれました」
田舎だと自宅に調理設備がないなんて考えられないけれど、町の集合住宅だとそういうこともあるのね。

「子どもたちも、スタンピードランチでもらった羽織が大活躍していました。この冬は暖かいと」

あー。あれは現物支給で申し訳なかったやつ……。

「とんでもない。子供の身長に合わせた服だから、ピンハネされにくかったんですよ」

ピンハネ……?!

「子どものことを考える親ばかりではありませんから」

説明してくれるトーマスさんの顔つきは厳しい。

「私もマージョさんと仕事をさせてもらって、色々と世界が広がりました。本当に感謝しています」

トーマスさんの真面目な顔つきを見ていたら何だか嬉しくなった。プレゼントのマフラーと膝掛けが来年は大活躍しそうだ。

裂き編みのタオルラグも多分エレンさん、喜んでくれると思う。

前は下手に市場に持って行かれたら困るな……と躊躇していたんだけど、最近の様子だと大丈夫そう。

っていうか、この世界の冬を体験して思う。敷物大事!
寒さが全然違う。

驢馬のパールとパールの仔のルルーの話をして、私がようやく人との関わりに満足した頃、トーマスさんはニコニコ笑って家を出ていった。

私が贈ったマフラーを彼が忘れていったのに気づいたのは、トーマスさんが使ったカップを洗った後だった。
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