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第一部 綿毛のようにたどり着きました

バグズブリッジ市場

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色々終えて、市場についたときにはすでに閉場の時間がかなり近かった。

「鍋帽子と鍋のセット、全部売れました」
トーマスさんが説明してくれた。

実は今朝出発の前に駆け込んで買っていった冒険者パーティがそれなりにいたということ、それから意外なことに街の人が買いに来たのだそうだ。

「燃料をさほど使わなくても煮物ができるというのがやはり印象深かったようです」

あ……。冒険者に紛れてただ飯食べに来てたもんね!
怪我の功名ってヤツだ。
「売り切れていて、予約をかけていった人も何人か……こちらはギルドに任せるようですかね」
「そうだよねえ……」
トーマスさんがバグズブリッジに常駐しているわけではないから、ギルドで買ってもらうのがベストなのかもしれない。割高にはなりそうだけど。

「これは、とにかく、もっと売れそうです」
と、トーマスさんが言う。
「冬に向けてこれから薪を貯める時期になるからな」
チャーリーが頷いている。
木製の食器類もかなりの数が売れたと言う。

みんなが持ってきた他の小物を全部売り上げる、と張り切ってくれているトーマスさんに店番を任せて、私は市場を歩く。菜種油があったら買いたいのだ。これまで自分で作ってたら時間がいくらあっても足りないし、ラノリンクリームはまだまだ作るつもりだしね。

ふらふら歩いていたらひょろっと痩せた冒険者にぶつかった。
「あっ……!」
「おや、君は……」

ランチの時に少し話をした細っこい女性冒険者――ピップさんだった。

「まだバグズブリッジにいらしたんですか。冒険者の方たちはもう北へたったのかと」
「いや、僕はちょっと用事があってね……」
ピップさんたら、ボクっ娘属性なんですね。ていうか、今日見たら昨日よりずいぶん身なりも良いし、姿勢も良い。
もしかしたら昨日はお忍びで来ていた騎士様とか……だったのかな。

「あ、よかったら一緒に市場を回ってもらえるかな? このあたりは不案内で……」
「それはいいですけど、何か探しているものはありますか?」
「うーん、食品とか……あまり見当たらないんだよね」
「食品……は、ちょっと」
私は口ごもる。
「今は品薄かもしれません」
「知ってる。スタンピードで冒険者たちが買い漁るからだろう?」
「いや、それよりも領主様の滞在のせいですね」
「え?」

言ってしまってから「しまった」と思った。
不敬にあたっちゃうかも……。
「あ、えっと、今の、忘れてください」
「あ、ううん、誰にも言わないから……!」

そんなことを言われてもなあ……。
でもピップさんはしつこかった。最後には「アナスタシアに誓って悪いようにしない」とまで言われて、私は口を開いた。

「先代までは、スタンピードランチの激励には来てましたけど、川の向こうの別邸で狩猟パーティを開いていたじゃないですか」
「下々の者たちが命をかけている時に遊興にふけってるって評判が悪かったアレだね」
「……」
そんな評判だったのか。でもな~。
「評判は評判として、結果として、食品は別邸で賄われてました。従者一行や領主に挨拶に来る近隣有力者の宿や食料も」
「……ああ……そうか、肉も狩猟で取れたもので賄っていたと…」
私は頷く。
「今年は宿が取れない冒険者も非常に増えてしまって……」

正直、バグズブリッジでは対応しきれない人数だった、と私は思っている。
「心配なのは冬支度です。本来なら今の時期、潰す予定のない家畜をかなりの農家が潰してしまいましたから、秋の終わりから冬にかけて肉が高騰する可能性があります」
「……!」


豆だとか他に食べるものはあるわけだけど、この後数カ月はかなり気合を入れて燃料や食料を備蓄する必要がある。

「そんな余波があったのか……」
「領主様がこうしろと言ったわけじゃないんですけどね」
「そりゃそうだろう。……しかし、それは今年のスタンピードランチは大変だっただろう」
「そうですね。肉の手配はなかなか。宿も一杯になってしまったので、トイレを作ったり、色々準備に時間をかけたんですよ」
「……そうか」
「身分がある人が動くと周りが忖度して勝手に動くから大変ですね」
私が言うと、
「……本当に」
と、何故かピップさんが強く同意した。

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