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第一部 綿毛のようにたどり着きました
買付役トーマス&縫い物
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隣村のジェームソンさんのところにはトーマスさんが買付けに行ってくれた。
とりあえず、トーマスさんが私の買付け係として仕事をしてくれることになったのだ。
ホワイトさんの徒弟としてはお給料をもらっていないんだけれど、これは短期請負でも私からの依頼なのでお金を渡すことになる。
形の上では徒弟なのでホワイトさんが上前をはねることにはなるけど、彼らの許可がなければそもそもトーマスさんは年期が開けるまで自分一人では活動できないからね。
今回ホワイトさんが二つ返事で許可を出したのはあれだよね、エレンさんがやらかしたっていう感覚があるからなんだろうな。
「これが帳簿です。記録はしっかりとつけておかないといけないので。これは私と共同でつけますね」
「はい」
「あ、あと、農家の人が口約束で良いって言っても必ずその場で紙に書いてサインをもらってください」
「……あの、ほとんどの場合字が読めないから、そこまでしなくていいって……」
あー。
エレンさんだったらそう言うだろうね。
でも夏雪草の場合どんな横槍が入るかわからない。
「そういう場合、その家の子供を呼んでください。だいたい学校に行ってるはずですよね」
「あ、はい」
「そして読んでもらって納得がいったら拇印をもらいます」
「拇印、ですか?」
「はい、指には皮膚の形がありますよね、指紋と言うんですけど……見えますか?」
「はい……でも、これが何か?」
「これ、人によって形が違うんです」
「え?」
うん。
指紋が個人の識別に使えるというのは、文化圏によってはずいぶん後にもたらされた知識なんだよね。
中国では10世紀ごろには商取引に使っていたんじゃないかとされているし、日本でもずいぶん昔から使われていたわけだけど。
ヨーロッパで指紋鑑定がされるようになったのは19世紀も末期に入ってからだ。
「字が書けない人でもサイン代わりに使えるでしょう」
「……なるほど」
2通作って一通ずつ持っておくことを決める。
「買付の名前は夏雪草でお願いします」
「僕は夏雪草に依頼されているという形ですね」
「はい、来週バグズブリッジで夏雪草のみんなに紹介しないといけませんね」
「あ、はい。マージョさんのお役に立てるなら嬉しいです!」
……そこはアナベルさんだよね、と、私は妙に嬉しそうなトーマスを見て思った。
†††††††††††††††
そんなわたしたちの話をアリスちゃんは、ちょっと神妙な顔をして聞いていた。
「私、ついていきたいって言って……めいわくだった?」
……どうしたの?
「マージョ、トーマスさんと難しい話を、してたから……私、役に立てないかもしれない……」
ああ……。
「それに、マージョも困った顔してた……」
あ、うん。心配はしてるよ。
そう言うと、アリスちゃんは泣きそうな顔になった。
でも、これは言っておかなくてはならない。よそ様の子供を預かると責任も発生するし、指示に従ってもらわないと困るからね。
「あのね、アリスちゃん。バグズブリッジはとても大きな町なの。だから、私はたしかに心配してる。だってこんなに可愛い子が欲しいって悪い人に連れて行かれたりしたら、大変でしょ」
「そんなこと、しんぱいしてたの?!」
「そりゃあ、心配するよ。アリスちゃんはアリスちゃんのママとパパの宝物だし、私のとても特別な友達だからね」
だから、バグズブリッジでは、私の言うことをちゃんと聞いてほしい。
そう言うと、アリスちゃんはコクンと頷いた。
「でも、役に立つとか立たないとかだったらとても頼りにしてるの」
「ほんとう?!」
「うん。実はアリスちゃんに縫ってもらいたいものがあってね?」
「アリス、縫い物上手だよ!」
「知ってる! だから、これ、お願いしたいんだけど……」
私が試作品を見せると、アリスちゃんは不思議そうに首を傾げる。
「これ……なあに?」
ふふふふふ。新しいビジネスのアイデアなんだよ!
とりあえず、トーマスさんが私の買付け係として仕事をしてくれることになったのだ。
ホワイトさんの徒弟としてはお給料をもらっていないんだけれど、これは短期請負でも私からの依頼なのでお金を渡すことになる。
形の上では徒弟なのでホワイトさんが上前をはねることにはなるけど、彼らの許可がなければそもそもトーマスさんは年期が開けるまで自分一人では活動できないからね。
今回ホワイトさんが二つ返事で許可を出したのはあれだよね、エレンさんがやらかしたっていう感覚があるからなんだろうな。
「これが帳簿です。記録はしっかりとつけておかないといけないので。これは私と共同でつけますね」
「はい」
「あ、あと、農家の人が口約束で良いって言っても必ずその場で紙に書いてサインをもらってください」
「……あの、ほとんどの場合字が読めないから、そこまでしなくていいって……」
あー。
エレンさんだったらそう言うだろうね。
でも夏雪草の場合どんな横槍が入るかわからない。
「そういう場合、その家の子供を呼んでください。だいたい学校に行ってるはずですよね」
「あ、はい」
「そして読んでもらって納得がいったら拇印をもらいます」
「拇印、ですか?」
「はい、指には皮膚の形がありますよね、指紋と言うんですけど……見えますか?」
「はい……でも、これが何か?」
「これ、人によって形が違うんです」
「え?」
うん。
指紋が個人の識別に使えるというのは、文化圏によってはずいぶん後にもたらされた知識なんだよね。
中国では10世紀ごろには商取引に使っていたんじゃないかとされているし、日本でもずいぶん昔から使われていたわけだけど。
ヨーロッパで指紋鑑定がされるようになったのは19世紀も末期に入ってからだ。
「字が書けない人でもサイン代わりに使えるでしょう」
「……なるほど」
2通作って一通ずつ持っておくことを決める。
「買付の名前は夏雪草でお願いします」
「僕は夏雪草に依頼されているという形ですね」
「はい、来週バグズブリッジで夏雪草のみんなに紹介しないといけませんね」
「あ、はい。マージョさんのお役に立てるなら嬉しいです!」
……そこはアナベルさんだよね、と、私は妙に嬉しそうなトーマスを見て思った。
†††††††††††††††
そんなわたしたちの話をアリスちゃんは、ちょっと神妙な顔をして聞いていた。
「私、ついていきたいって言って……めいわくだった?」
……どうしたの?
「マージョ、トーマスさんと難しい話を、してたから……私、役に立てないかもしれない……」
ああ……。
「それに、マージョも困った顔してた……」
あ、うん。心配はしてるよ。
そう言うと、アリスちゃんは泣きそうな顔になった。
でも、これは言っておかなくてはならない。よそ様の子供を預かると責任も発生するし、指示に従ってもらわないと困るからね。
「あのね、アリスちゃん。バグズブリッジはとても大きな町なの。だから、私はたしかに心配してる。だってこんなに可愛い子が欲しいって悪い人に連れて行かれたりしたら、大変でしょ」
「そんなこと、しんぱいしてたの?!」
「そりゃあ、心配するよ。アリスちゃんはアリスちゃんのママとパパの宝物だし、私のとても特別な友達だからね」
だから、バグズブリッジでは、私の言うことをちゃんと聞いてほしい。
そう言うと、アリスちゃんはコクンと頷いた。
「でも、役に立つとか立たないとかだったらとても頼りにしてるの」
「ほんとう?!」
「うん。実はアリスちゃんに縫ってもらいたいものがあってね?」
「アリス、縫い物上手だよ!」
「知ってる! だから、これ、お願いしたいんだけど……」
私が試作品を見せると、アリスちゃんは不思議そうに首を傾げる。
「これ……なあに?」
ふふふふふ。新しいビジネスのアイデアなんだよ!
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