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第一部 綿毛のようにたどり着きました

ハンドクリーム

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翌朝起きると、ラノリンが鍋の上部にバターのように浮いていた。
このラノリンをすくって、小鍋に入れる。水は捨てる。

随分スッキリしたけれどまだ匂いはある。
集めたラノリンを再び火にかけて溶かし、生活魔法できれいな水を加える。
粗い布巾で濾してみてそれから、えいや!っとサラダ油を投入。
昔見た動画ではオリーブオイルを使ってたんだけど、残り少ないオリーブオイルをここで使うのはしのびなかった。

現代のラノリン製造では遠心分離機を使うんだけど、さすがにそんなものはないので、油と水のそれぞれに不純物を溶かそうという考えだ。
よく混ぜて溶かし、しばらくおいておいたらキレイに三層に分かれた。

一番上のサラダ油の層。
白いラノリンの層。
そして一番下にやはりまだ茶色い汚水の層。

これは、精製に成功したかも!

出来上がったラノリンをすくつてみる。
匂いはない。
色もベージュみがかかった白だ。
うんうん!
大成功の部類じゃないかな。
これに庭のハーブから作ったオイルを加えて香りを爽やかにするよ。

そこまでやってから、朝ごはんを食べていなかったことに気づいた。異世界一人暮らしはこういうところが不便だな。

日本にいた頃は思い立ったらすぐご飯を買えたけど今はそうじゃないからもっと計画的にしないと。

もっとも、今作っている保存食が熟成すると「思い立ったらすぐごはん」が、かなりできるようになる。

そんなことを考えながらサワードウでピタを焼く。
 ザワークラウトとかも作りたいな。キノコ類もオリーブオイルがあったらオリーブオイル漬けにして保存できるんだけどな。

保存の仕方はわかっているけど、塩も砂糖も油もかなりの貴重品だ。

今のところ獣脂以外の油類はとても高いことを把握してるんだよね。

オリーブオイルなんて、もとの世界でだって南欧のものだから、異世界でも北部にあるこのあたりでは相当高いに違いない。

作ろうと思っていたハンドクリームは蜜蝋とオリーブオイルをラノリンに混ぜたものがベースだ。というか、それしか知らない。


ラノリンベースのクリーム作りを生活の基盤にするつもりだったらオリーブオイルの代替品を見つける必要があるよね。

菜種油かな。
結構ヨーロッパの北の方でも取れるよね。ウクライナとか生産地として有名だった。戦争が起きたときに、ヨーロッパの菜種油の価格に影響が出たとか言ってたし。

ということは菜種をいずれどこかで入手しなくちゃ。
このあたりで見たことはないんだよな~。
でも菜種油づくりはそこそこ簡単なはず。

小学校のときに図書館にあった日本の偉人シリーズで読んだことがあるんだよね。

江戸時代の偉人の二宮金次郎のお話。
金次郎は子供の頃、日が暮れた後、本が読みたかったけれど、大人に菜種油がもったいないと叱られたんだって。
でも、金次郎は諦めなかったんだよ!
自分であぜ道に菜種を蒔いて、菜種油を作って、誰にも文句を言わせずに夜、本を読んだって。


これを読んだとき私は思わず心の底から二宮金次郎を応援したんだよ。
だってさ、暗くなったからって本を読むのをやめられないよね……。

そこで菜種を蒔くところから始めるとか、偉いよ!
もう、気持ちがわかりすぎてこの年になっても二宮金次郎には尊敬しかない。
ちなみに他の部分は全然覚えてない。何をして偉人になったんだろう……。
まさか菜種油で本を読んだ功績で伝記が書かれたわけじゃないよね……。

ともかく!
二宮金次郎は、いまでも私のハートをズッキュンわしづかみだよ。

だって……

1 菜種を育てるのは農家の子供ならできるらしい。
2 結構簡単に油が作れるらしい。
3 灯りをともすのに使えるらしい。

なんていう大切なことを私に教えてくれたんだよ?

江戸時代の話だから技術レベル的にも多分大丈夫だよね?


食用にしようと思ったら味にもこだわらなくちゃいけないから大変だろうけど、明かりだとか、それこそラノリンの精製に使える程度の植物油ならなんとかできそうな気がする。

いずれは食用を目指すとしても、試してみる価値はありそう。


そんなこと考えながら、湯煎で溶かした蜜蝋をラノリンに少しずつ加える。

均等に混ざったところでオリーブオイルを様子を見ながら加えて、その上から庭のハーブと、精油を加えていく。
あんまりたくさん入れると肌に刺激が強そうだからいい匂いのハーブを色々調合したよ。昨日スキルでとった柑橘類もほんの少しだけ使った。


ほんのかすかに柑橘の匂いがあるかな……? くらいの爽やかな匂いになった。

うん! 大成功!
自分が顔につけるのに抵抗感がない感じのクオリティ。
試作品だから量は少ないけれど、大体の分量もメモしたし、これは多分、かなりのレベルで再現できると思う。


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