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第一部 綿毛のようにたどり着きました
森のチキン
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毛刈りの差し入れを何にするか、頭を悩ませていたらチャーリーが「森のチキンがあるじゃないか」と、礼拝の帰りに言ってくれた。
あ! あったね!
この季節に森でとれるキノコだ。ちゃんと「知識」は、ある。
でもキノコや山菜はちょっと間違えると毒があったりするから、「知識」しかない人間としてはどうしてもハラハラする。
「 いっしょに取りに行ってやるよ」
おお……それはありがたい。あとでアーロンに確認すれば間違いもないだろう。
智慧の神様だって言ってたしね!
家に帰ってカゴとちょっとした軽食、それに小さな鍋を持って出かける。飲み物は炭酸水ですよ。はちみつを入れたミントティーを発酵させたもの。シュワッと爽やかだよ。
小ぶりのナイフを持っていくと、チャーリーもかごを持ってきていた。
森のチキンは切り株の根本に生えるキノコだ。オレンジがかった鮮やかな黄色のもので、この季節、入会地の森にたくさん出てくる。
「あー、それはダメだよ、マージョ!」
私が取ろうとしているものを見てチャーリーが声を上げた。
「あれ、これ、大きすぎた?」
森のチキンは、結構大きいものでも食べられるのだけれど、大きくなりすぎると固くなるし味も悪くなる。
このくらいまでなら美味しい! という境界が私にはよくわからないんだよね。
「森のチキンでこんなに大きいのとっちゃだめだろ……」
チャーリーがあきれたような声を出すのも無理はなくて、この辺りでは森のチキンは子供が一番最初に取り方を教えられるキノコなのだ。
派手な色だし、似た形や色の毒キノコがないから、事故がおきにくいんだよ。
ただ、時々アレルギー反応を起こす子がいるから、初めてとった時はほんの一口食べて様子を見るんだって。
アレルギーなんて言葉も概念もないから「森のチキンにつつかれる」というなんか妙に詩的な表現を代わりに使っていた。
ま、そういうわけで、森のチキン摘みでここまでモタモタする私はちょっと鈍臭く見えるんだろう。
しょうがないよ。初めてだもん。
この季節の森には他にも結構食べられるキノコがあるんだけれど、マージョの「知識」だと間違いを起こしそうでちょっと怖い。
舞茸もあるんだよね。
もと日本人としては、ぜひとも判別できるようになりたいけど……。
天ぷら美味しいよね。
塩だけでも美味しい。
「あ、これ。マージョにやるよ」
チャーリーが黒い丸いものをくれた。
あれ? これは?
「トリュフだよ。秋になって豚を連れてくるとあっという間に全部食べられちゃうんだよな」
!!
トリュフが自生する裏山?!
オリーブオイルがあったら漬けておいて保存できるかな。 あんまりもたないんだよね、確か。でも、トリュフオイルはきっといい!
興奮しながらキノコを摘んでいたら、チャーリーがぼそっと「おれ、神殿で仕事できるかな……」と聞いてきた。
あ、そうか。読み書きできれば、神官さんの村の補佐係ができるもんね。私はずっとやるつもりはないしね。
チャーリーは畑を継がないからそういうの大切だ。
「うん。それもだけど、蜂ができないかなって……」
おー!
そうか!
養蜂の技術を神殿で教えてもらって村の神殿の神官補佐の仕事ができれば、持っている畑が小さくても安定した生活が見込める。
すごい、良い考えだ。
最初は親元に住みながら養蜂を始めて、元手をためて畑を買ったり開墾したりもできるし。
「チャーリーが村で養蜂できたら、蜜蝋が安く手に入るよね。みんな喜ぶだろうなあ」
神殿づきの養蜂家は、蜂蜜も蜜蝋も半分は神殿に上納しなくちゃいけない。それでも神殿外の養蜂家と収穫量は段違いなのだという。
自分の取り分は町で売ったり、近所と交換したりすることになるから、村に神殿養蜂家がいると、蜂蜜も、蜜蝋もずっと手に入りやすくなる。
うわー。
そうなったら、チャーリーだけじゃなくて私も嬉しい。
「なんかさ、マージョと勉強を始めるまでこういうこと考えたこともなかったんだよね」
神殿づきの養蜂家は読み書きができて、熱心な信者であることが前提だから、今までは考えもしなかったのだという。
文字がかなりのスピードで読めるようになったことが大きかったのと、教材として読ませていた神話集が刺激になったみたい。
「来週の安息日に神官様に相談してみようよ。まあ、まずは下級試験には少なくとも受からなくちゃいけないけれど」
一番下のレベルの試験にも受からない相手を神官補佐にはさすがに任命しづらいだろう。
ある程度キノコが取れたところで、遅めのランチ休憩をとる。
小さな焚き火を作って森のチキンをバターでソテーにした。
持ってきたパンに乗せる。
「うー。美味しい……」
食感はチキンみたい。味は……なんていうんだろう、鶏肉みたいな、ロブスターみたいな。
「うーー!!」
美味しすぎて声にならない。
これは、バターソテーが一番なんじゃないかな。
「そんなことないぞ。スープにしてもうまいし、クリームシチューだって絶品だ」
はふはふ食べながらチャーリーが力説する。
スープが欲しいんだね!
心の声をしかと受け取ったよ!
ただ、ミルクベースのスープは季節を考えるとちょっと怖いな。
この味だと唐揚げにしてもいけそう。
てうか、良いかも!そうしよう。唐揚げ唐揚げ!
あ! あったね!
この季節に森でとれるキノコだ。ちゃんと「知識」は、ある。
でもキノコや山菜はちょっと間違えると毒があったりするから、「知識」しかない人間としてはどうしてもハラハラする。
「 いっしょに取りに行ってやるよ」
おお……それはありがたい。あとでアーロンに確認すれば間違いもないだろう。
智慧の神様だって言ってたしね!
家に帰ってカゴとちょっとした軽食、それに小さな鍋を持って出かける。飲み物は炭酸水ですよ。はちみつを入れたミントティーを発酵させたもの。シュワッと爽やかだよ。
小ぶりのナイフを持っていくと、チャーリーもかごを持ってきていた。
森のチキンは切り株の根本に生えるキノコだ。オレンジがかった鮮やかな黄色のもので、この季節、入会地の森にたくさん出てくる。
「あー、それはダメだよ、マージョ!」
私が取ろうとしているものを見てチャーリーが声を上げた。
「あれ、これ、大きすぎた?」
森のチキンは、結構大きいものでも食べられるのだけれど、大きくなりすぎると固くなるし味も悪くなる。
このくらいまでなら美味しい! という境界が私にはよくわからないんだよね。
「森のチキンでこんなに大きいのとっちゃだめだろ……」
チャーリーがあきれたような声を出すのも無理はなくて、この辺りでは森のチキンは子供が一番最初に取り方を教えられるキノコなのだ。
派手な色だし、似た形や色の毒キノコがないから、事故がおきにくいんだよ。
ただ、時々アレルギー反応を起こす子がいるから、初めてとった時はほんの一口食べて様子を見るんだって。
アレルギーなんて言葉も概念もないから「森のチキンにつつかれる」というなんか妙に詩的な表現を代わりに使っていた。
ま、そういうわけで、森のチキン摘みでここまでモタモタする私はちょっと鈍臭く見えるんだろう。
しょうがないよ。初めてだもん。
この季節の森には他にも結構食べられるキノコがあるんだけれど、マージョの「知識」だと間違いを起こしそうでちょっと怖い。
舞茸もあるんだよね。
もと日本人としては、ぜひとも判別できるようになりたいけど……。
天ぷら美味しいよね。
塩だけでも美味しい。
「あ、これ。マージョにやるよ」
チャーリーが黒い丸いものをくれた。
あれ? これは?
「トリュフだよ。秋になって豚を連れてくるとあっという間に全部食べられちゃうんだよな」
!!
トリュフが自生する裏山?!
オリーブオイルがあったら漬けておいて保存できるかな。 あんまりもたないんだよね、確か。でも、トリュフオイルはきっといい!
興奮しながらキノコを摘んでいたら、チャーリーがぼそっと「おれ、神殿で仕事できるかな……」と聞いてきた。
あ、そうか。読み書きできれば、神官さんの村の補佐係ができるもんね。私はずっとやるつもりはないしね。
チャーリーは畑を継がないからそういうの大切だ。
「うん。それもだけど、蜂ができないかなって……」
おー!
そうか!
養蜂の技術を神殿で教えてもらって村の神殿の神官補佐の仕事ができれば、持っている畑が小さくても安定した生活が見込める。
すごい、良い考えだ。
最初は親元に住みながら養蜂を始めて、元手をためて畑を買ったり開墾したりもできるし。
「チャーリーが村で養蜂できたら、蜜蝋が安く手に入るよね。みんな喜ぶだろうなあ」
神殿づきの養蜂家は、蜂蜜も蜜蝋も半分は神殿に上納しなくちゃいけない。それでも神殿外の養蜂家と収穫量は段違いなのだという。
自分の取り分は町で売ったり、近所と交換したりすることになるから、村に神殿養蜂家がいると、蜂蜜も、蜜蝋もずっと手に入りやすくなる。
うわー。
そうなったら、チャーリーだけじゃなくて私も嬉しい。
「なんかさ、マージョと勉強を始めるまでこういうこと考えたこともなかったんだよね」
神殿づきの養蜂家は読み書きができて、熱心な信者であることが前提だから、今までは考えもしなかったのだという。
文字がかなりのスピードで読めるようになったことが大きかったのと、教材として読ませていた神話集が刺激になったみたい。
「来週の安息日に神官様に相談してみようよ。まあ、まずは下級試験には少なくとも受からなくちゃいけないけれど」
一番下のレベルの試験にも受からない相手を神官補佐にはさすがに任命しづらいだろう。
ある程度キノコが取れたところで、遅めのランチ休憩をとる。
小さな焚き火を作って森のチキンをバターでソテーにした。
持ってきたパンに乗せる。
「うー。美味しい……」
食感はチキンみたい。味は……なんていうんだろう、鶏肉みたいな、ロブスターみたいな。
「うーー!!」
美味しすぎて声にならない。
これは、バターソテーが一番なんじゃないかな。
「そんなことないぞ。スープにしてもうまいし、クリームシチューだって絶品だ」
はふはふ食べながらチャーリーが力説する。
スープが欲しいんだね!
心の声をしかと受け取ったよ!
ただ、ミルクベースのスープは季節を考えるとちょっと怖いな。
この味だと唐揚げにしてもいけそう。
てうか、良いかも!そうしよう。唐揚げ唐揚げ!
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