異世界に召喚されたんですけど、スキルが「資源ごみ」だったので隠れて生きたいです

新田 安音(あらた あのん)

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第一部 綿毛のようにたどり着きました

ジャムと猿酒

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ハーマンさんとエレンさんが帰ったあと小屋に入ったらビルベリーがキレイに洗ってあって、何もかもが準備されていた。

暖炉の前には薪が積み上がっていたし、「服の馬」まで修理されて前においてあった。
チャーリーとアリスちゃんが使ったコップは洗って布巾の上に逆さに置かれていたし、二人がどれだけジャム作りを楽しみにしていたか、どれだけ家に帰るまでジリジリ待っていたかがわかってちょっと切ない気分になった。

商談だから、しかたないんだけど、一緒にジャムを煮たかったな……。


そんなことを思いながら、まずは猿酒をきちんと仕込む。
それから暖炉に火をおこす。最近は熾火を灰に埋めて種火を残しておくコツをつかんだから、火を熾す時間が随分短くなった。

火が落ち着くまでの間に、ビルベリーと蜂蜜を琺瑯ホーロー鍋に入れる。
入り切らない分はザルに乗せて暖炉からちょっと離れたところに置く。

干せるかな?



マージョの知識を参照してお酒の仕込みもする。
日本だと酒税法違反になるからできなかったけれど、ビールやリンゴ酒の仕込みはこの世界の人たちには常識的なものだ。
果物は干すか、つけるか、煮込むか、発酵させるか……くらいが保存の方法だけど、この北国ではそうそう簡単に干せるとも限らないからね。

チャーリーたちは、自分たちが取ったベリーまでおいていってくれたので、ジャムをかなり多めに煮る。
コトコトと、火加減に気をつけて煮て、その脇でパッチワークをする。
あー、ソファとか、ロッキングチェアとか、欲しいな。


今日はもう、人が来ないように戸を閉めてしまったから、なんだかのんびりした気分だ。
コトコトと鍋の様子を見ながら、時々アクをとって。
暖炉の火があると、心も豊かだな。夏だというのに夕方は少しだけ肌寒い。
外は黄昏時の金色の光が私の小さな庭を満たしている。

スイカズラの甘い匂いがする。
うちのスイカズラは食べられる実がなる種類だよ。


こちらの世界に来て初めて、私は自分の家にいる、と思った。

ジャムはそっとヘラでとって、お皿に乗せ、ふうっと息を吹きかけて煮詰まり具合を確認する。ジャムを煮込む隣で大鍋ではジャム用の瓶を煮沸消毒している。今日は、このまま、暖炉の脇でチーズを炙ってお夕飯にするよ。

それから煮沸消毒が終わったあとのお湯でお風呂に入る予定。髪の毛も洗うよ。

盛りだくさんだ。
でも、なんだかのどかに静かだ。
外はまだ明るいけれど、家の中は薄暗いから、暖炉の火とろうそくの灯りがとても嬉しい。
なんか、話し相手が欲しいな……。
でも、こういうときの話し相手は難しい。
私がこの世界の人間ではないかもと気づかれたくないとか、思っていたらくつろいで話もできないし……。
と、考えて私はいいことを思いついた。
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