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第4幕:解け合う未来の奇想曲(カプリッチオ)
第2-4節:偽りのない愛情
しおりを挟むリカルドは質素ながらもスタイリッシュなデザインの礼服、ナイルさんはジョセフと同様の軍服、スピーナさんとポプラはいつものメイド服だけど出迎えのためにわざわざ洗濯済みのものを下ろしてそれに着替えたみたい。
そのほか、兵役で招集された一般の兵士さんたちが十数人ほどフロアの隅で整列して佇んでいる。いつも以上に警備を厳重にしたり色々な仕事もあったりするだろうから、これは当然の措置かな。
以前にポプラが話していたけど、年に何度かある兵役の機会というのはこういう時なんだね……。
一方、お体のこともあるのか、この場にお義姉様の姿は見えない。もちろん、専属メイドのルーシーさんも。ただ、不特定多数の人が出入りするということを考えると、それは仕方のない対応かも。
また、どんな時も遠慮会釈のないモーリスさんもここにはいないようだった。朝食や昼食の時には同席していたんだけど、どこへ行ったのだろう? 屋敷内の見回りをしてくれているのかな?
…………。
……ま、まさかこのタイミングで温泉に入っているということはないよね?
き、きっと自宅に帰ったのだろう! 今日は兵士さんがたくさんいて屋敷内の警備は事足りてるし、出迎えをするよう指示されてるわけでもないから!
……ただ、そんな彼の気楽さが少し羨ましくも感じる。
私はフィルザード家以外の貴族と会うのは初めてで、しかもゲストをおもてなしする辺境伯夫人という立場。この華々しくも緊張感の漂う雰囲気に身が引き締まる想いしかない。
ゆえに私は表情を強張らせつつ、玄関ホールへ下り立ってリカルドの横へ歩み寄る。
「お待たせしました、リカルド様」
「おぉ! 来たか、シャロン。ドレス、似合っているぞ。そしていつも以上に美しい。世界中に自慢して歩きたいくらいだ」
「そうおっしゃっていただけて嬉しいですが、なんだかお世辞のようにも聞こえますよ? 反応が大袈裟な気がしますし……」
「では、キミへの僕の愛情を行動で示そうか?」
その言葉の意味が分からず、キョトンとして首を傾げる私。
するとその直後、リカルドは目の前で片膝を付いて私の左手を優しく取った。眼下には彼の頭があって、サラサラとした清潔感のある黒髪が光を反射して輝いている。
そしてそのまま彼は私の手の甲に顔を近付け、キスをしてくる。
温かさと柔らかさ、気遣う想いが伝わってくる。
…………。
なっ!? なななななっ?
何をされたのか、理解するまで数秒。それを認識して顔や全身が沸騰するほど熱くなるのは一瞬。心臓は激しく脈動して、痛くなるほどの速度に達する。
頭の中は処理が追いつかなくて、言葉が何も出てこない。
「っっっっっ!」
「シャロン、これなら僕の気持ちに偽りがないと理解してもらえただろうか」
「あぅ……う……」
「はっはっは! 頬が真っ赤だぞ?」
大笑いをしたリカルドは立ち上がり、私の頭に手を置きながらやや覗き込むように顔を近付けてきた。さらに狼狽えている私と瞳を合わせ、頬を人差し指で何度か突いてくる。
それに対して私は嬉しいながらも混乱していて反応が出来ない。
チラチラと視線を周りに向けてみると、その場にいるみんなが微笑ましそうにこちらを眺めている。私は照れくさすぎて顔から火が出そう。
ううう……リカルドのバカ……。
でも、彼のおかげでその場の緊張した空気は明らかに緩んだような気がする。私自身も肩から力が抜けたというか。
彼はこれを意図してやった……のかな? 本当に掴み所のない御方だ。
その後、屋敷の外で見張りをしていた兵士さんからノエル様たちの隊列が見えたとの報告が入り、リカルドは私に向かって左手を差し出してくる。
「外へ出て出迎えよう。行くぞ、シャロン」
「は、はい!」
私は彼の左手に自分の右手を重ねた。それに対して彼はその手を優しく握ると、ゆっくり引いてエスコートしてくれる。歩くスピードも合わせてくれて、そうした様々な気遣いが嬉しいし、初めての外交だけど少しは安心できる。
そんな私たちの後ろからジョセフやナイルさん、スピーナさん、ポプラも続いて歩いてくる。そして兵士さんによって開けられた玄関のドアを通り、私たちは屋敷の傍らで整然と横に並んでノエル様たちを待つ。
(つづく……)
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