7 / 7
Scene 7(完結):神様からの贈り物
しおりを挟む一方の彼も私と目が合うと、途端に狼狽えながらモジモジとして落ち着きがない。やっぱりどことなく彼はいつもと違って変だ。
「えっと、な、流山さん。きょ、今日の花火大会、中止になっちゃって残念だったね」
「そうだね……。でもその代わり、こうしてふたりだけの小さな花火大会が出来たから少しは満足かな。美味しいアイスコーヒーとサンドイッチも食べられたし」
「そ、それは良かった」
「うんっ!」
私が満面の笑みで頷くと、藤代くんはちょっとだけ眉を開いて小さく息をついた。
それからわずかな沈黙の後、彼は意を決したような顔になって強めに叫ぶ。
「あのさっ!」
「ど、どうしたのっ!?」
「来週の日曜日、流山さんは何か予定が入ってる?」
「えーっと、特にないはずだけど……」
「だったら、ここからちょっと離れてるけど、ほかの河川敷でも花火大会があるらしいんだ。そっちに行ってみない?」
「えっ、そうなんだ? うん、いいね! それなら早速、麻弥たちに連絡して――」
「そうじゃなくて! えっと……俺と流山さんのふたりだけで……」
「えっ?」
藤代くんの真意が分からず、私はキョトンとする。
するとそれを見た彼は目を丸くしたあと、なぜか瞳に寂しげな光を灯しつつ力のない声を漏らす。
「……あはは……ゴメン。俺、ちょっと調子に乗りすぎた。そこまで親しくもないのに、馴れ馴れしかったよね。今の話、忘れて」
「……っ……。ヤダ……。私、忘れたくない」
「えっ?」
「私で良ければ……いいよ! ふたりだけで一緒に花火を見に行こっ!」
「マ?」
「……うん」
「よっしゃあぁあああああぁーっ!」
急に藤代くんはその場でジャンプし、空の果てまで響き渡るような歓喜の叫びを上げた。その喜びと興奮は端で見ている私にも伝わってくる。
もちろん、彼とデートの約束が決まって、私だって嬉しい。これって夢じゃないよね? まだ信じられない。でもこのドキドキを感じているからこそ現実に違いない!
そしてそれなら彼の叫び声はこの時間では近所迷惑になるのも間違いないから、私は当惑しながら周囲を見回してしまう。
「ちょっ、藤代くんっ!? 静かにしないと……」
「今からメッチャ気合い入った! 来週は俺も浴衣を着ていく! リュックも持っていくけど!」
「浴衣にリュックって、ファッション性は気にしなくて良いの?」
「だってもし今日みたいに雨が降ったら困るでしょ? 流山さんを雨に濡らすわけにはいかないし、風邪をひかせたら大変だし。そうさせないために、俺のファッション性は犠牲にする」
「あ……。……ふふっ、やっぱり優しいね、藤代くんは」
「よしっ、来週は来週だ。今夜は残りの線香花火を楽しもうよ!」
「……うんっ!」
夏の終わりに起きた奇跡。こんな嬉しい展開になるなんて思ってもみなかった。
――と、その時のこと。
不意にバケツの水面に移る星空に大輪の花火が輝くと同時に、ドーンという大きな音と振動が響いた。驚いた私は思わず顔を空へ向かって大きく上げる。同じタイミングで藤代くんも顔を上げている。
ただ、そこには静かな星空が広がっているだけ。炎の欠片すら感じられない。
「ねぇ、藤代くん。今、打ち上げ花火が舞い上がらなかった? 私の気のせいかな?」
「いや、俺も音と光を感じたよ。でもそれっきりだから……どうなのかな……?」
「うん……。花火大会は中止になったはずだし、今さら一発だけ上がるっていうのもおかしな話だよね」
「ただ、俺も流山さんも音と光を感じたということは、妄想や幻ってことも考えにくいよね」
「もしかしたら、私たちだけに神様が見せてくれた奇跡なのかも。そう考えたら、なんか素敵じゃない?」
「奇跡……か……。いいね、それ」
「でも来週は奇跡じゃなくて、素敵な現実の花火を見ようね。っていうか、私、藤代くんとならこれからも毎年ずっとずっと見に行きたい」
「えっ?」
「……あはは、今度は私が調子に乗っちゃった。ゴメンね」
「俺も……その……流山さんと同じ気持ちだけど……」
「っ!?」
私の顔が瞬時に沸騰した。頭から激しく水蒸気が上がっているような感じがする。
でもそれは藤代くんも同じで、顔全体を赤く染めつつ真剣な表情で私をジッと見つめている。そして地面を軽く踏みしめたような音がしたかと思うと、意を決したように彼は口を開く。
「流山さん、良かったら俺と付き合ってください」
「っ!? ……は、はいッ!」
その直後、再び夜空に打ち上げ花火が舞う音と光がしたような気がする。
(おしまいっ!)
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?
石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。
ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。
ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。
「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
10 sweet wedding
国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。
粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる
春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。
幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……?
幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。
2024.03.06
イラスト:雪緒さま
雨音。―私を避けていた義弟が突然、部屋にやってきました―
入海月子
恋愛
雨で引きこもっていた瑞希の部屋に、突然、義弟の伶がやってきた。
伶のことが好きだった瑞希だが、高校のときから彼に避けられるようになって、それがつらくて家を出たのに、今になって、なぜ?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!
奏音 美都
恋愛
まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。
「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」
国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?
国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。
「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」
え……私、貴方の妹になるんですけど?
どこから突っ込んでいいのか分かんない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる