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Scene 7(完結):神様からの贈り物

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 一方の彼も私と目が合うと、途端に狼狽うろたえながらモジモジとして落ち着きがない。やっぱりどことなく彼はいつもと違って変だ。

「えっと、な、流山ながれやまさん。きょ、今日の花火大会、中止になっちゃって残念だったね」

「そうだね……。でもその代わり、こうしてふたりだけの小さな花火大会が出来たから少しは満足かな。美味しいアイスコーヒーとサンドイッチも食べられたし」

「そ、それは良かった」

「うんっ!」

 私が満面の笑みでうなずくと、藤代ふじしろくんはちょっとだけ眉を開いて小さく息をついた。

 それからわずかな沈黙の後、彼は意を決したような顔になって強めに叫ぶ。

「あのさっ!」

「ど、どうしたのっ!?」

「来週の日曜日、流山ながれやまさんは何か予定が入ってる?」

「えーっと、特にないはずだけど……」

「だったら、ここからちょっと離れてるけど、ほかの河川敷でも花火大会があるらしいんだ。そっちに行ってみない?」

「えっ、そうなんだ? うん、いいね! それなら早速、麻弥まやたちに連絡して――」

「そうじゃなくて! えっと……俺と流山ながれやまさんのふたりだけで……」

「えっ?」

 藤代ふじしろくんの真意が分からず、私はキョトンとする。

 するとそれを見た彼は目を丸くしたあと、なぜか瞳にさびしげな光を灯しつつ力のない声を漏らす。

「……あはは……ゴメン。俺、ちょっと調子に乗りすぎた。そこまで親しくもないのに、馴れ馴れしかったよね。今の話、忘れて」

「……っ……。ヤダ……。私、忘れたくない」

「えっ?」

「私で良ければ……いいよ! ふたりだけで一緒に花火を見に行こっ!」

「マ?」

「……うん」

「よっしゃあぁあああああぁーっ!」

 急に藤代ふじしろくんはその場でジャンプし、空の果てまで響き渡るような歓喜の叫びを上げた。その喜びと興奮は端で見ている私にも伝わってくる。

 もちろん、彼とデートの約束が決まって、私だって嬉しい。これって夢じゃないよね? まだ信じられない。でもこのドキドキを感じているからこそ現実に違いない!

 そしてそれなら彼の叫び声はこの時間では近所迷惑になるのも間違いないから、私は当惑しながら周囲を見回してしまう。

「ちょっ、藤代ふじしろくんっ!? 静かにしないと……」

「今からメッチャ気合い入った! 来週は俺も浴衣ゆかたを着ていく! リュックも持っていくけど!」

浴衣ゆかたにリュックって、ファッション性は気にしなくて良いの?」

「だってもし今日みたいに雨が降ったら困るでしょ? 流山ながれやまさんを雨に濡らすわけにはいかないし、風邪をひかせたら大変だし。そうさせないために、俺のファッション性は犠牲にする」

「あ……。……ふふっ、やっぱり優しいね、藤代ふじしろくんは」

「よしっ、来週は来週だ。今夜は残りの線香花火を楽しもうよ!」

「……うんっ!」

 夏の終わりに起きた奇跡。こんな嬉しい展開になるなんて思ってもみなかった。



 ――と、その時のこと。

 不意にバケツの水面に移る星空に大輪の花火が輝くと同時に、ドーンという大きな音と振動が響いた。驚いた私は思わず顔を空へ向かって大きく上げる。同じタイミングで藤代ふじしろくんも顔を上げている。

 ただ、そこには静かな星空が広がっているだけ。炎の欠片すら感じられない。

「ねぇ、藤代ふじしろくん。今、打ち上げ花火が舞い上がらなかった? 私の気のせいかな?」

「いや、俺も音と光を感じたよ。でもそれっきりだから……どうなのかな……?」

「うん……。花火大会は中止になったはずだし、今さら一発だけ上がるっていうのもおかしな話だよね」

「ただ、俺も流山ながれやまさんも音と光を感じたということは、妄想もうそうや幻ってことも考えにくいよね」

「もしかしたら、私たちだけに神様が見せてくれた奇跡なのかも。そう考えたら、なんか素敵じゃない?」

「奇跡……か……。いいね、それ」

「でも来週は奇跡じゃなくて、素敵な現実の花火を見ようね。っていうか、私、藤代ふじしろくんとならこれからも毎年ずっとずっと見に行きたい」

「えっ?」

「……あはは、今度は私が調子に乗っちゃった。ゴメンね」

「俺も……その……流山ながれやまさんと同じ気持ちだけど……」

「っ!?」

 私の顔が瞬時に沸騰した。頭から激しく水蒸気が上がっているような感じがする。

 でもそれは藤代ふじしろくんも同じで、顔全体を赤く染めつつ真剣な表情で私をジッと見つめている。そして地面を軽く踏みしめたような音がしたかと思うと、意を決したように彼は口を開く。



流山ながれやまさん、良かったら俺と付き合ってください」

「っ!? ……は、はいッ!」

 その直後、再び夜空に打ち上げ花火が舞う音と光がしたような気がする。


(おしまいっ!)

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