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召喚と旅立ち
9.そうだ、お風呂に入ろう
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ボクは元々どんな人間だったんだろうと思い詰める瞬間がある。
日本という国に産まれて――、
多分、男で――、
あとは――全く分からないんだ。
自分のことなのに、分からないんだ。
よく、“自分自身のことは分かっているようで分からない”なんて、お洒落なことを言う人がいるけど、全くもってそういう次元じゃない。自己記憶の消去――ぜひ、想像してほしい。これは、自分の過去を完全否定される以上に、とてつもなく空虚で、悲愴で、それでいて最も残酷な仕打ちなんだよ。
日本がどういう国だったのかは普通に覚えている。科学と経済、文化が発展した飽食の国。毎日、政治やスポーツ、芸能などのニュースが報道されていた。情報技術や交通網が発達し、アニメーション等のサブカルチャーは世界一だと言い切れる――それが、わが国日本だ。
そう言えば、電気の発明って凄いよね。こっちの世界だと魔法が発達しているからか、科学はイマイチ。化学電池でも作って製品化したら、もしかしてお金持ちになれる? 文明の利器、いわゆるオーパーツを持ち込むのは世界の秩序を乱す禁則事項か――きっと、神様に目をつけられちゃうよね。
そんなボクの曖昧模糊な記憶の中でも、“もしかしたら、自分は結婚していて、子どももいたんじゃないか?”という、モヤモヤした記憶がある、そんな気がする。
「リンネちゃん、胸が大きくない!? まだ12歳でしょ!? 」
そう、目の前には真っ裸のアユナちゃんが居るんだ。今のボクより1歳下、11歳らしい。エルフの11歳って、人間の11歳とどう違うのかな?
エルフが長寿というのは、勿論知っている。300歳まで生きるとか、800歳まで生きられるとか――ボクが知っている異世界情報はとってもテキトウで、無責任だ。ただ、エルフは貧乳、ダークエルフは巨乳――という情報は、真実かもしれない。
日本人の知識で、11歳の女の子がどの程度発育しているものかは、健全なボクには全く分からない。記憶喪失云々ではなく、一般常識として持ち合わせていない。
だけど、これはいくら何でも――板すぎるでしょ。
いや、こういう未発達なのが好きだという変わったご趣味の方々も日本には居たということは知っている。ロリコンと呼ばれる種族だ。ボクは違う。記憶が無いけど、きっと違うはず――。
因みに、こっちの世界に来てから、まだボクは自分自身の身体を観察したことがない。“食物超吸収”という神スキルのお陰でトイレに行かずに済んでいるというのが大きいんだけど、着替える時は相変わらず目を瞑ってしまう。今もなお、水面に映し出された銀髪美少女を見るたびにドキッとしてしまう。
だから、ボクの身体の寸評をくれたアユナちゃんに対して、ボクは無言と赤面しか返せなかった――。
でも何だろう、どっぷりお湯を湛えた湯船の中だから丸見えではないとは言え、裸の女の子が目の前にいるという状況でもこんなに落ち着いていられるのは――。
はっきり言う。申し訳ないけど、日本のアイドルとは格が違う。髪や目の彩りの違いもあるだろうけど、妖精独特の神秘性がある。こんなに可愛いエルフっ娘の裸を目の前にして緊張しない人は居ないと思う。
でも――ボクは、あまり緊張を感じなかった。
なぜだろう?
最初はね、“もしかしたら自分は女だったのかもしれない”とか、“身体だけでなく心もとうとう女の子になっちゃったのか”と思ってましたよ。まぁ、実際それが答えなのかもしれないけど、今は全肯定するのはやめておきましょう。ボクの尊厳が飛んでいっちゃうから。
冷静に考えると、やっぱりボクの中には男心があるのだから――それは確実。
では、どうして?
そこで出た仮説が、“日本にいたボクは、結婚していて子どもがいるのではないか”である。変な意味じゃなくて、普通に娘と一緒にお風呂に入っていたような気がするから。確か、3割くらいがパパと一緒にお風呂に入っていた気がする――勿論、小学生までだけどね!!
信憑性は低いかもしれない。
だから、証明する必要がある。
証明するためには、どうしても実験が必要となる。これは仕方がないこと、そう、そうだ、これは不可抗力というやつだ。確か、発明王のエジソンさんだって白熱電球を作るのに2万回もの実験をしたそうじゃないか。実験を繰り返せば――少しずつでも真実に近づいていけるんだ! 頑張れボク!!
「そんなことないよ、アユナちゃんもすぐに大きくなるよ! 毎日欠かさず触ってあげるといいみたいだよ? こんな感じで――」
ボクは自然の流れを装って、さりげなくアユナちゃんの板に手を伸ばす――。
「あっ――」
お巡りさん、こっちです!
こっちにアブナイ人が居ます!
ボクの脳内でサイレンが鳴り響く。
旅の恥は掻き捨てとは言うけど、異世界でもセクハラは犯罪だ!
アユナちゃんに迫っていた魔の手は、くるっとUターンする。
そして、自分の胸をマッサージし始めた――。
「毎日頑張ってモミモミするんだぞ~! 」
アユナちゃんの羨望の眼差しを受け止めつつ、小さな手を駆使し、笑いながら円運動を行う。真っ赤にゆで上がったボクの顔、自己犠牲という尊い代償を払った円運動――何とか無事に誤魔化せたかな?
「うん、分かった! リンネちゃん目指して毎日頑張る!! 」
ふぅ、セーフだ――。
いや、これってアウトじゃない!?
チャレンジ使います!
(ビデオ判定中――)
セーフでした!
自分の身体を触るのは問題ありません!!
と言いつつも、鼻血をつーっと流す自分が居た――。
その後は、健全に洗いっこ&湯船で遊んでから出ました。
★☆★
現在、小さな木製の食卓を囲んでのパーティ中。
と言っても、並ぶのは蒸かし芋だけですが。
明日からは隣町に泊まる予定だから、余ってる保存食を出してちょっと盛り上げちゃうかな。お風呂での罪悪感解消のために!
ボクは、エリ婆さんから貰ったパンを食卓に捧げる。
日本人的には、見るからにこれはフランスパンだね。でも、この硬さは――立派な武器だよ。グリズリーを殴れるよ、これで。
「リンネ様が血塗れで村に戻ってきたときはビックリしましたよ。まさかお一人でグリズリーを狩るとは、さすがは召喚されし勇者様です! 」
「ボクもびっくりしました。ボクの故郷では森でクマに追いかけられたら、一緒に歌いながらダンスをするのが普通のはずなんですが――」
アユナパパが笑顔だ。エルフ男性って、鼻が高くてイケメンなんですね!
「それに、こんな上等なパンまでくださって――本当に宜しいのですか? 」
「構いません、明日には町に行きますので。それに、お風呂まで入れさせていただきましたので! 」
アユナママの、恐縮し過ぎてあたふたしている顔が可愛い。華奢というか、食生活が厳しいんだろうね、手足がガリガリだよ――。でも、やっぱりエルフは美男美女ばかりだね! 凄い種族だ。何とか幸せになってほしいものだ。
★☆★
ボクたちは、その後もかなり遅い時間までたくさん話して笑いあった。生活は貧しいけど、明るくて素敵な家庭だと思う。
何だかとても懐かしい気がした。
やっぱりボクは日本に家族を残してきたのだろう。
帰りたい!
帰らなきゃいけない!
そんな気持ちが強く湧き出してきた。
明日は朝早く出発しよう、先に進むんだ!
早く強くなって、帰る方法を考えなきゃ!
アユナちゃんと一緒に寝ながら、涙が自然とボクの頬をぽろぽろ伝って流れて落ちた。
アユナママが、優しく抱き締めながら涙を拭いてくれたような気がした。そんな温かい夢を見た。
日本という国に産まれて――、
多分、男で――、
あとは――全く分からないんだ。
自分のことなのに、分からないんだ。
よく、“自分自身のことは分かっているようで分からない”なんて、お洒落なことを言う人がいるけど、全くもってそういう次元じゃない。自己記憶の消去――ぜひ、想像してほしい。これは、自分の過去を完全否定される以上に、とてつもなく空虚で、悲愴で、それでいて最も残酷な仕打ちなんだよ。
日本がどういう国だったのかは普通に覚えている。科学と経済、文化が発展した飽食の国。毎日、政治やスポーツ、芸能などのニュースが報道されていた。情報技術や交通網が発達し、アニメーション等のサブカルチャーは世界一だと言い切れる――それが、わが国日本だ。
そう言えば、電気の発明って凄いよね。こっちの世界だと魔法が発達しているからか、科学はイマイチ。化学電池でも作って製品化したら、もしかしてお金持ちになれる? 文明の利器、いわゆるオーパーツを持ち込むのは世界の秩序を乱す禁則事項か――きっと、神様に目をつけられちゃうよね。
そんなボクの曖昧模糊な記憶の中でも、“もしかしたら、自分は結婚していて、子どももいたんじゃないか?”という、モヤモヤした記憶がある、そんな気がする。
「リンネちゃん、胸が大きくない!? まだ12歳でしょ!? 」
そう、目の前には真っ裸のアユナちゃんが居るんだ。今のボクより1歳下、11歳らしい。エルフの11歳って、人間の11歳とどう違うのかな?
エルフが長寿というのは、勿論知っている。300歳まで生きるとか、800歳まで生きられるとか――ボクが知っている異世界情報はとってもテキトウで、無責任だ。ただ、エルフは貧乳、ダークエルフは巨乳――という情報は、真実かもしれない。
日本人の知識で、11歳の女の子がどの程度発育しているものかは、健全なボクには全く分からない。記憶喪失云々ではなく、一般常識として持ち合わせていない。
だけど、これはいくら何でも――板すぎるでしょ。
いや、こういう未発達なのが好きだという変わったご趣味の方々も日本には居たということは知っている。ロリコンと呼ばれる種族だ。ボクは違う。記憶が無いけど、きっと違うはず――。
因みに、こっちの世界に来てから、まだボクは自分自身の身体を観察したことがない。“食物超吸収”という神スキルのお陰でトイレに行かずに済んでいるというのが大きいんだけど、着替える時は相変わらず目を瞑ってしまう。今もなお、水面に映し出された銀髪美少女を見るたびにドキッとしてしまう。
だから、ボクの身体の寸評をくれたアユナちゃんに対して、ボクは無言と赤面しか返せなかった――。
でも何だろう、どっぷりお湯を湛えた湯船の中だから丸見えではないとは言え、裸の女の子が目の前にいるという状況でもこんなに落ち着いていられるのは――。
はっきり言う。申し訳ないけど、日本のアイドルとは格が違う。髪や目の彩りの違いもあるだろうけど、妖精独特の神秘性がある。こんなに可愛いエルフっ娘の裸を目の前にして緊張しない人は居ないと思う。
でも――ボクは、あまり緊張を感じなかった。
なぜだろう?
最初はね、“もしかしたら自分は女だったのかもしれない”とか、“身体だけでなく心もとうとう女の子になっちゃったのか”と思ってましたよ。まぁ、実際それが答えなのかもしれないけど、今は全肯定するのはやめておきましょう。ボクの尊厳が飛んでいっちゃうから。
冷静に考えると、やっぱりボクの中には男心があるのだから――それは確実。
では、どうして?
そこで出た仮説が、“日本にいたボクは、結婚していて子どもがいるのではないか”である。変な意味じゃなくて、普通に娘と一緒にお風呂に入っていたような気がするから。確か、3割くらいがパパと一緒にお風呂に入っていた気がする――勿論、小学生までだけどね!!
信憑性は低いかもしれない。
だから、証明する必要がある。
証明するためには、どうしても実験が必要となる。これは仕方がないこと、そう、そうだ、これは不可抗力というやつだ。確か、発明王のエジソンさんだって白熱電球を作るのに2万回もの実験をしたそうじゃないか。実験を繰り返せば――少しずつでも真実に近づいていけるんだ! 頑張れボク!!
「そんなことないよ、アユナちゃんもすぐに大きくなるよ! 毎日欠かさず触ってあげるといいみたいだよ? こんな感じで――」
ボクは自然の流れを装って、さりげなくアユナちゃんの板に手を伸ばす――。
「あっ――」
お巡りさん、こっちです!
こっちにアブナイ人が居ます!
ボクの脳内でサイレンが鳴り響く。
旅の恥は掻き捨てとは言うけど、異世界でもセクハラは犯罪だ!
アユナちゃんに迫っていた魔の手は、くるっとUターンする。
そして、自分の胸をマッサージし始めた――。
「毎日頑張ってモミモミするんだぞ~! 」
アユナちゃんの羨望の眼差しを受け止めつつ、小さな手を駆使し、笑いながら円運動を行う。真っ赤にゆで上がったボクの顔、自己犠牲という尊い代償を払った円運動――何とか無事に誤魔化せたかな?
「うん、分かった! リンネちゃん目指して毎日頑張る!! 」
ふぅ、セーフだ――。
いや、これってアウトじゃない!?
チャレンジ使います!
(ビデオ判定中――)
セーフでした!
自分の身体を触るのは問題ありません!!
と言いつつも、鼻血をつーっと流す自分が居た――。
その後は、健全に洗いっこ&湯船で遊んでから出ました。
★☆★
現在、小さな木製の食卓を囲んでのパーティ中。
と言っても、並ぶのは蒸かし芋だけですが。
明日からは隣町に泊まる予定だから、余ってる保存食を出してちょっと盛り上げちゃうかな。お風呂での罪悪感解消のために!
ボクは、エリ婆さんから貰ったパンを食卓に捧げる。
日本人的には、見るからにこれはフランスパンだね。でも、この硬さは――立派な武器だよ。グリズリーを殴れるよ、これで。
「リンネ様が血塗れで村に戻ってきたときはビックリしましたよ。まさかお一人でグリズリーを狩るとは、さすがは召喚されし勇者様です! 」
「ボクもびっくりしました。ボクの故郷では森でクマに追いかけられたら、一緒に歌いながらダンスをするのが普通のはずなんですが――」
アユナパパが笑顔だ。エルフ男性って、鼻が高くてイケメンなんですね!
「それに、こんな上等なパンまでくださって――本当に宜しいのですか? 」
「構いません、明日には町に行きますので。それに、お風呂まで入れさせていただきましたので! 」
アユナママの、恐縮し過ぎてあたふたしている顔が可愛い。華奢というか、食生活が厳しいんだろうね、手足がガリガリだよ――。でも、やっぱりエルフは美男美女ばかりだね! 凄い種族だ。何とか幸せになってほしいものだ。
★☆★
ボクたちは、その後もかなり遅い時間までたくさん話して笑いあった。生活は貧しいけど、明るくて素敵な家庭だと思う。
何だかとても懐かしい気がした。
やっぱりボクは日本に家族を残してきたのだろう。
帰りたい!
帰らなきゃいけない!
そんな気持ちが強く湧き出してきた。
明日は朝早く出発しよう、先に進むんだ!
早く強くなって、帰る方法を考えなきゃ!
アユナちゃんと一緒に寝ながら、涙が自然とボクの頬をぽろぽろ伝って流れて落ちた。
アユナママが、優しく抱き締めながら涙を拭いてくれたような気がした。そんな温かい夢を見た。
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